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ずうぅん


そんな効果音を立てながら歩く男の人が1人。

相手は気がついていなさそうだけれどこのままだと同じエレベーターに乗りそうだしそしたら相手も気がつくはずなので先に挨拶をしちゃおう。そう思い軽く頭を下げる。


「こんばんは」


「え、あぁ、こんばんは」


予想通り私の存在には気がついていなかったらしい。


「何階ですか?」


せっかく聞いてくれたがすでに7階のボタンは点灯している。


「同じ階です」


あ、とかなんとか小さく相槌のようなものを打っていて心の中でカオナシかと突っ込む。

やがてエレベーターはお目当ての階に着き、軽くペコリと後ろを振り返ったところで気がついた。


「裕太?」


「まちこ?」


なんでここに


お互いに目を見開く。


「久しぶり」


「久しぶり」


人は声から忘れていく、と言うが本当らしい。こうやって聞くと、何も変わっていないのに最初聞いた時に気がつくことはできなかった。


「だいぶお疲れだね」


「仕事があるのはありがたいけどな」


ちょっと忙し過ぎる、そう言いながらお互い自分の家まで進んでいく。


ところがいつまで経っても同じ方向。なんとなく嫌な予感がしながらも私が先に家の鍵を開ける。と同時に隣からもその音がした。


「「え」」


驚きをお互いに隠さず顔を見合わせる。


「気が付かないもんだね」


「まじか」


「「…」」


無言のまま家に入り、はぁ、と一息をつく。

疲れてそうだったなと久しぶりに会った人のことがなかなか頭から抜けず、自分の夕食のため冷蔵庫をごそごそと漁る。


「あぁぁぁぁぁ」


数日前衝動で作り過ぎてしまったサラダを手に崩れ落ちる。

こんなに1人では食べないけど無駄にもしたくはない。


そうだ、お隣さんにお裾分けするのはどうだろう。

いい案じゃないかと別のタッパーにサラダを移したところでまた少し考えてしまう。

私、気持ち悪くないか?

久しぶりに会った人に手作りの食べ物渡すって普通じゃないよな

そんなことを考えるがなんだか途中でめんどくさくなって押しつけて帰ろうと思い隣のインターホンを鳴らす。


ピーンポーン


「はい」


半ばゾンビのようになりながら出てきたゾンビ…間違えた、裕太にタッパーを文字通り押しつける。


「作り過ぎちゃったから、貰ってください。ヤバいもの入れてないんで大丈夫です」


そのまま戻ろうとすると止められる。


「一緒に食べてかん?米の炊く量ミスった」


この時私はさんざん相手のことを疲れている、と言っていたが私もかなり疲れていたのだろう。その場のノリで了承した。


「メインある?」


「ない…」


「私の家に魚あるからそれ取ってくる。汁物ある?」


「コーンスープの素なら」


「じゃあそれでいいや。お湯沸かしといて」


バタバタと自分の家から鯖を取ってきて、レンジでチンさせてもらう。下味をつけていてよかった。


「じゃあ」


「「いただきます」」


鯖とサラダと米とコーンスープというなんとも不釣り合いなやつらを食べながら久しぶりに話す。


「自炊してる?」


「してるわ。でもこんだけ忙しいとあんま食わんくなるんよ」


「結構めんどくさいよね。で、提案なんだけど、2日に1回こんなふうにしない?」


「他人の家で夕ごはん食べるってこと?」


「そ」


「…いいよ」


「じゃあ今日裕太の家だったから明後日私ね」


「了解です」


まあこんなふうにヌルッと、私たちの謎の関係は始まった。


_____________________


ピーンポーン


「はーい」


パタパタと玄関に向かい、鍵を開ける。


「お邪魔するで」


「されまーす」



今、私は何事もないかのように話しているがだいぶ緊張している。

疲れているってすごい。なんでお互いの部屋に、なんて言えたんだろう。家に帰り、しっかりと睡眠をとった後で自分の愚かさに驚く。

部屋もちゃんとしなきゃだし、よりにもよって、裕太となんて…



「お嬢さん?」


「はい、」


「きんぴらとアジフライ。ここ置いといていい?」


「いーよ。レンチンする?」


「作ったばっかだからいらん」


「理解。お味噌汁あっため直してほしい。後ご飯お願い」


「ほい」


彼がご飯をよそってくれている間にこちらはお皿を引っ張り出して作ってきてくれたものをのっける。



「「いただきます」」



ちょっとした咀嚼音と食器の音が響き、なんとも1人気まずい思いになる。


「あのさ、」


「ん?」


「お互いにいろいろ用事あると思うから、なんかあったらLINEで連絡取り合わない?例えば、明後日は飲み会だから無理、とか」


「あぁ…ええよ」


そしてまた無言に戻る。こいつこんな話さなかったっけ。


「嫌、だったら辞めてもいいけど…」


嫌だと言わないでという気持ちで切り出す。相手に迷惑はかけたくない。


「嫌じゃない、けどそっちはいいんか?」


「うん」


そのまままた無言でご飯を食べる。


「今仕事何してるの?この前すごい疲れてたじゃん」


「ちょっとしたYouTuberとして活動しとるよ」


「え…」


「そんな意外か?」


「いや、違くて、私もSNSで生きてるの」


「…ガチ?」


「ガチ」


「名前は?…って、言いたくないなら言わんくてええよ」


「あんま言いたくない…」


「そやね」


「裕太が聞いたんじゃん」


「俺もあんま応えたくないなって思った」


「忙しいんだ?YouTube」


「売れてきて嬉しいんけどなぁ。編集も大変やし、それなりにコメントにメンタル左右される」


「心中お察しします」


私もコメントにはかなりやられてきた。コラボした相手が男だとガチ恋に当たられることもあるし、何より辛かったのは私自身への悪いコメント。

温かいコメントももちろんあるがどうしても目立って見えてしまう。


「忙しいのと、眠れないの?」


「そんなとこ」


「そっかぁ…お疲れ」


「まちこは?」


「私はどっちかっていうとTikTokで頑張ってるんだけど、裕太と変わらないよ。編集はまだ楽なくらい?」


「お疲れさん」


「はい」


「ごちそうさまでした」


「はや」


まだ残っているご飯を飲み込んで言う。


「食べ終わるまで居てええ?」


「そっちの方がありがたい。ソファにでも座っといて。アイスあるけど食べる?」


「何がある?」


「今はヨーロピアンシュガーコーンオンリー」


「もらう」


「うい」


彼がもう少しでアイスを食べ終わると同時に私もご飯を食べ終わる。

当たり前のように私の分の皿も洗ってくれている彼に居心地の良さを感じる。


「明後日何がいい?」


「肉ー」


「何肉だよ」


「豚」


「了解した」


「サラダ何がいい?」


「トマト欲しい。生の」


「はいよ」








まあ、こんな感じで始まったなんとも不思議な関係である。



_____________________




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