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~合州国大衆紙ワールドジャーナル~
先日行われたハリソン大統領による緊急記者会見で新たなる宇宙からの来訪者、フェラルーシアさんの存在が公表されて全世界に衝撃を与えた。
その容姿はまさにファンタジー世界の妖精をそのまま人間大にしたようなもので、可愛らしさが目立ってしまうティナさんとはまた別の魅力があった。
質疑応答の内容を見る限り、友達を大事にする優しい性格で地球に対しても友好的だ。
二人目の異星人の来訪は政府による交流が順調に進んでいることを示しており、我が合州国が主導して成し遂げた成果は人類史上類を見ない快挙として我々も鼻高々だ。
そんな興奮覚めやまぬ中、昨日突如としてイエローストーン国立公園にティナさん、フェラルーシアさんの二名が現れて雄大な自然を満喫し現地の人々と交流したと言うニュースは全世界に衝撃を与えた。また夕方には政府が公式にお二人の地球観光を公表。
政府主導で地球の観光地を巡る計画を示唆した。
残念ながら他の目的地や候補地は非公開となったが、この発表に全世界の注目が集まったのは言うまでもない。
本誌は昨日実際にティナさん達と交流した人々へ取材を行い、いくつかのインタビューにご協力頂けた。その内幾つかを記載させていただく。
『二人ともとってもフレンドリーで、地球の事を色々聞いてきたの。特に自然豊かな場所に興味があるみたいだから、私はグランドキャニオンをお勧めしたのよ。こう見えて観光客相手のガイドをしてるからね。
そしたらフェルちゃん、ああ、愛称みたいで許してくれたの。フェルちゃんもグランドキャニオンに興味津々みたいで、綺麗な羽根をパタパタさせてとっても可愛らしかったわ!
ティナちゃんも目をキラキラさせていたし、二人で行くんじゃないかしら?もちろん大歓迎よ!』
『実はティナさんと出会うのは二度目なんですよ。私は消防士をしていまして、今日は家内と休暇で旅行に来ていたんです。
ええ、そうです。マンハッタンの現場に居たんです。驚いたことに、ティナさんは私の事を覚えていたんです。真っ先に腕の心配をされて、彼女らしいと思いましたよ。
ん?現場で右腕に怪我をしてしまいましてね。こんな仕事をしていれば別に珍しくもないのですが、その時にティナさんが怪我をした私を現場から連れ出してくれたんですよ。
彼女が居なければ、もっと酷い怪我をしていたかもしれません。あの時はお礼を言えずに別れてしまったんですが、今度はちゃんとお礼を伝えることが出来ました。
まあ、感極まった家内が泣き出して彼女を困らせてしまったのは申し訳なく思いますが……はははっ』
『正直、我々警備もある程度のパニックは覚悟していました。何せ今地球で最も有名な二人が予告も無しに現れたんですから。最悪の場合はお二人を救出してその場を後にすることすら許可されていましたからね。
ですが蓋を開けてみれば、整理こそ必要でしたがパニックは起きず皆さん礼儀正しくお二人と無理の無い範囲で交流してくれたのです。唖然としましたね。
こんな言い方はしたくありませんが、我が国でこんなにもモラルの高い行動が見られるなんて夢にも思いませんでした。
或いは、彼女達の存在が皆の心を落ち着かせたのかもしれませんね。現場に居た私も心が穏やかになりましたから』
ティナさん達が滞在したのは凡そ三時間程度だったそうだが、その間パニックを含めたアクシデントは一切発生していない。彼女達は存分に我が国が誇る雄大な自然を満喫し、人々と交流したようだ。先ずは成功を喜び、次の目的地などについても続報をお待ちいただきたい。最後に、現地へ駆けつけた本誌記者の質問に笑顔で応じてくれたティナさんのコメントを記載する。
『とっても素敵な体験をさせていただき、皆さんに感謝します!まだまだ行ってみたい場所がたくさんあるので、その時はよろしくお願いします!』
新聞を読み終えたハリソン大統領は、静かにテーブルへ新聞を置いた。電子書籍が一般的となって久しい昨今では珍しく、ワールドジャーナルは今も紙媒体を継続している。
ここはホワイトハウスの大統領執務室。補佐官のマイケルが側に控え、大統領の行動を注視している。
「先ずは大成功、と言うことかな?」
「ええ。正直幾つかのアクシデントは覚悟していましたが、何事もなく終わりました。ティナ嬢達は現地のお土産を幾つか購入したので、経費が少し掛かった程度です」
「お土産くらいは想定内だろう。地球の自然を気に入って貰えて何よりだ。それで、こんなにもモラル的な大衆が現れた原因は?残念だが我々は日本人ほどモラル的ではない」
「はい、ケラー室長がそれとなく質問した結果、フェラルーシア嬢の魔法によるものでした。曰く、心を穏やかにする魔法だとか」
「それは良いな、全世界に掛けてくれれば戦争は無くなるだろうね。まあ、そんな単純な話じゃないんだろう?」
「ええ、効果時間はそこまで長くはないと。仮に長時間使用した場合は人格に影響が出る可能性があるとか」
「だろうな、精神に直接作用するんだ。それも仕方ないだろう。それに、フェラルーシア嬢の心中を思えば仕方がない。害はないのだろう?」
「そこは確約してくれたそうです」
「結構。この件についてはこれで終わりだ。次はグランドキャニオンだが、その前に要望を伝えねばならない」
「はっ、ボイジャーの件ですな?」
「うむ。ティナ嬢ならば快諾してくれるだろうが、今はフェラルーシア嬢も居る。観光で多少なりご機嫌を取らねばな。ケラー室長へ伝えてくれ。ティナ嬢達と例の件で話し合いを持ちたいとね。折角だから昼食を共にしようと」
「畏まりました。グランドキャニオンの次については?」
「国外を検討しているが、調整に難航しているのが実情だ。日本が望ましいが、そうすると他の国が……特に、あの紅茶狂いの自称紳士の国がうるさい。何とか話は付けたが」
この世界に於いても、合州国と英国の密接な関係は変わらない。同時に彼等の外交手腕もまた同じである。
「相応の旨味を提示する必要がありますな」
「残念だが、日本の次はブリテンだ。これで妥協して貰うしか無かった。でなければ、紳士達は他の大多数を巻き込んで厄介なことを仕出かす可能性があったからな」
「やれやれ、強かな国ですな」
「見習いたいものだよ。さて、ティナ嬢へのお願いと対価について話そうか」
イエローストーン国立公園の観光。その翌日早朝の会話である。