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クリオネ?
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#渡辺翔太
コアラと木の実
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数日後。
処置を終えた〇〇は――
当分の間、車椅子での移動になった。
「無理に歩くと、傷が開いちゃうからね」
看護師が優しく説明する。
「移動は必ず一緒に行くから、安心してね」
「……はい」
小さく頷く〇〇。
足の裏は、まだ痛む。
でもそれ以上に――
あの日の“怖さ”が、どこかに残っていた。
廊下。
車椅子を押されながら、ゆっくり進む。
「今日はリハビリ室行こうか」
「……はい」
でも、〇〇の視線は落ち着かない。
きょろ、と周りを見る。
「……どうしたの?」
看護師が優しく聞く。
「……あの」
少しだけ、言いにくそうに。
「……来て、ないですか」
看護師は一瞬だけ考えてから、やわらかく笑う。
「今日はまだだね」
「……そうですか」
それだけ言って、視線を落とす。
胸の奥が、少しざわつく。
“来るはず”って、思ってしまう自分がいる。
リハビリ室でも、
窓の外を見ても、
どこか落ち着かない。
その頃――
コン、コン。
病室のドアがノックされる。
「……失礼します」
入ってきたのは、
目黒蓮。
でも、ベッドは空っぽ。
「……あれ」
少しだけ焦る。
そのまま、廊下に出る。
「すみません、〇〇って……」
看護師に声をかける。
「あ、リハビリ室にいますよ」
「……ありがとうございます」
足早に向かう。
ドアの前で、一度止まる。
そっと中を覗くと――
車椅子に座る〇〇の姿。
その瞬間。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……」
あの日の傷。
裸足で走ったこと。
全部がよぎる。
でも――
〇〇は気づいていない。
少し不安そうな顔で、窓の外を見ている。
「……〇〇」
名前を呼ぶ。
はっと顔を上げる。
「……!」
その表情が、一瞬で変わる。
「……来た」
ぽつりとこぼれた言葉。
無意識の安心。
蓮の足が止まる。
「……待ってた?」
少しだけ、からかうように言う。
〇〇は少しだけ戸惑って――
「……別に」
でも、視線は逸らせない。
「……でも」
小さく、続ける。
「……来ると思ってました」
その言葉に、蓮の心臓が大きく鳴る。
「……そっか」
ゆっくり近づく。
「足、大丈夫?」
しゃがんで、目線を合わせる。
「……痛いですけど」
正直に言う。
「……でも」
少しだけ、間があって。
「……昨日より、平気です」
その言葉に、ほっと息をつく。
「無理しないで」
〇〇は、少しだけ頷く。
そして――
「……押してもらっても、いいですか」
蓮の動きが止まる。
「……え?」
「……車椅子」
少しだけ、言いにくそうに。
「……あなたが、いいです」
看護師が優しく微笑む。
「じゃあ、お願いしますね」
「……はい」
蓮は、ゆっくりとハンドルを握る。
「どこ行く?」
〇〇は少しだけ考えて――
「……海」
その一言。
蓮は、ふっと笑う。
「好きだな、ほんと」
〇〇は首を傾げる。
「……そうなんですか」
「うん」
ゆっくりと、車椅子を押す。
前とは違う距離。
でも――
確実に近くなっている関係。
「……ねえ」
〇〇が小さく呼ぶ。
「ん?」
「……なんで、優しいんですか」
蓮は、一瞬だけ考える。
「……好きだから、かな」
さらっと言う。
〇〇の動きが、止まる。
「……そういうの」
少しだけ、視線を逸らして。
「……困ります」
でも――
その頬は、ほんの少しだけ赤かった。
海へ続く道。
“知らないはずのふたり”が、
また少しだけ近づいていく。
コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく良かった……。車椅子に変わったことで二人の距離感がまた静かに動き始めたのが伝わってきた。特に「あなたが、いいです」って〇〇が蓮を選んだところ、無意識に信頼が芽生えてるんだなって感じられて胸が温かくなった。あと蓮が「好きだから」ってさらっと言うけど、その軽さが逆に重みを帯びてるんだよね。海へ続く道、この先どうなるんだろう……続きがすごく気になる。