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次の日の午前中、ピエールさんが来たというので客室に向かった。
しかしそこで私が見たのは、想像もしていない光景だった……。
「お越し頂き、ありがとうございます――
……って、ええぇっ!?」
私の目の前にいたのはピエールさん。
しかしその横には、またピエールさんがいた。
何を言っているのか混乱してきたけど、何とピエールさんが二人いたのだ!
二人は同時にソファーから立ち上がり、私に挨拶をしてくる。
「アイナ様、ご用命を頂きありがとうゴザイマス。
突然で申し訳ないのデスが、今日は私の弟を連れてまいりマシタ」
「あ、弟さんですか!」
ピエールさんの言葉に冷静さを取り戻した私は、もう一人のピエールさんを改めて眺めてみる。
確かによく見れば、ピエールさんとは微妙に違う。それに、少しだけ若いようだ。
双子ではなく、年の離れた弟なのだろう。
「初めまして、アイナ様。
ご紹介に預かりました私、ピエール商会のポエール・ミラ・ラシャスと申します。
以後、お見知りおきのほどお願いいたします」
「こちらこそ初めまして。錬金術師のアイナ・バートランド・クリスティアです」
何か違和感がある……とは思ったものの、その理由はすぐに分かった。
外見がピエールさんに似ているのに、ポエールさんの喋り方は普通なのだ。
そんなことを思いながら着席を促して、私もソファーに座る。
まず口を開いたのは、ピエールさんだった。
「実はアイナ様の担当にポエールを付けようと思うのデスが、いかがデショウ?」
「え? 別に構いませんけど――」
さすがにピエールさんは、ピエール商会のトップだもんね。
王様の依頼で私の面倒を見てくれていたとはいえ、ずっと見ているわけにもいかないだろうし。
「ふむふむ、アイナ様。お考えは分かりマスゾ。
私、ピエールが担当から外れるのは心外だ――そうお思いなのデショウ?」
「え?」
「私としても、アイナ様の可能性には魅力を感じているのデス。
何といっても、今をときめく実力派の錬金術師様デスカラ。そうそう、このたびはSランクへの昇格、おめでとうゴザイマス」
「おめでとうございます。
こちらは私共から、ささやかながら贈り物でございます」
そう言いながら、ポエールさんは丁寧に包まれた箱をひとつ手渡してくれた。
「あ、どうも……ありがとうございます。
それにしても、そんな話まで届いているんですね」
「もちろんデストモ!
先ほども言いマシタが、私共としては末永くアイナ様と交流を持っていたい、そう思うわけでゴザイマス」
「あはは……。そう言って頂けると嬉しいです」
「そこでデスナ!
その体制作りのためにも、これからはアイナ様のことをポエールに任せようと思ったのデス!
本来でしたら、私がずっと担当したかったのデスガ……!」
「兄はピエール商会の中では絶対的な力を持っていますが、どうしてもフットワークが重くなることがあるんです。
それでこのたび、私に担当を委譲しようということになったのです」
「なるほど」
「ポエールはこう見えて、なかなかの実力者。
そして、将来的にはある野望も持っているのデス」
「野望、ですか?」
「はい。兄はヴェルダクレス王国を中心に基盤を築き、大商人として名を馳せています。
私も兄のように、ポエール商会を立ち上げたいのです!」
「おぉ……!」
「いずれ、将来的にはピエール商会の強力なライバルになることデショウ。
それゆえ、アイナ様の担当を委譲するのは誠に――
……いや、本気で勘弁|被《こうむ》りたかったのデスが、ここは兄として! 涙を呑むことにしたのデス!」
「はぁ……。そこまで期待して頂きまして、ありがとうございます」
「こちらの都合で申し訳ないのですが、末永くよろしくお願いいたします。
私はまだピエール商会に所属しておりますが、ポエール商会を立ち上げた際にはぜひとも引き続き……」
「分かりました。ピエールさんがそれで良ければ、私としては問題ありません」
「フゥ……。
私もかなり悩みマシタが…、ここは良しといたしマショウ!」
「アイナ様、兄は2週間くらいずっと悩んでいたんですよ」
……それはずいぶん悩んで頂けたことで……。
「まぁ、何かあればピエールさんに相談しても良いんですよね? 三人で仲良くやっていきましょう」
「ははは……。噂通り、お優しい方ですね」
「期待を裏切らぬように頑張るのダゾ!」
ピエールさんは、ポエールさんを激励するように言った。
何だかこの距離感、ちょっと羨ましいかな? 家族の距離感っていうか……私、この世界に家族はいないからね。
「――さて、アイナ様。早速ですが、ご依頼のものをお持ちしました」
そう言いながら、ポエールさんは筒状に丸めた大きな紙を取り出した。
それを紐解きながら、テーブルの上に広げる。
「あ、このお屋敷の見取り図ですね」
「アイナ様、この物件で何か不備などがゴザイマシタカ?」
「そういうわけでは無いのですが、用途不明の鍵を見つけまして。
もしかしたら、このお屋敷に隠された部屋なんかがあるのかな、って思ったんです」
「ほほう……。その鍵とやらは当方では存じ上げマセンデシタが、どちらで手に入れたのデスカ?」
「書斎の本の中に隠されていたんです。
……あ、そうそう。それも聞きたかったんですけど、書斎の本って、どこかから持ってきたものなんですか?」
「イエ、あの本は元々この屋敷にあったものでゴザイマス。
アイナ様のお役に立てればと残しておいたのデスガ――」
ふむふむ。気持ちはありがたいけど、何の興味も出ない本ばかりでした!
……というのは内緒にしておいてっと。
「ありがとうございます、いろいろと参考にさせて頂きますね。
そうですか、元々あった本でしたか……」
となると、やっぱりあの鍵はこのお屋敷の前の持ち主のものだったということになるのかな?
「ふーむ……。
そういう観点で見てみますと、特に該当するような部屋はありませんね……」
ポエールさんは見取り図の隅から隅までを見て、そう呟いた。
「んー……。ところでこのお屋敷の前の持ち主って、どういう方だったんですか?」
「こちらは、とある貴族の方が住んでいらっしゃいマシタ。
名前は……調べればすぐに分かるのでお教えいたしマスト、ガナラ・ダグザ・グランベルという方でゴザイマス」
「……グランベル? グランベル公爵の……親戚?」
「ハイ、公爵様の弟君でゴザイマス。
身体を壊されて、空気の良いところに引っ越されたと伺ってオリマス」
「なるほど……」
思いがけず知った名前が出てきたけど、グランベル公爵とはまだ面識が無いし、特に重要なポイントでも無さそうかな?
それにしても、『公爵の弟』が残していった鍵かぁ……。
グランベル公爵とはそのうち会うことになるだろうけど、これって多分、話には気軽に出さない方が良いよね。
変な陰謀とかに巻き込まれても嫌だし……。
「うーん……。
思いがけず話が大きくなりそうなので、この鍵のことは秘密でお願いしますね」
「かしこまりマシタ」
「私も承知いたしました」
……とは約束してくれたものの、どれくらい秘密にしてくれるかは実際のところ分からないよね。
自然な流れで喋っちゃったけど、ちょっと迂闊だったかな……。
少し後悔をしながらしばらく話をしたあと、この場は一旦解散ということになった。
ピエールさんは時間が無いそうで先に帰ってしまい、ポエールさんはクラリスさんと来客用の食器のことで話すことになった。
そんなわけで、私はそこでお役御免に。
少し疲れたし、もう休んじゃおうかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻ってベッドで少し横になったあと、ポエールさんからもらった箱を開けてみることにした。
この箱は、Sランク昇格のお祝いとして受け取っていたものだ。
……大商人たちからのプレゼント!
その響き自体、もう期待せざるを得ないよね!
そう思いながら箱を開けてみると、そこには線の細いブレスレットが1つ入っていた。
あまり主張しない感じのデザインだから、今使っているブレスレットと合わせて使っても問題は無さそうだ。
「……ん?」
箱の中を改めて見てみると、小さなメッセージカードが入っていた。
そこには簡単なお祝いと、鑑定で調べるようにとコメントが書かれている。
鑑定しろだなんて書くくらいなら、最初から結果を書いてくれても良いのでは……とは思ったものの、これはこれで、ちょっとしたお茶目なのだろう。
……まぁ乗ってあげましょう。それじゃ、かんてーっ。
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【ブレスレット(C+級)】
一般的な装身具
※付与効果:情報操作Lv20
※錬金効果:光魔法『クロック』使用可
※追加効果:魔力が0.1%増加する
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――おぉ!?
錬金効果に魔法が付いた、とっても良さげなものだった!!
C+級っていうのが地味に気になるけど、大体はこんなものだよね。
でも、それよりも何より、使える魔法が増えるっていうのは単純に嬉しいな♪