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トシ子はこのやり取りを見ながら、頭痛でも感じているかの様に額をその手で覆いながら言うのであった。
「全く、相変わらず変わりゃあしないね、お前だけは…… 良いかい? 善悪、コユキ! このカイムは『答』の悪魔だってのは知っているだろう? あれだよ、炎の中で真実を話す悪魔なんだよ…… そしてもう一つの名前は、『欺(あざむき)』のカイム、つまりね、追い詰められない限り嘘しか言えない、そういう魔王なんだよ、はぁー、見ていてご覧な! さてカイムっ! 何でこんな嘘をついたんだいっ! 正直に言わなければ八つ裂きだよ! 早くお言いっ!」
カイムは瞬で返した。
「はいっ! アイツに命令されたのですよ! そうっ、えっとー、そうそうアイツですよ、が、ガミュギュンです! あの古代の悪魔にこう言わなければ殺す! 勿論、私の事では無く、坊ちゃんとコユキ様、更にはトシ子姐さんとご家族までをも…… そう脅されてしまって、皆さんを救うためには従うしか他に無かったんですよ…… ご理解ください…… エグッ、エグッ」(チラチラッ)
トシ子は座った目付きでカイムの瞳を覗き込んで言う。
「ちゃんと聞いていなかったのかい、カイム? 八つ裂きだってアタシは言った筈だよ? 残念だね…… サヨナラだ、ね!」
「はいっ、嘘です! 全部嘘ですっ! ガミュギュンとか会った事も無いですし、今まで皆に言って来た事も全部嘘ですよ? 弾喰らい達も生きているし、幸福寺の住所や電話番号だって知っていますともぉ! それが何です? 私は悪魔ですからねっ! 当然多少の、いいや多分に邪悪が勝っていますよ! そりゃそうでしょ? 悪魔なんですからねっ! 悪いんですか? 悪魔が邪悪だと? 責められなきゃいけないんですかぁ? へー、そうですかぁー、んじゃあ、責めれば良いじゃないですかぁ、でもね、私は楽しかったんですよ…… 北の魔王、いいや大魔王と名乗って魔獣たちに君臨する日々がね…… 今やこの地で従えた魔獣は千を越えましたよ? 数百の眷属を従えたら魔王、千を越えたら大魔王、二千を越えたら魔神ですよね…… トシ子っ! 私が望んではいけないのですか? 魔神を目指してはいけないのですかぁっ!」
トシ子婆ちゃんは無表情のままで答えた。
「悪くは無いよ…… 丁度今日中に二人の魔神が姿を消すからね…… カイム、アンタが魔神になりたいならそうすれば良いんじゃないかえ……」
カイムは顔を斜めにしながら訝(いぶか)しげに聞き返した。
「ん? 今日魔神が消える? 二柱(ふたはしら)じゃなくて二人? 二人って? 一体何の話、ってか誰です、その二人って?」
コユキと善悪は声を揃える。
「アタシだよ、今日死ぬんだ」
「僕チンだよ、今日死ぬんだ」
「え?」
そのまま一分ほど黙り込んでいたカイムが大声で叫んだのであった。
「そんなの嫌だぁーっ! だめだめだめだめぇーっ! 坊ちゃんとコユキイ! 死んじゃダメだぁっ!」
「やれやれ、相変わらず大馬鹿だねぇーアンタは、カイムや……」
それからしばらくの間、『答』と『欺』の悪魔である魔王、いいや北の大魔王カイムは、幼児の様に泣きじゃくり続けたのである。
嘘も本音も無く焦燥し切ったカイムに向けてコユキは言った。
「ありがとうね、アタシと善悪の為に泣いてくれてさ…… それでお願いが有るのよ! 他ならぬアタシ達二人が消えた後の世界の事なんだけどね、聞いてくれるかな?」
「え」
戸惑いながらもコクリと頷いたカイム、全く同じタイミングで虎大と竜也、弾喰らいとリボン、マッチも頷きを返したのである。