テラーノベル
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更新遅れてごめんなさ〜〜い!!
帝国主義を揶揄する描写がございますが、あくまでもジョークとしてお愉しみくださいませ。
「マスター、バノックバーンを一杯」
穏やかなジャズが流れる、洒落たBar。
カウンター席についたイギリスは、一杯のカクテルを頼んだ。
あたりを見回せど人は殆どおらず、イギリスは久々に羽を伸ばせるような気持ちである。
しばらくすると、ことり、とイギリスの目の前に、トマト色のカクテルが置かれる。
「ふふ、待ってました」
ここは、イギリスお気に入りの酒場。イギリスは、隠れ家のようなこの店の常連だった。
華の休日前夜である今ぐらい、少しばかり羽目を外しても良いだろう。
「今週は、色々な事がありましたし」
先週はバース誘致剤を盛られ、 二日前には日本がアメリカに襲われた。
一方のイギリスはまだ、ヒートを経験していない。
平日中ずっとヒートが来なかったということは、今週のヒートは休日、つまり今週は潔白なままでいられるだろう。
「私の豪運に、乾杯!」
こくりと飲み干したカクテルは、まさしく甘い、勝利の味がした。
──はずだった。
カランコロン…♪
ドアベルが軽快に鳴り、誰かが店にやってくる。
「Bonjour, 遊びに来たよ、マスター」
「──は?」
ここにいるはずのない男の声に、ここで聞くはずのない例の挨拶。
憎らしいほどに整った顔に、くらりと脳にしみる甘い香水の香り。
現れたのは──永遠のライバル、フランスだった。
「はっ……?フランスっ!?」
「あれ、イギリスじゃん。Bonjour♡」
がたり、と音を立てて立ち上がったイギリス。
コートを脱いで、洒落たベレー帽を外したフランスが、ぱっと華やぐような笑みを浮かべる。
しばらくして現状を理解したイギリスは、ずーんと落ち込むと、わなわなと震え始めた。
「うそだ……ここは私の楽園なのに……なぜこんなカエル野郎と……」
「何だよ、つれないなぁ」
フランスのような、うるさ、ではなく派手めの男が、このような地味な店を好むとは到底思えなかったのに。
よりにもよって此奴と鉢合わせするとは……と、頭を抱えて呻くイギリス。
一方のフランスは、なんと、イギリスの隣に当然のように座る。
「……あの」
「ん?」
「なぜ私の隣に座るんですか」
「駄目なの?」
「逆に良いって言うと思いました?」
「Oui, bien sûr♡」
カウンターに肘を突き、手の上に顎を乗せ、こてりと首を傾げて微笑む美丈夫。
美の神アフロディーテすらも嫉妬しそうなほどに整ったかんばせを綻ばせ、さも当然と言わんばかりに頷く。
「それともなに?僕が隣だと緊張する?」
「は?」
「別に惚れてくれても構わないって、1763年からずっと言ってるんだけど」
するりとイギリスの手を取ると、フランスはその甲に唇を寄せる。
上目遣いでイギリスを見やり、夜伽中のような囁き声で愛を語る。
その小悪魔的行動は、きっと誰しもが見惚れ、そして誰しもを従わせてしまうだろう。
──ただし、イギリスを除いて。
「はぁぁぁぁ……💢」
「どうしたの、ため息なんかついて」
そう、イギリスを除いて、である。
この男、決して侮るなかれ。これでも数世紀前は世界を席巻する大帝国だったのである。
ハニトラなんて引っ掛かるはずもなく、むしろされたらやり返す程の強者だったのである。
フランスに取られた手を引き抜くと、馬鹿にしたような笑みを浮かべて、手をひらひらと振ってみせた。
「ああお構いなく。貴方のカタツムリレベルの知性に、ほとほと愛想が尽きただけですので」
「あ?」
「はい?」
笑みの形を浮かべたまま、黒いオーラを立ち上らせるヨーロッパ二国。
フランスが纏っていた甘い雰囲気は四散し、もはや何かが爆散してもおかしくないほどの険悪ムードが漂った。
「やはりエスカルゴばかり口にしているからではありませんか?脳みそも軟体動物以下に落ちぶれてしまうなんて嘆かわしいですねぇ〜?」
「三枚も舌があるのに、どれ一つとして料理のために働かないメシマズ大国は黙ってくれる?ああそっか、君の舌は欠陥品だから止まらないのか!それは配慮してなかったなぁごめんねぇ〜?」
「あらご存知ないのですか?ロンドンは今や美食の都市として有名なのですよ?そんなことも知らないなんて、まさに井の中の蛙ですねぇ〜?」
「いや知ってるよ?ロンドンの美味しいとか言うディナー、挙げてみよっか?インドカレーでしょ、エジプトコシャリでしょ、北京ダックでしょ、あれ?全部植民地料理じゃん!おっかしいなぁ〜?」
「はっ、負け惜しみですか?第二次百年戦争は私の圧勝でしたものね!あーあ、手加減して差し上げようかと思ったのに、貴方ったら本当に弱いんだから。そうそう、覚えてらっしゃいます?1759年。敗北の味は如何でしたかぁ〜?」
「うーわ、これだからブリカスは。忘れちゃったの?君がドヤ顔出来るのは、僕がファショダを譲ってあげたからなの。分かる?分かるかなぁこの僕の寛大さ。君が植民地帝国になれたのは、僕のお・か・げなの、忘れちゃったのかなぁ〜?」
「貴方こそすっかりお忘れのようで。貴方が今こうして減らず口を叩けるのも、あの時、白旗フランスを私が助けて差し上げたからなのに。分かります?分かりますかねぇこの私の偉大さ。貴方がただのトリコロールに戻れたのは、私のお・か・げなの、忘れないで頂きたいですねぇ〜?」
「はぁ?別に君んとこじゃなくても昔の僕は生き延びれたよ?それに君さぁ、敵だからって僕んとこの船、沈めたよねぇ〜?」
「は?」
「あ?」
互いの視線が絡み合い、バチバチと火花が散る。
フランスはイギリスの顎をつらまえ、イギリスもフランスの襟元を掴み上げた。
今にも唇が触れ合いそうなほどに接近して、数百年前にすら遡る相手の行動について、詳細に罵倒し合うのである。
どんぐりの背比べに等しい、見苦しい言い争いを耳にしたその場の者たちは、こう思った。
いや、お前ら仲いいだろ、と。
「……というか、邪魔なんですけど。退きなさいよ」
「そっちこそ。僕の襟首、離してくんない?ああなるほど、僕と離れがたいってことね」
「は?貴方こそ、私の高貴なる体に触れないで頂けます?」
ようやく我に返った二人が、一時休戦したのか、互いを睨みつけながら体を離す。
そして、幾分か温くなってしまったカクテルに口をつけ、二人同時に一気に煽った。
カンッ、とテーブルに飲み干したカップを置く瞬間さえ被るのである。もう救いようがない。
「そういえばイギリス、君さっきから顔赤いけど、もう酔っぱらっちゃった?あはっ、酒ザコ〜!」
「貴方こそ真っ赤ですよ?シャンパンの国のくせに、アルコール分解能力さえ低いんですね〜!」
再び睨み合う両者。しかしその頬は、彼らの言葉通り赤く染まっている。
酒のせいか、言い争いのせいか。それとも何か、別の要因か。
体はゆだるようにぐらぐらと火照り、呼吸は意図せず荒くなっていく。
「…はッ♡……なんか…暑くないですか」
茹でられるような灼熱に、イギリスは第二ボタンまでくつろげた。
鎖骨。首筋。滑らかな肌。
顰められた眉に、仄かに赤らむまろい頬。
「ぁ♡はぁ……ッ♡ん、ッ♡」
ヒートだ。初ヒートがやって来た。
しかしイギリスは、ここで痛恨のミスを犯す。
酔いが回ったイギリスは、人生初の発情期に気づけなかったのだ。
そして更に、致命的なミスを犯す──ヒートにあてられたフランスの瞳に、ハートマークが浮かび上がったことにも、気づけなかったのである。
「……ッ♡」
フランスは確かに聞いたのだ、悪魔の囁き声を。
食べてしまえ、噛みついてしまえと、あまりにも危うい欲望の声を。
生意気ばかりの口を塞いで、欲を煽る体に触れて、彼のすべてを暴いたら。
この腹の立つ想い人は、一体どんな声で啼くのだろう───?
「……更年期じゃない?」
「は?ぶっ飛ばしますよ」
ぐっと、自分の中の何かが熱を持ちそうになり、フランスは慌てて目をそらした。
ぞんざいに吐き捨てて、再び酒を流し込む。
その間にも、我慢できないイギリスは、着込んでいた上着に手をかけた。
「はぁ……♡はっ……♡」
「でもほんとに暑そうだね、脱がしたげよっか?」
「ッ♡自分で、できますけど?」
「とか言って、めっちゃ絡まってるよ」
「余計な、お世話ですが?…くッ……♡」
どくどくと心臓が波打って、泣きたくないのに目が潤み、考えたくないのに体が疼く。
何故か体に力が入らなくて、上着を脱ごうとしても絡まってしまう。
?を浮かべながらもがくイギリスに、見かねたフランスが手を伸ばした。
「ああもう、ほらこっち!手通して……」
「──んッ♡」
時が、止まった。
フランスの指先が背をなぞった瞬間、イギリスの口からまろびでた甘い声。
鼻にかかった猫なで声に、驚いて口を塞ぐイギリスと、ぴしりと固まるフランス。
「ちょ……急に触んないでくださいよ!!」
赤ら顔をさらに紅潮させて、イギリスは噛み付くように叫んだ。
すると我に返ったフランスも、再三の悪口の応酬に応じるしかない。
「は?なに?僕が悪いの?」
「ええそうですね!貴方が悪いんですよ!貴方のスキンシップが多すぎるのがいけないんです!」
「はぁっ!?あのさぁ、それを言ったらイギリスの方が悪いんだからね!?君がえろいのが悪いの!分かる?」
「ちょっと近づかないでくれます!?貴方、顔が良すぎてムカつくので!」
しかし今回ばかりは、当初の罵り合いとは趣が変わっていた。
もう色々台無しのフランスに、迫りよるフランスの胸板を押し返すイギリス。
「君も美人だよ!黙ってればね!皮肉な笑みも可愛いけどね!」
「貴方に言われても嫌味にしか聞こえないんですけど!?その色気どうにかなりません?赤面したらどう責任とってくれるんですか!?」
「色気?君が言う!?さっきから胸元開けて、僕の忍耐力試してるのに?」
「ボタン開けただけですけど!?ほんと、貴方ってぎゃーぎゃー喧しいですね!!」
「君はわかってないんだよ!!男は狼なの!わかる?てか分かれよ!!」
「私も男なんですけど!?」
お分かりいただけただろうか。
この遠回りな称賛の嵐を。
「いーや、分かってない!イギリスは何にも分かってない!どうせヴァージンなんでしょ?そりゃ分かんないよ!!」
「はぁぁっ!?違いますけど!?処女王と名高いエリザベス1世も、愛人多かったんですからね?」
「愛の国フランスに勝てるとでも?僕んとこの出生率凄いんだからね?てかアンリ4世とか愛人3桁超えてるんだからね?」
互いの据わった目に、愛のマークが揺らいでいる。
呼気に混ざる欲情の色に、どくどくと高鳴る心臓の音、ぞくりと走る快の痺れ。
変なプライドが邪魔をして、引くに引けないイギリスは、挑発的な笑みを浮かべた。
「じゃあ、どっちが上か確かめてみます?腰抜けになっても知りませんけどね!」
「ふーん、いいけど?……受けて立つ」
「あ、ちょ、」
ゆっくりと立ち上がったフランスは、ゆるゆると唇の端を持ち上げて、左手でイギリスの手をするりと取った。
そして右手をイギリスの腰に回すと、ぐっと持ち上げて強引に立たせる。
よろめいたイギリスをものともせずに抱きとめて、千鳥足に近い彼を優雅にエスコートする様は、流石と言わざるを得まい。
「いやあの、じょ、ジョー……」
「いやぁまさか、ジョークですよ、とか言わないよね?誇り高き大英帝国に二言はないもんね?」
「あ、や、そのっ……」
「どっちが上か確かめるんだっけ?まあ、確かめるまでもないと思うけど。僕のこと、腰抜けにしてくれるって言ったよね」
まるで、火の中に投げ込んだルビーのような瞳。
情欲に燃え、イギリスをとろとろに溶かしてしまいそうな……
「その言葉、後悔するなよ?」
低いテノールボイスに鼓膜を打たれて、イギリスは短く息を呑むしか無かった。
コメント
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多忙すぎて自分の小説書けない中、じゃんぬさんのお話が私の心の支えです...このシリーズまじでTERROR界で一番大好きです✨️💖 英受けと日受け大好物すぎるので本当にもう生きててくれてありがとうございます本当
じゃんぬさん...言葉のチョイスうますぎませんか...?活動応援してます‼︎
フライギ編ものすごく楽しみにしてました!更新感謝です!! お互いを理解し合っているからこその痴話喧嘩大好きですッ!✨