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第弐幕 東京絵巻東京進出
御子柴聖 十七歳
高速道路を乗り継ぎ、京都から東京に向かっていた。
車の窓から流れる風景を黙って見つめていると、京都を出たのだと実感する。
御子柴家にいた時でも外に出れたのは、日が暮れてからの夜だったしな…。
外に出て、学校に通うのは初めてで緊張しちゃう…。
御子柴家に居た時は屋敷に家庭教師が来て、あたしに授業みたいな事をしてくれてたけど、いつの間にか来なくなってたしな。
学校に行かなくても良かったしね、学業よりも任務の方が大事だったし。
御子柴家の教育が異常だと知る事はなかった。
誰も教えてくれないし、誰もあたしの事を気にかけてくれる事もなかったから。
キラッと光る蓮の耳に付けられたピアスを見て、ふと昔の事を思い出した。
***
まだ御子柴家に隔離されていた頃、楓を追い出された悲しみと反発心で耳に穴を開けていた。
ブチッ。
細い針で耳に何回も針を刺し、針を伝って流れ落ちる血を眺めては針を再び刺す。
ジンジンと痛む耳、針が刺さったままの状態の耳を見ても、御子柴家の人達、使用人の人達は何も言わない。
ただ、妖を滅してくれれば良いのだから。
だけど、この頃のあたしは…。
この耳を見たら「御子柴家の人間として、相応しく無い」そう言って、部屋から出してくれると思った。
お婆様や両親に使用人は何も言わない、見向きもしないのだから。
あたしは悟ってしまったんだ、仕事をしてくれるのなら見た目は何でも良いんだって。
誰も、あたしが穴を沢山開けても何も言わない。
誰も、あたしの為に怒ってくれない。
だけど、一人だけあたしの自傷行為を見て泣きながら怒ってくれた人がいた。
「お嬢!!何してるんですか!?」
耳を開けようとした所を蓮に見られてしまい、大きな声を出しながら、あたしの手から針を取り上げた。
髪を掻き分けられ、針が何本も刺さっている耳を露わにされてしまう。
「お嬢…、いつからですか…。いつから、僕に黙ってこんな事をしていたんですか」
「蓮が傷付いた訳じゃないのに、どうして…?そんな悲しい顔をするの?」
「こんなにも耳から血が出ているじゃないですかっ…。お嬢はいつも一人で、黙って耳を開けていたんですか?」
「う、ん…」
蓮が今にも泣き出しそうな顔をするとは思わなかった。
会ったのも最近で、あたしの事を全て知らない蓮が止めるとは思ってもいなかったから。
「貸して下さい」
「え…っ、蓮!?何してるの!?」
あたしの手から針を奪った蓮は、目の前で自身の耳に針を刺したのだ。
ブチッ、ボタッ…。
慌てて蓮に駆け寄り針の刺さった耳を見てみると、血がポタポタと針を伝って垂れている。
状況を飲み込めないまま、近くにあったタオルを手に取り、血が垂れている蓮の耳に優しく当てた。
「何で、こんな事…っ」
「これで、お揃いですよ」
「お揃いって…。蓮はそんな事、しなくて良いのに」
こんな事を蓮にさせたくて、耳に穴を開けていた訳じゃない。
あたしの目の前で、蓮が同じように耳に穴を開けるとは思ってもみなかった。
「僕の気持ち、少しは分かりました?」
蓮はそう言いながら、あたしに優しく笑い掛けてくれる。
この人は御子柴家の人達とは全然違う、あたしの事を本当に気に掛けてくれている事が分かるから。
「もうピアスは開けないで下さい」
「分かった、ごめんね蓮…」
あたしの言葉を聞いた蓮は、満面の笑みを浮かべて優しく頭を撫でてくれた。
次の日、任務を終えた蓮はあたしの為に、可愛いデザインのピアスを買って来ては耳に着けてくれたたのだ。
「針を刺したままだと衛生的に良くありませんから。それと、お嬢に似合いそうだと思いまして…。やっぱり、よく似合います。可愛いです、お嬢」
「あ、ありがとう…っ」
手鏡に映った自分の耳がキラキラと輝き、蓮の言葉で心が更に浮き上がる。
あたしの為に買って来てくれた事、気持ちがすごく嬉しかった。
一週間後、蓮の耳を見たら、あたしと同じ場所に同じ数のピアスの穴が開いている事に気が付いた。
あたしの視線に気が付いた蓮は、少し顔を赤くして笑っていたのを覚えている。
***
思い出しながら、隣にいるパソコンを操作している蓮に静かに視線を送った。
蓮は何処まで、あたしと居てくれるんだろう。
誓いの儀式の日から、蓮はあたしの側に居てくれている。
それはあたしが…、御子柴家が蓮の事を縛っていると言う事だ。
カタカタカタカタ…。
パソコンを使って、真剣な表情を浮かべながら調べ物をしていた。
不本意だけど、一緒に東京に出られて良かったと思っている。
知らない土地でも、蓮が側に居てくれるなら心強いから…。
「ん?お嬢、どうかしました?」
「な、何でもないよ」
不意に蓮と目が合ってしまい、あたしは慌てて蓮から視線を離す。
「ふふ、本当に??」
パソコンを閉じた蓮はあたしの方体を寄せて、顔を覗き込みながら笑い掛けてきた。
蓮の綺麗な紫色の瞳が太陽の光が反射し、キラキラ輝いている。
キュンッと胸が締め付けられる、これは反則だ。
蓮は東京から帰って来てから更に大人っぽくなり、あたしに対する態度も変わったような気がする。
前よりも女の子扱いしてくれて、こうやって顔を覗き込むようになった。
一つ一つの行動に、あたしはドキドキしてしまう。
蓮の行動はあたしの心臓に悪い、その事を蓮は当然知らない。
「ほ、本当だよ?」
「僕の事を見ていたような気がしたんですけど…」
「ゔっ、気付いてたんじゃん。意地悪しないでよー、蓮」
「すみません、お嬢が可愛い反応を見せてくれるから…。少し意地悪してしまいました、すみません」
「聖様、蓮様。もうじき東京に到着致します」
あたしと蓮が話していると、運転手さんが声をかけてきた。
数時間掛けて走った高速道路を降りると京都の街並みの風景とは違い、人や高いビルで街が溢れかえっている。
「人が多い…、東京ってこんなに人が多いの?」
「東京は色んな所の人間が集まってますからね。僕は京都の方が好きですよ」
蓮の言葉を聞きながら信号待ちしている大勢の人達に視線を向け、人集りを歩く想像をしていた。
この中を歩ける自信がない、絶対ぶつかるもん人と…。
「ちょっと、そこで止まってくれ」
「かしこまりました、蓮様」
蓮が運転手に声をかけ、信号を越えた先に車を停車させた。
「蓮?何処に行くの?」
「ちょっと、待っててくださいね。すぐに戻ります」
ポンポンっと、優しくあたしの頭を撫でてから、蓮はそそくさに車を降りて行ってしまう。
どこに行ったんだろう蓮、何か用事でも思い出したのかな?」
「聖様、熱くはありませんか?日が登ってきましたので、熱くないですか?」
「あ、大丈夫です。お気使い、ありがとうございます」
「いえいえ、とんでもございません。それにしてもすごい人ですね…」
運転手さんは気を遣って話を振ってくれて、蓮が戻って来るまで話をして待つ事にした。
***
車を降りた本城蓮は、近くにあったカフェの店内に入っていた。
ここカフェは可愛らしい飲み物を提供しており、女性向けのカフェとして東京で有名の店である。
本城蓮は店内にいる女性達を掻き分け、御子柴聖の為に飲み物を注文した。
「い、いらっしゃいませっ、ご注文を伺います」
顔を赤くしている女性定員には目も止めず、本城蓮はメニュー表に視線を落とす。
「この苺のやつ、お願いします。ホイップ?多めで。それとアイスコーヒーを二つ、持ち帰りでお願いします」
「か、かしこまりました」
女性店員は本城蓮の顔を見ながら更に頬を赤く染め、番号札を渡しレジ横の待ち合いスペースに誘導する。
女性定員の熱の籠った視線に気に求めず、渡された番号札を持って注文の商品を待っていた。
カフェにいる女客達のほとんどが本城蓮に釘付けであったが、当の本人は女客達に興味などなかった。
何故なら、本城蓮は自分の主人である御子柴聖以外の女に興味がなかったからだ。
スラッと背の高い本城蓮はスタイルが良く見え、黒いスーツを着こなしており、一般的な男よりも容姿が整っていた。
その容姿の所為なのか、女達の視線が痛いくらいに注がれる。
「あの人めちゃくちゃ、カッコイイ…」
「本当だ、モデルかな?」
露出度の高い服を着た派手なメイクをしている二人組みの女性達が、注文の品を待っている本城蓮に声を掛けた。
本城蓮は二人が自分の所に向かってくる事に気づいていたが、ここの場所を動く訳にもいかなかったのだ。
「お兄さぁん。甘い物、好きなんですかぁ?」
「良かったら、私達と一緒に…」
「どっか行ってくれないか」
「「え?」」
女性達が言葉を言い終わる前に、本城蓮は冷たい視線を送るながら声を低くして言葉を放つ。
「聞こえなかったのか?どっか行けって言ったんだ」
「え、えっと…」
「そんな言い方…」
本城蓮のキツイ言い方に驚く女性達は、顔を青くさせながら思わず後退りする。
「番号札三番の方ー」
本城蓮は女達を無視して注文したドリンクを手に取り、カフェを後にした。
「お嬢、喜ぶかな」
そう呟く本城蓮の頬は緩み、足早に車に戻った。
***
御子柴聖 十七歳
それにしても、蓮どこに行ったんだろう…。
カチャ…。
持っていた鞄の中から、妖銃(ようじゅう)妖銃を取り出した。
克也さん東京に行く時にくれた物で、二つの妖銃に菫の花の刻印が刻まれている。
妖銃の刻印はあたしが克也さんにお願いした物で、蓮が菫の花をあたしにくれた物だから刻みたかったのだ。
ガチャッ。
妖銃を眺めていると車のドアが開いき、帰って来た蓮の手にはホイップ多めの可愛らしい飲み物が握られていた。
赤色と白いホイップ…、見た事のない飲み物だな…。
「お帰りなさ…って、それは?」
「お嬢、これをどうぞ」
そう言って、蓮はあたしに飲み物をくれた。
「こ、これは何?」
まじまじと可愛らしい見た目をしている飲み物を眺め、本当に飲み物なのかと考えてしまう。
今まで見た事がない不思議な飲み物に口をつけるのに戸惑っていると、蓮が声をかけてきた。
「東京の名物です、変なものじゃないので飲んでみて下さい」
「う、うん…」
恐る恐るストローに口を付け、吸い上げてみると口の中に甘いのと冷たいのが広がった。
これは…、苺?
甘酸っぱくて、美味しい。
「お、美味しい!!」
「良かった、お嬢甘いの好きでしたよね?御子柴家に居た時は、自由が無かったじゃないですか。こっちに来て、少しは自由を満喫して貰えればなって…」
蓮は照れながら頭を掻く姿に、ときめいてしまう。
ドキンッ、ドキンッ。
「蓮…、ありがとう」
ドキドキする胸を押さえながら、蓮にお礼を言った。
あたしの為に、買ってきてくれたんだ…。
あたしの為に…。
「お嬢が喜んでくれたのなら、良かったです」
そう言って、蓮は買って来たアイスコーヒーに口を付け、運転手にもアイスコーヒーを渡した。
「あ、ありがとうございます、蓮様。わざわざ、買ってきてくれたんですか?!」
「運転してくれてるしな、気にしなくて良いよ」
「勿体無いお言葉です…」
蓮の言葉を聞きながらアイスコーヒーを受け取り、運転手さんは瞳を潤ませていた。
「蓮は気遣いも出来るんだね」
蓮はよく、周りを見てると思う。
人に対しても気遣いが出来るし、周囲の変化も見逃さない。
「いやいや、そんな事はありません。ふっ、お嬢。口元にホイップが付いてます」
「え、え?どこ?ここ?」
手探りで口元に触れるが、蓮はクスクスと笑っている。
ホイップが付いてる場所が分からず困っていると、蓮の細長い指が口元に触れた。
「違いますよ、ここです」
「あ、そこだったんだっ。ありがとう蓮、取ってくれて」
「いえ、お口に合って良かった」
さり気ない仕草にドキドキしてしまう。
蓮と一緒にいると、心臓がもたないよ…!!!
今、絶対あたしの顔、真っ赤になってる…。
運転手さんもあたし達二人の光景を穏やかなそうに見つめ、気を遣ってゆっくりと車を走らせた。
約一時間後に大きな門の前に車が停止し、運転手さんがあたし達に声をかけてくれた。
「到着致しました」
車の窓から外を見つめると、洋風な屋敷風の学校が見える。
「あー、ダリー」
高級感のある門を派手な髪に沢山ピアスが開いていてる男女が、着崩した制服のまま門を潜って行く。
「ここがあたし達が通う学校?」
「東京陰陽学院は表向きは不良高校なんです。陰陽師の通う学校と言う事は伏せていて、色んな所の陰陽師の末裔の子供達居ますから」
「なるほど…?」
秘密にしておく必要が、あったって事か。
訳ありな子達が通ってる学院…って、所かな。
「すまないが、裏に車を回してくれ」
「かしこまりました」
蓮がそう言うと、車が再び走り出した。
走り行く車を見つめている人物に、あたしは気が付かなかった。
***
御子柴聖と本城蓮を乗せた車を、前髪の少し長い赤い髪の少年が眉間に皺を寄せながら見つめていた。
「あの車…、本城家の…。何で、こんな所に?」
「おーい、何してんだよ!!!次の任務に遅れるだろ?」
「あ、悪りぃ」
少年は車に背を向け、声をかけてきた少年の元に走り出した。
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