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フィリアント砂漠に入ったラティアとディークは歩きながら他愛のない会話をしていた。
「他国から見る夜空も綺麗だけれど、やっぱりラピティーア国から見る夜空の方が私は好きだわ」
「わかります。自国の夜空が一番綺麗に見えますよね」
「ええ、そう言えば、ディーク、貴方は何処出身なの?」
ラティアは隣を歩くディークを横目に見ながら問う。
「俺は、サティアーヌ帝国の帝都出身です」
「サティアーヌ帝国。人前で肌を見せてはならないという風習がある国ね」
「はい。よくご存知でいらっしゃいますね」
「ええ、知っているわよ。私を誰だと思っているの?」
ラピティーア国の第一王女であるラティアは、王族として恥がないように幼き頃から武芸、作法、学問、芸術など。
様々なことを学び、身につけてきた。
その中に他国との交渉の際、頭に入れておかなければならない必要最低限のことは幼き頃に徹底的に入れ込まれたのだ。
「はは、そうですね。知っていて当たり前のことでした」
ディークは可笑しげに笑う。
そんなディークに釣られるようにラティアもくすくすと声を漏らす。
「目的地に着いたら、私の病は治るのよね」
ラティアは不安が少し混じっているであろう落ち着いた声色でそう呟く。
ラティアの病が絶対に治ると言える程の自信がディークにはなかった為、推し黙ってしまう。
治せるとは思うが、もし、治すことが出来ない状況に陥ってしまったら、その時は。
ディークはもしもの事を考えて決めていたことが一つあった。けれど、それは今、目の前にいる彼女に言うべきことではない。
「ディーク?」
「え……? あ、はい。何でしょう?」
「この、フィリアント砂漠の砂に混じっている白い砂には、女神の祈りが込められているという噂が存在するみたいなのだけれど、貴方は知っていた?」
ラティアの問い掛けにディークは足を止めて首を横に振る。
そんなディークを見て、ラティアも足を止める。そして、ラティアはその場に座り込み、砂漠の砂を両手で掬い上げる。
ラティアの両手の隙間から溢れ落ちる白い砂。
そんな白い砂が夜の月明かりに照らされて、きらきらと光り輝いている事に気付き、ラティアは声を漏らす。
「綺麗……」
「ですね」
ラティアとディークの声は心地良い夜の風に溶けるように消えていく。
そんな二人の姿を見守るように夜の空に浮かぶ月は砂漠の砂とラティアとディークを姿を照らしていた。
✧✧✧
目的地であったアバール砂漠がある街〈ベルン〉へと着いたラティアとディークは夜ご飯を済ませる為に良さげなお店に入ることに。
店内に入るとラティアとディークは女性の店員に空いている席へと案内される。
「ご注文決まりましたら、お呼び下さい。ごゆっくりどうぞ」
若い女性店員はそう告げて、立ち去って行く。ラティアとディークは席に着き、店員の背を見送った後、机の上に置かれていたメニュー表を手に取り、口を開く。
「どれも美味しそうね」
「そうですね」
夕食を済ませたラティアとディークは、お店を出て、アバール砂漠へと向かう為、夜の空の下、ベルンの街並みを横目に歩き始める。
互いに無言のまま歩くラティアとディーク。
しかし、無言に耐えかねたラティアは隣を歩くディークに話し掛ける。
「ディーク、貴方はどうして宝石病の研究を始めたの?」
「小さい頃、母親が宝石の病に侵されて、亡くなったんです。俺は病に侵されて命を落としてしまう人を、一人でも多く救いたい。そう思って、宝石の病を研究を始めたんです」
ディークは母親のことを思い出しながら、ラティアにそう伝え終わると、隣を歩くラティアの方を見て優しく笑う。
「俺はラティア王女、貴方の病を絶対に治してみせます」
ディークの強い芯のある声に、ラティアは感謝の気持ちを込めて、ありがとうと礼を返した。
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