コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いよいよ地球観光初日がやってきた。恥ずかしながらワクワクしてあんまり眠れ……ごめんなさい、嘘吐きました。フェルと一緒に眠ってるから安眠です。ちょうど良い抱き枕扱いなのはもう慣れたよ。柔らかくて暖かいフェルに抱きしめられてると、私もぐっすり眠れるから文句はないけど。
さて、現地集合をするのは構わないけど私達の服装はどうするべきかな?ハッキリ言って滅茶苦茶目立つ格好をしてる自覚はある。これで例えば翼を消したり出来るなら楽なんだけど、そんなことは出来ない。
隠蔽魔法の応用で隠せないかやってみたんだけど、翼が見えないとそれはそれで落ち着かない。アード人の悲しすぎる性なのかもしれない。いや、翼を隠すような機会は先ず無いんだけどさ。
「このままで行きませんか?確かに目立ってしまいますが、警備の人の目印にもなりますよ?」
「ん、それもそっか。なにか問題があるなら次で変えれば良いし」
今回が最初なんだ。色々問題点も出てくるだろうし、その時に相談しよう。
「じゃあジョンさん、カレン。行ってくるね」
「ああ、ゆっくりと楽しんできてくれ」
「お土産期待してるね!」
「あはは、頑張るよ」
カレンも一緒に行くのかと思ったけど、今回はお預けだ。ジョンさん達からしても初めての試みだし、不測の事態が起きる可能性もあるからカレンはまだ同行できないみたい。三人で観光地を回れる日が一日も早く来ることを願って、私達は異星人対策室の皆さんに手を振りながら転移した。
指定された場所はイエローストーン国立公園から少しだけ離れたガソリンスタンド。合州国らしく給油以外にもお買い物が出来たりする。
私が生きていた頃に比べれば電気自動車の普及率はとんでもなく跳ね上がってる。現にここにも電気自動車用の充電設備の方が多い。性能も数十年あれば滅茶苦茶進化するよね。流石に空を車が飛び交うまではいかないけど。
「やあ、ティナ嬢フェラルーシア嬢。時間ぴったり、流石ですね」
私達を迎えてくれたのは、ジャッキー=ニシムラ(紳士服)さんだ。いつもと違ってスーツをビシッと着てる姿は出来るビジネスマンだ。昨日から現地入りしてくれているらしい。
「おはようございます、ジャッキーさん。今日はお世話になりますね」
「お世話になります、ニシムラさん」
「君達が充分に楽しめるよう微力を尽くすつもりですよ。ささ、こちらへ」
ジャッキーさんが手招きして近くに停めてあったバンへ私達を誘う。流石は合州国、車も大きい。
「おい!あれは!」
「ティナちゃん!フェルちゃん!?」
「噂の宇宙人だぞ!翼と羽がある!」
「可愛い!」
乗り込む際、ガソリンスタンドの店員さんや利用客さん達が私達に気付いて騒いでいたから、笑顔で手を振っておいた。喜んでくれてるみたいだし、良かった。
「早速のファンサービス、抜かりありませんね?ティナ嬢」
「そんなこと無いですよ」
運転席に座ってるジャッキーさんの爽やかな笑顔が眩しい。後部座席には柔らかいクッションが用意されていて、翼や羽を痛めないように配慮してくれている。ありがたいなぁ。
「わっ、地球人がたくさん居ますよ!」
「そりゃあ観光名所だからねぇ」
しばらく走って、イエローストーン国立公園へ到着した。やっぱり観光客も多いなぁ。
「心配は無用ですよ、あの中には警備員が紛れています。いざとなれば飛んでください」
「分かりました」
有名人になった気分だ。いや、有名人か。慣れないなぁ。
「……わぁ……」
隣で唖然とするフェル。私は言葉もないよ。目の前に広がる広大で雄大な自然を前にすればね。
「イエローストーン国立公園は地下数kmにマグマ層が迫っている“ホットスポット”と呼ばれる場所です。熱水現象の4分類。つまり温泉、間欠泉、泥壺、噴気孔の全てが一度に見る事が出来る場所ですな。
この一帯にある熱水現象の数は約一万で、これは世界中で見られる熱水現象の半分を占めております。ついでに、世界初の国立公園としても有名ですな」
ジャッキーさんの解説を耳にしながら、私とフェルは釘付けになってしまった。
鮮やかなグリーンやブルーの温泉プール、豪快に熱水を噴き上げる間欠泉、ボコボコと弾け飛び散る泥壺、シューシューと不気味な音をたててガスを噴き出す噴気孔。
そのどれもが前世でも見たことがない。前世で大分にある温泉地獄巡りには参加したことがあるけど、規模がまるで違う。熱々のプールを見たら温泉たまごをイメージしてしまうのは私が日本人だからかな?ちなみに半熟派だよ。
「綺麗な温泉ばかりでしょう?しかし、入浴するのはお勧めしませんな。平均すれば90℃近くはあると耳にしたことがありますので」
「あはは、茹で上がっちゃいますね」
こうしてみると、本当に綺麗だ。地球が確かに生きているってことを感じられる。私からすれば前世の故郷だけど、この星を守りたいと改めて感じさせてくれた。
センチネルはこんなに美しい星も滅ぼしてしまう。リーフ星の悲劇はまだ生易しい。未確認だけど、センチネルにはデ◯スターやス◯ーキラーみたいな兵器もあるらしい。星を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまう代物だ。
そんなことは絶対にさせないっ!
「あのっ、写真撮っても良いですか?」
「良いですよー、ほらフェルも!」
「はい!」
「じゃあ私も!」
「俺もお願いします!」
地球の人達と笑顔で交流する。地道ではあるけど、きっと効果はあるはずだから。地球とアードのためにも、もっと頑張らないとね。
「はいはい、押さないで。列に並んでください。二人を疲れさせないように気を付けてくださいね」
然り気無く私服警官や警備員達が群がる観光客を整理し始めた。今回の計画で合州国が秘めた目的の一つは、ティナ達と一般市民との交流である。
政財界を含めて異星人との交流に反対派や慎重論が多いのを承知している彼等は、民意を味方に付けることで強引に融和を図った。幸いマンハッタンの奇跡で国民感情は悪くない。
ジャッキー=ニシムラ(振動する何かを挿入中)は観光客達に囲まれて笑顔を浮かべるティナと戸惑いながらも言葉を交わすフェルを見て、恍惚な表情を浮かべつつ目的の成功を確信するのだった。
次の行き先は、グランドキャニオン。まだ観光は始まったばかりである。