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Anti Wonderland✴︎by Alice
【導きの章✴︎第1話】
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ…
空虚な立方体の部屋に秒針が時間を刻む音だけが響く。なにもないその部屋に似合いもしない一人の少女が倒れている。
「…ッ……。…、あ、れ?私…」
少女が目を覚ますと空虚な立方体は時を刻む時計台へと変化した。鏡に映ったもう一つの部屋へ瞬時に入れ替わったように。
現れた窓から少しずつ日の光が差し、少女の姿がはっきりと確認できるようになる。
ブロンドというには少しくすんだ金の髪に、海の向こうのお姫様のような服。
碧いその瞳からは勇気と強い夢を感じられる。
困惑と不安の中、その少女は体を起こした。
「ややや!もう間も無く兵士の点呼が始まってしまいます!!早く行かなければ!」
神秘的な静寂を断ち切るように何処からか白ウサギが複数の時計を抱えて飛び出した。
いや…ウサギと言えるのは、その走るときのみで時計を確認したり、どっちかな…っと迷っている姿はウサギの耳を生やした人間のコスプレ男子みたい。
慌ただしく尻尾や耳を動かす彼は急がなきゃと言う割に道に迷っているようだ。
少女は不可思議な状況に驚きながらも、その白ウサギを追いかけた。
「ね、ねぇ!ここって何処なの?」
「何処も何もありません!遅刻したら首を刎ねられますよ!?」
「首…?あ、貴方お名前は…?」
「そんなことおっしゃってる場合ではありませんって!」
「でも、私!気づいたらここにいて!」
ドアを開けたり、くぐったり。梯子を登ったり、飛び越えたり。もはや通路とは言いにくい道での会話は、できているようで噛み合ってない。
少女は戻れなかったらという不安とともに、今白ウサギの少年を見失ったらニ度とチャンスはないと感じられ走り続ける。
やがて鏡やドアが沢山ある大広間に出た。時計台の最上階だろうか?
どことなくカチカチと針の音が響き、なんとなくこの場所の価値の値が大きく膨らむ。
大広間…というのは少し大袈裟だったかもしれないが、そう言わざるを得ない風貌だ。
ここでも白ウサギは慌てふためきながらあっちだっけ、こっちだっけと時計を見つめる。よく見るとその時計一つ一つの時間は異なっており針が狂っているようにも見えた。
「あ、分かったわ!名前を聞く前に自分から名乗れってやつよね!私の名はL__…」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
少女が名乗ろうとすると、今度は時計を両手に持ち大声で叫んだ。
「ワンダーランドの針が動いてます!も、もしやアナタ、新しい「アリス」でしたか!」
と、またもや訳もわからないことを言い出す。
「え、あ、アリス?アリスってあのUKの?」
「ユーケーだかホッケーだか知りませんが、アリスは「アリス」ですよ!なんでもっと早くおっしゃらなかったのか!」
「私はアリスじゃ…」
「いーえ!アナタは「74番目のアリス」に決まってます!見て下さいこの時計を!」
ぴょんぴょんと足を交互に跳ね、少女の顔前に先程の叫んだ時計を見せつけてきた。長針のない特別綺麗な懐中時計。
「この秒針!2時を指しているでしょう?ワンダーランドの針はいらっしゃったアリスの人数を刻むんです!」
「じゃ、じゃあ2番目じゃないの…?」
「「2番目のアリス」はとうの昔に失敗してますよ、それにもう6周目です!…これ、常識ですよ?」
少女には通用しないジョウシキを流暢に語り出す。白ウサギは何度もワンダーランドの時計…?のガラスを突くように爪で音を鳴らしながら確認した。狂っている時計をミリ単位でズレてないか確かめているようだった。時計が指す時間は全て狂っているというのに。
「ヨホホホホッ!やはり、やっぱりそうです!…新しい…、「アリス」ですね」
喜んでいるのか、残念なのか分からない含みのある声色で「アリス」という単語を繰り返す。
多分アリスというのは19世紀に書かれたお伽話のことを指しているのだろう。
少女…もとい、「アリス」は自分自身がその物語の登場人物になっているのだと察した。一体なんのテーマパークに迷い込んだのだろうと。
「そうですそうです!兵士の点呼!あと何時?あぁあとソウジ!」
「掃除…?それは時間じゃないんじゃ…」
「さよなら「アリス」!またどこかで、!」
「え、ちょ、ちょっと!白ウサギさん!あなたのお名前は!」
バタンッッ!
飛び跳ねて入ったのは可愛らしい白樺のドア。
「アリス」もドアノブを捻ってみたがびくともしない。まるでドアノブ自体も木材で、金属による”捻り”なんていう動作が元からないような。
「あれ…?」
と声をもらし、確かにここに入ったのにと困惑する。追いかけっこの終点が「74番目のアリス」という設定だけだったから少し不貞腐れてしまった。
「私の名は《ワビィット・クロック》です!役名だと「白ウサギ♢」。」
どこからか白ウサギの声が聞こえる。アリスは白樺のドアに耳を当てた。
「安易に名前を出さないで下さいねっ!首を刎ねられたら…もー!たまりません!」
いや、ドアからじゃない。アリスは他の扉や鏡を、大広間全体を見渡す。
すると対称的な位置に木材の枠でできた鏡…白い尻尾が見えた気がした。かと思えば、床から三段目くらいのドアが換気のように開いては閉じる。鏡や扉を移動しているようだ。カタッと音がしたり、見える一部はアニメーションのように2Dであったり、その性質も多様。右へ左へ視線を動かし上よ下よと音を拾う。
「さぁ「アリス」、役に従って下さい!アナタはここから正解のトビラを開けて私を見つけ、外に出るのです!」
はっきり見える位置の鏡に現れ、白ウサギは叫んだ。尻尾を振り、ウサギの姿で駆け回る。
「アリス」は不思議な状況に、困惑と…少しばかりの好奇心で足が動いていた。