コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「全くもって心外です。弱っている女性に親身に接して何が悪いのか。クレール隊長にはご理解頂けると思っていましたのに……人の事を誰にでも手を出す節操無しみたいに言って」
「二番隊の隊長さん、うちのハゲにあたり強いよね。なんでだろ、やってる事あんま変わんないのに……同族嫌悪?」
「一緒にするな! それこそ心外だ。こいつのは付け込んでるというんだ」
酒場の夫婦に聞き取りを行っていたクラヴェル兄弟。この自由人ふたり……他にも現場付近で色々と勝手なことをしていたらしく、クレール隊長はそれを窘めて欲しくて俺を探していたのだそうだ。さっき外で会ったのは偶然では無かったのか。
期待に添えないようで申し訳ない……こいつら俺の言うことだって大して聞きはしないんだよ。
隊長はルイスにレナードと同類扱いされご立腹だ。女性を愛でるのが趣味と公言しているが、隊長も既婚者である。不特定多数の女性に甘い言葉を振り撒き、相手が一方的に熱を上げる事はあれど、隊長自身はしっかり線引きをしているので不貞を働くことは決して無い。それに対してレナードは……フォローするのが難しいくらいには奔放であった。手を付けるか否かの差は大きいだろう。
「レナード、お前の女性関係が派手だったのは事実だろ。身に覚えが無いとは言わせんぞ。軽蔑されたとしても自業自得だ。受け入れろ」
「セドリックさんまでそんな昔の事ほじくり返して……今は割と誠実に生きてるってのに」
「昔って……ほんの2、3年前のことだろうが」
夫婦には時間を取らせてしまった事を詫び、退室してもらった。彼らが座っていた席には、現在俺と隊長が腰を下ろしている。立っていたルイスもレナードの隣に座らせた。説教……ではないが、少しばかり注意をしておこうと思う。効果はあまり無いだろうけど、隊長にも頼まれたことだしな。
「グレッグについて気になるだろうが、現場を仕切ってるのは二番隊とクレール隊長だ。彼らと揉めるような行動は慎め。こちらの捜査にも支障が出る」
我々『とまり木』の人間を王太子のお気に入りと揶揄し、やっかむ連中も僅かだがいる。特にこのクラヴェル兄弟は恵まれた容姿に圧倒的な強さ……そしてディセンシア家からの厚い信頼などなど。他人が欲するであろう要素をかねそろえている。その為、羨望もされるが同じくらい妬みの感情もぶつけられている。本人達は全く気にしていないが……
「別に俺らもケンカしたい訳じゃないんだけどなぁ」
「それは分かっている。悪目立ちするなということだ」
『次からは紙袋でも被って行く?』なんて意味不明なことを言い出すルイス。自分達だとバレなければいいという発想のようだ……顔だけ隠せばいけるって思ってるのか? 余計に目立つだろうとレナードは大爆笑し、面白そうだからやろうと乗り気だ。ふざけるな、絶対やめろ。
「そういや、聞いたぞ。お前達クレハ様付きになったそうだな。こんな所にいて良いのか?」
俺の注意などやはり右から左に聞き流していた兄弟だが、クレハ様の名前には鋭敏な反応を見せた。笑うのを止めて、ふたり同時に隊長の方へ顔を向ける。
「全く……。レオン殿下のお考えは分かりません。私は反対ですよ。他にいくらでも適任者はいるでしょうに」
隊長の懸念は致し方ないか……俺も最初は心配していたのだ。レオン様にしか従わない、敬わない彼らに務まるのだろうかと。けれど、予想に反して兄弟は不満を零すことは無く、クレハ様のことも好いている。レナードなんてクレハ様といると、まるでデカい犬が嬉しくて尻尾を振ってるみたいに見えるほどだ。
「へぇ……例えば? ボスと同等以上の力で姫さんを守れる人間が、うちの軍にどれほどいるんだろうね。少なくとも隊長の部下達には荷が重いと思うけど」
クレハ様に相応しくないとはっきり言われたせいでルイスが不快感を顕にしている。隊長に対し、挑発するように言い返した。
「そうだな。でも、うちの隊の者ならばその大切なお姫さまを放って、勝手気ままな振る舞いなど決してしないだろうさ」
「……誤解があるようなので弁明させて頂きますが、クレハ様は今日殿下と一緒におられます。殿下にとって至福のひとときであろうに、私達がくっ付いて行ったら野暮というものでしょう?」
「それに姫さんには俺達と同じ、ボスに護衛を任されてるミシェル・バスラーが世話係という名目で側にいるからね」
なごやかだった雰囲気が一転し、殺伐としていく兄弟の様子にうんざりする。こいつらキレると面倒なんだけど。隊長め……余計なことを言ってくれたな。
「クレール隊長、ふたりの日頃の態度を見ていれば不安になるのも仕方ないと思うが、彼らはよくやっているよ。クレハ様も懐いているし、頭ごなしに否定しないでやってくれないか」
隊長は額に右手を添えて俯いた。深く息を吐き出す音が数回聞こえる。自分自身を落ち着かせる為に間を取っているようだ。そして、ゆっくりと顔を上げると彼女は謝罪を口にした。
「お前達がクレハ様をちゃんと守っているのは知っているよ。気が立っていたから八つ当たりのような真似をしてしまった。すまない」
「まぁ……ハゲが信用されないのはしょうがないし、隊長さんも姫さんを心配してくれたってことだよな。こっちも悪かったよ」
隊長に続きルイスも謝ったので、この話は終いになる。しかし、まるでレナードだけに非があったと言わんばかりだな。お前も紙袋がどうとかふざけてた癖に。案の定、レナードはルイスの発言に不服そうに顔を歪ませていた。
「セドリックさん、見張りをしていた兵士と話がしたいと言っておられましたね。こちらの詰所にいますので、連れて来ましょう」
隊長はそう言って席を立つと、部下を呼びに行ってしまった。きっと普段の彼女であれば、あそこまで突っかかるような物言いはしなかっただろう。今回の事件のせいで、皆どこか落ち着きが無く不安定だ。
俺は正面に座っている兄弟を見据える。こんな時だからこそ、足並みを揃えて協力していかなくてはならないのだが……こいつらは分かっているのだろうか。