もう少しで二匹の子どもたちが乳離れするという時期、群れのレッド・サークルが騒がしくなってきました。小競り合いが絶えず起きます。メスの数が増えすぎたのです。
ワオキツネザルの一つの群れのメスの数は六匹が限度。しかし、今は八匹もいます。少なくとも二匹は追い出さねばいけません。
アウッ!
声がして、アリコの背が薄く引き裂かれました。そばにいたミスティの視線が鋭くなります。
「ラシュア…」まるでそう言ったかのように唸ったのは、アリコか。ミスティか。
アリコを引き裂き、襲ったのはこの群れを先導してきたメス、ラシュアです。誰を群れから追い出すかはメスたちが決めますが、ラシュアは自分で、「アリコを追い出す。アリコだけが血縁が無い。」と決めたのです。
ワオキツネザルは、群れのメスの数が多くなると血縁が遠い者から順に追い出していく習性があります。アリコは、そのターゲットにされたのです。
アリコは立ち上がって威嚇します。口を大きく開け、鋭い犬歯を見せつけますが、ラシュアの方にメスたちはよっていきました。総出でアリコを追い出すつもりです。
ラシュアが追い出しにかかり、アリコが必死に抵抗する中、ミスティは判断を迫られていました。
アリコには、我が子を救ってくれた恩があります。しかし、群れから出たらもう、戻ることはできないのです。また、アリコの味方をしても、喧嘩はメスの数が物を言います。負けてしまった場合、一緒にレッド・サークルから出なければいけませんし、運よくレッド・サークルに残れたとしてもラシュアたちに見下され、肩身が狭い思いをするだけです。
つまり、ミスティにとって一番楽なのはラシュアの味方になり、アリコを追い出すこと。
しかし、ミスティは決してアリコを追い出したりはしませんでした。
アリコがラシュア率いる敵たちに囲まれ、じりじりと縄張りの外に追い詰められていたその時です。なんとミスティが木から飛び降りてきました。敵とアリコの間に降り立つと、そのまま動きを止めることなく突進していきました。思わぬ不意打ちに、ラシュアたちは散り散りになるしかありません。
その間にアリコは逃げることができました。右耳を真っ赤に染めながら。
アリコが逃げたのは、レッド・サークルの外。アリコはついに追われてしまったのです。
名残惜しそうに後ろを振り返っても、誰もついては来ませんでした。ただ、アリコのことなど忘れてしまったかのように座って食事をするラシュアたちの姿があるばかりでした。
とぼとぼと元いた群れ、レッド・サークルをあとにするアリコ。真っ赤に染まった右耳が、だらりと下がっています。
タタッタタッタタッ
軽い足音が、アリコを追いかけてきました。背中に背負っている我が子がぎゅうっとアリコの背中を強く握った。
一体何事かと言わんばかりにアリコが後ろを振り返った。その目に映ったのは、こちらを見据えて駆けてくるミスティの姿があった。
アリコは驚いてじっとミスティを見つめた。ミスティがゆらりと尻尾をふる。まるで、「遅れてごめん。一緒に行こう。」と言うようでした。
そしてアリコとミスティ、そしてそれぞれの子供といっしょに歩きだしました。
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