打撃技に留まらず、斬撃だろうが破裂スキルであろうが、その全てをわが身に受けた善悪和尚は恍惚の最中にあった。
恐らくパーティーメンバー達の最大攻撃の力強さを頼もしく感じて嬉しかったのでは無かろうか? リーダーとして、只々リーダーの務めとして!
しかし、密教の沙門、善悪の考えは愚かな私、観察者の予想とは全く違っていたのであった。
自分の痛みが仲間達の勝利につながる、そんな殊勝(しゅしょう)な考えはどこにもなく、只々親しい人たちから責められ続ける、それを嬉しいと感じてしまう、ちょっとだけ歪(イビツ)な性癖に溺れていただけだったのであったのだ。
「ふっふ~ん、あ、ああああぁ~、くっ、こ、これは、これで、これこれこれこれぇ! 来てる、来てるでござるよぉ! 来い来い来い来い、ん、来た来た来た来た来たぁ! はぁ~ん、これ! 来たぁ! ああああああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!」
うん、気持ち悪かった……
んでも、善悪の受けたダメージの九割だったっけか?
ああ、ハミルカルに反射した分も受け取るから十八割になるのかな?
を、受け取ってしまったバアルはこんな感じであった。
「痛った! ちょちょちょちょっ! オボオボオボぉ! 痛い痛い痛いぃ! 死ぬ死ぬ死ぬぅ! 止め止め止め止め止め止め止め! 死んじゃうぅぅぅ! 嫌嫌嫌! やだ! 止めて! きぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃ!」
変態な善悪が喜んでいるとしても、ノーマルな存在には痛みは苦痛でしかない、忌むべき存在に他ならなかったのである…… そりゃそうだ。
苦痛に悲鳴を上げているバアルに向けて、善悪をしばきながらアスタロトが言う。
「馬鹿め、『反射』は敵味方の区別なく全ての影響を反射するからこそ意味があるのだ、そこに区別とか指向性を持たせばスキルの完成度が失われるのは必定、本来なら攻撃者に跳ね返されるダメージがお前に返る事位気が付かなかったのか? 脳筋はおまえだったな、バアル?」
なるほど、そりゃそうだ。
良い感じで追い詰めているともいえるよね?
確かに反射なしで普通に攻撃を受ける場合の八割増しを耐えているバアルに比べて、善悪が受けているのは一割の三百六十分の一に過ぎない上に腰蓑の効果で防御力は数倍、我慢強さを現すガッツ迄数倍になっているのだから楽勝なのだろう。
だと言うのに仲間達の攻撃を回避して、早々と回復エリアに逃げ込む善悪。
ラマシュトゥの横でいつもの十分の一の速度でゆっくり回復してもらいながら肩で息をしている。
コユキが心配そうな表情を浮かべながら言う。
「ね、ねえ大丈夫なの善悪、体調おかしいとかだったら攻撃パターン変えるわよ、ねえ」
「へ? 何がでござる?」
キョトンとしている善悪にアスタロトの掛ける声にも不安が含まれていた。
「相乗効果で一万分の一以下になってるにしては辛そうじゃないか、いつもの特訓とは明らかに違うぞ善悪、一体どうしたんだよ?」
「ん? ああ、当たり所、かな? 良い所に入っちゃったとか? そんな感じでござるよ! 大丈夫大丈夫! 余裕でござる」
ニコニコといつも以上に大丈夫そうな発言を聞いても、まだ心配そうにしている仲間達にハッパをかける善悪。
「さあ、こうしている間に奴も回復したのでござるよ! 急ぐのでござる! 攻撃パターン、プサイ、続行でござるよ! 『エクスダブル』」
「う、うん」
「お、応…… よし、皆、善悪の指示だ、やるぞ!」
「「「「「「お、応」」」」」」
「……善悪様」
ラマシュトゥだけでなく他のメンバー達、勿論アスタロトやコユキもどこか釈然としない不安な表情であったが、善悪への攻撃が再開されると、そんな懸念を打ち払ったのは広間に響き渡る善悪自身の嬌声であった。
「オホォ~、これは又、ウゥゥゥ~ン、良いでござるよぉ~、最高だぁぁ~、もっとぉ、もっとぉでござるよぉ~」
コユキは善悪に『散弾連撃(コンティショット)』を打ち込みながらアスタロトに話し掛けた。
「大丈夫みたいね」
「そうだな、寧ろ(むしろ)嬉しそうだ」
言葉を交わす二人の目の前からは善悪の嬌声が、少し距離を置いた場所からは痛みを堪え切れないバアルの呻きが響いていたのである。
暫く(しばらく)して、先程と同じように仲間達の攻撃を器用に避けて、ラマシュトゥの元に戻ってしまう善悪。
つい今しがた迄、気持ち良さそうな声を上げていたと言うのに、一転肩処か上半身全てを使って荒い息に合わせた脈動をしながら額にべっとりと油汗を滴らせている善悪にラマシュトゥが心配そうな声を漏らす。
「ぜ、善悪様、もうお止め下さいませ、こんな、こんな……」
半泣きのラマシュトゥに右の掌(てのひら)を翳(かざ)して発言を抑止した善悪は態(わざ)とらしい程の大声で言った。
「ははん、うっかりラマシュトゥの可愛い顔を見に来てしまったのでござるよ、十八番目の人造の人間は僕チン大好きなキャラクターでござるから、つい、うっかり来ちゃった、でござるよ! んじゃ、作戦を続けるのでござるよぉ~、又ね、今後も頼むのでござる、ラマシュトゥ? ね!」
ラマシュトゥは下唇を噛み締めて言った、たった一言である。
「マラナ・タ」