そんな感じで、何やらおかしい善悪を皆で気持ち良ーくさせる筈がチョイチョイ休息、いいやハッキリ言おう、死に掛けて回復を受け続けるやり取りを繰り返す事、重ねる重ねて計六回目、アスタロトがコユキに言うのであった。
「なあ、コユキ! 善悪の体ってさ、何か緑っぽくないかな?」
コユキも目を剥いて答える。
「あら、本当だわね! なんだろう、ゴブリンっぽいわね? ってかゴブリン? あ、天邪鬼(あまのじゃく)の…… 『瓜子姫の生皮』…… それ着けてたのぉっ! ぜ、善悪ぅッ!」
コユキの声と同時に手首に巻いていた人間の生皮、『瓜子姫の生皮』を外した善悪は素直その物であった。
「うん、コレまで大丈夫とか言っていたでござろ? 実の所ね、本ー当はっ、痛くて痛くて苦しくて苦しくて堪らなかったのでござるよっ! 辛かったよぉ! んでも、そのお陰でバアルの馬鹿はここまでの苦しみが九割だと思っているのでござろ? 某(それがし)の知略が勝ったのでござるよぉ! やったぜ善悪、最高だぁ、で、ござるよぉ!」
コユキが大声で聞くのであった。
「どゆこと?」
善悪が胸を反らせながら答えるのである。
「あのね、馬謖(ばしょく)曰く、城を攻めるは下策、心を攻めるのが上策、そう言う事でござるよ! アイツ、バアルは九割の苦痛を受けていると思っていたのでござるが、実際は九割どころか一厘(いちりん)に満たないダメージであんなにギャーギャー喚いていたのでござるよ」
崩れた全身を再生させながら、まだ半壊している顔をこちらに向けて、あからさまにギョっとしているバアルを無視して説明を続ける善悪である。
「我輩はエクスダブル、ダメージを軽減するスキルを掛け続けていたのでござるよ♪ 自分では無く、他ならぬバアル本人にね♪」
? 皆の頭にハテナが浮かんでいたが、善悪は構わずに説明を続けたのである。
「それもバフとか遠隔のスキルでは無く、直接掛けていたのでござるよ、ほれ、オルクス君達がアイツに仕掛けた攻撃に紛れてアイツの腰に刺して来てくれた針を通してね!」
誇らしげに掲げたティザー銃から伸びたコードの先端は確かにバアルの腰辺りに向かって伸びていたのである。
漸く(ようやく)再生を八割方済ませたバアルが自分の腰からティザー銃のコードを引き抜いた後、善悪に向けて怨嗟(えんさ)に溢れる視線を向けて来たが、当の善悪は意も介さずに言葉を続けるのであった。
「バアル、ちみが苦しい苦しいと感じていた痛みはオリジナルの十万分の二十五、ほんの二毛五糸に過ぎないのでござるよ、今から三千六百倍の痛みと苦痛が襲うからね♪ 覚悟しろ! この馬鹿な弟めが!」
「ひっ! ひうぅっ!」
「『エクスダブル』今回は正真正銘、僕チンにバフを掛けたのでござる! みんな、最大攻撃を小生にお見舞いするでござるよ! さんはいっ!」
「あああ、り、『解除(リリース)』ぅ! 『因果混沌領域(カオスティックフィールド)』ぉ!」
我らが軍師善悪は無事に孟獲(もうかく)の、違った、バアルの心を折る事に成功したようである、良かった。
バアルがリフレクションを解除し、同時にアンチマジックフィールドに切り替えた瞬間、善悪の思念がコユキの中に流れ込んできたのである。
これが二人の間で『存在の絆』を通して行われた初めての交信であった。
『あー、テステステス、マイクのテスト中でござる、コユキ殿聞こえる?』
『ん、ああ、聞こえてるわよ、善悪! なに、何か用?』
『あいつ今さ、アンチマジック領域展開したでござろ?』
『うん、あのどんな魔力も通じない奴よね? どうしよっか? も一度アタシが肉移動で懲らしめてやろうか? ねえ、どう思う?』
『それなんだけどね、アイツのアンチマジックってさ、自分の魔力まで阻害できると思う? ねえ、どう? どうなのコユキ殿ぉ?』
『そりゃあアタシが踏んでやった時も、善悪が針でぶすぶすやっていた時も回復してたから~、自分の回復とか再生の魔力は例外なんじゃないのぉ? ってか何でそんなこと聞くの?』
『なんでって、そりゃアイツの魔力を持ってるからに決まってんじゃん!』
『あっ! アンタまさか? アイツにエクスダブル掛けるだけじゃなくて、アイツから…… 魔力奪って集めてたのぉ!』
『むふふふ、これぞ善悪のユニークスキル『持続可能魔力(エスディージーズ)』の応用でござるよぉ! どう格好良い? ねえねえ、格好良いでそ?』
『格好良い? かな…… んでもあんた無理しすぎよっ! 猛省しなさいよ! 全く!』
『ははっ! りょっ! んじゃお尻辺りにティザー銃の針刺して魔力送り込むよ? いいね?』
『ああ、了解、そいつをカギ棒に集めてあのガキ切ってやればいいのね? 分かったわぁ、んじゃね、オヴァー』
『うん、格好良いスキル名つけてやっちゃってよぉ、んじゃ、頼むねん、オヴァー』
ここ迄のやり取り、一秒弱……