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・VTA時代捏造
・でびらびが付き合ってます(左右明記なし)
・本作品は二次創作であり、ご本人様とは一切関係ありません
・本編中ライバー様のお名前は伏せません
<🐰side>
「ぴょん!ぴょ~ん~!」
春の木漏れ日のように柔らかな髪を靡かせ、舞い散る桜並木の中で笑っているのは俺の恋人でありVTA同期の星導晶。
桜の絨毯の上を軽やかに駆け回り、流れるように忙しなく辺りを見回しては歩みの遅い俺を急かす。
「早く早く!ぴょんも一番桜が散ってないとこ探して!」
「ったく、こんだけ咲いてりゃどこも一緒だろ…それより弁当、そんなに振って大丈夫なわけ?」
「え?あ、ああっ?!やばいやばい!ちょ、ぴょんブルーシート敷いて!てか持ってきた?!」
「すまん忘れた」
「何してんの!?ああもういいや、地べた座るよ!雨降ってないし汚れないでしょ!」
近くに佇む桜の木の根元に腰掛け、持ってきた弁当の包みを慌ただしく広げる。もたもたしている手元を見ているとなんだかどうしようもなく愛おしくて、つい小さく笑みがこぼれてしまった。
「ふは、忙しい奴」
「誰のせいだと!」
「すまんすまん」
ぷりぷり怒る晶の小言を聞き流し、彼が開けるはずだった弁当の蓋をかぱりと持ち上げる。そこに広がっていたのは見た事のある光景だった。
「あ、ちょっと!」
「…お前、これ」
「え?なんですか?」
「…………」
絶句、というか呆れる。彼が作ってきたのはピクニックやお花見などで食べるまともな弁当ではなく、以前でびらびコラボでデコ弁対決をした時に彼が作ったものだった。
一切変わっていない最底辺のクオリティに思わず吹き出す。俺が笑ったのが気に食わなかったのか、晶はムッとした顔で俺に顔を寄せてきた。
「何笑ってるんですか、僕真面目に頑張ったんですよ!」
「お前さぁ…っwちゃんとした飯作れんだから無理してこれ作らなくてもよかっただろ…w」
「だ、だってぇ…ぴょんとのお花見でテンション上がっちゃって…」
そう言って俯く晶の耳はほんのりと赤く色づいていた。思わず彼の頬に片手を添え、そっと触れるだけのキスをする。
「…なんですか?急に」
「思い立っただけ」
「誰かいたらどうするつもりだったんですか」
「いたらダメなの?」
再び俯いた晶のそばに手を付き、身を乗り出す。返事を催促するようにエメラルドの瞳を覗き込むと、彼はいつもの小生意気な態度とは打って変わったしおらしい雰囲気で顔を上げた。
「だって、僕たちは…」
「僕たちは?」
「………」
言いたいことはわかる。わかるけれど、わかってあげない。わかってしまったが最後、俺たちの恋はそこでおしまいだと思っているから。
まだ未熟な俺たちが、膨大な宇宙の荒波にもまれて死んでしまうと思ったから。
「弁当食べようぜ、俺箸持ってきた」
「…食べる気だけはあったんですね、ブルーシート忘れたくせに」
「どうもすいやせんでした」
もう、と困ったように笑う晶の隣に詰めて座り、甘そうなそれを口に運ぶ。想像通り甘かった。それでも俺が以前作った梅干し弁当白米乗せよりはマシ……いや、最底辺で争うのはやめよう。
「そろそろ卒業だってさ」
「やけに他人事だな、卒業はお前も同じだろ」
「なんか実感湧かなくって。そう言うぴょんは卒業した後のこととか考えてんの?」
この言い方から察するに、晶はこれから先の事はあまり考えていないのだろう。かく言う俺もそこまで考えていないが。
決して美味しいとは言い難い弁当の残りが半分を切ったところで脈絡もなく口を開く。それはある種の願いだった。
「なあ、卒業したら同棲しない?」
「え?」
「俺たち付き合ってんだしさ。時間だって在籍中より幾分かは自由になるだろ?もちろんお前がいいならの話だけど」
弁当を食べていた晶の手がぴたりと止まる。何か言いたげだったが、俺の目がそれを許さなかった。
お前は後ろ向きすぎるんだよ、いつもいつも。そんなに怯えなくたっていいのに。
お前がここにいてくれる限り、俺はどこにも行かないのに。
「……僕は、ぴょんの未来を潰したくない…」
「なーんでそういう話になるかな」
「ぴょんがこれから生きていく中で、僕は絶対ぴょんにとって重荷になっていくから」
「…あのな、星導」
次の言葉を口にしようと俺が息を吸い込んだ瞬間、晶は透き通った両目から大粒の涙をこぼし始めた。とめどなく溢れるそれを拭おうともせず、見慣れた制服に小さな染みが広がっていく。
「僕、ぴょんのこと大好きで…ホントのホントに、この世界の何よりも大好きで……だからこそ一緒にいたらいけないんだよ」
「なんで?好きなら一緒でいいじゃん」
「ぴょんのこと、離してあげられないから…ぴょんには僕に縛られず自由に生きて欲しいの」
予想外の言葉に思わず理解に時間を要してしまい、うるんだ不安げな瞳で晶が俺の顔を見上げてくる。違う、そんな顔しなくていい。
「ほんっと、お前さぁ…」
「っ、ごめん」
「俺もお前のこと離したくないよ」
「……え」
ぽかんとした顔で俺を見てくる晶のすっかり赤くなった目尻を優しく拭う。桜を乗せて吹き抜けるそよ風までもが晶に泣くなと言っているようだった。
「お前を手放す気なんてさらさらないから。俺の未来にお前がいないなんて考えられない」
「っ……いいの?僕、そこにいてもいいの…?」
どこか期待するように見開かれた晶の両目にしっかりと頷く。
俺たちはずっと一緒だ。ずっとずっと、お前が死ぬその時まで。白狼の俺はお前より長く生きるけど、もう寂しくなんてない。
「…あのさ、弁当食べながらカッコつけないでくれない?」
「バレた?」
「バレたというか、目の前でやってんだから気づくよね。ダサいのにかっこいいとかなんなの」
「ダサいは余計だろダサいは」
お前はキショいんだからよ。
それから弁当を食べきった俺たちは桜の下でなんとなく写真を撮ってみたり、道を埋めていた桜の花びらをすくい上げて互いに降らせてみたり、日暮れまでデートと呼んでいいのかも怪しい戯れを続けた。
「お前、桜に攫われちまいそう」
「ぴょんの方こそ」
お前の方がよっぽど儚いだろう。まばたきをしている間にも消えてしまいそうな彼が心配で、思わず傷跡の残る右手を掴んでしまった。
「なんですか?」
「えーと…このまま手、繋いで帰ろうぜ」
「…いいですよ。ちょっと恥ずかしいけど」
晶が俺の手を握り返して歩き始める。本当に恥ずかしいのか、目線を合わせようとしない。それが無性に可愛くて、握っていた手を恋人繋ぎに変えてみた。
「ひゃっ!?ちょっ、何してるんですか! 」
「……」
「ちょっと!聞いてます?!」
「……」
「………ねえ、ぴょん……恥ずかしいよ」
弱々しい彼の声を聞かなかったことにしたままオレンジ色に染まった桜並木の中を歩き続ける。恥ずかしいなら振りほどけばいいのに、可愛いこの恋人の頭にその考えはないようだ。
「手繋いだだけで茹でダコになってるようじゃこの先厳しいよ」
「この先って…何するつもり?」
「なんだろねぇ?星導くんに任せようかな」
「借金の連帯保証人とか?」
「そこまで堕落してねぇよ」
「それもそっか」
あははと顔をほころばせる晶を見てそっと微笑む。この先に広がる彼との生活に期待ではち切れそうな胸を躍らせた。
家に帰ってからもそれは変わらなかった。昨日まで嫌だと思っていた卒業が急に待ち切れなくなり、卒業した後も晶と一緒にいられるという事実を噛み締めては眠れない夜を何度も過ごした。
そして晴れてVTAを卒業した俺はすぐに暗殺組織の首領とヒーローを兼任することになり、それから数週間は以前より多忙な生活を送っていた。
晶との同棲が始まるのは明日から。忙しすぎてあれから約1ヶ月ほど連絡を取れていなかったため、久々にLINEを送ってみる。
「あれ、既読つかねぇ」
時間も遅いし寝ているのだろうと思い、その時の俺はそこまで深く考えず眠りについた。
晶が3週間前から行方不明になっていることなど、西の地で活動する俺は知りもしなかった。
<👻🔪side>
翌朝目覚めた俺はすぐに収集をかけられ、ライとカゲツと共に本部へとやって来ていた。どうやら今日新しく入ってくる1人のヒーローと俺たちで“Dytica”を結成するらしい。
「どんな人だろうね、頼むからまとも枠がいいなぁ」
「まとも枠ならここにおるやろ」
「お前のどこがまともなんだよ!」
早速プロレスを始めるライとカゲツを他所に、ふとテーブルの上に置いてある一枚の紙の存在に気づく。手に取って一番上に他より大きく書かれた文字列を目視した瞬間、静かだった鼓動がバクバクと早鐘を打ち始めた。
コンコンッ
「あ!来たっぽい!」
「入ってええで」
今、俺はすごく嬉しかった。同じ所属ということは、同じヒーローということは、家だけでなく任務までもが彼と一緒だということ。
だって この名前は、あいつの、あいつだけの、
「失礼します~」
緊張した時に出る変に間延びした口調。間違いない、早く、早く入ってきて。早くその愛しい顔を俺に……
「はじめまして」
………え?
スクロールお疲れ様でした!
次から👻🔪と🐙🌟の話です。