テラーノベル
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いつ死んでも悔いはないはずだった。
クソみたいな母親が悪魔に殺されて死んだ後、流されるようにして公安のデビルハンターへと就職した。
面倒を見てくれた先輩も、一緒に頑張ろうと励まし合った同期も、可愛がっていた後輩も、組んでいたバディも、全員死んだ。
この世界は「まとも」で「優しい人」たちから死んでいく。
私が自分の寿命を代償に悪魔と契約して、力を貸してもらっていると知った人は、全員私を心配してくれた。だから死んだ。
私も、早く死にたい。
誰かの嗚咽と血の匂いに頭がクラクラする。体中が痛い。
はぐれたバディや悪魔に襲われていた一般人たちの安否を確認したかったが、ボロボロになった体では、指一本動かすことすら叶わなかった。
─いつも通りの悪魔退治だったはずなのに
あらかじめ用意されていた資料には載っていなかった悪魔の能力に手間取ってしまった。私がよそ見したせいで、私を庇ったバディが悪魔に殴られ、どこかへ飛ばされてしまった。
ボロボロになりながらも契約している悪魔を呼び出し、どうにか勝てたが、このザマだ。手は折れ、全身は血まみれ。意識もぼんやりとしてきた。呼吸をするだけで肺が痛み、目眩が止まらない。
魂の抜けかけた自身の体にべたりと付着している赤い血や、無残な方向に折れ曲がった手足をぼんやりと見つめていると、不意に少し離れた場所で幼い少女の泣き声が聞こえてきた。
痛む首を動かし、視界を動かす。
少女のすぐ近くでは、父親らしき人物が頭から血を流し、瓦礫の下敷きになってぐったりとしていた。
泣き叫ぶ少女の声と、微かに聞こえてくる父親の呻き声が、活動を停止しかけていた私の聴覚に突き刺さる。 「はやく助けなければ」と頭では分かっているのに、肝心の体は鉛のようになって動かなかった。
せめてあの少女だけでも逃がしてあげたい。それなのに、喉から出てくる声は軋んだ音をしていて「逃げて」の三文字すらも言えず、伸ばした手は力なくぺたりと地面に打ち付けられた。傷だらけの 体から段々と流れ出ていく生温かい血に、‘‘生きている’’という実感が自分の中で少しずつ薄れていくのを感じた。
‘’死ぬ‘’。
そう悟った瞬間、不思議と怖くはなかった。デビルハンターにしては長生きした方だろうという納得と、やっと死ねるんだという少しの安心。
そんな感情を抱きながら、もうすぐそばに迫ってきた死を受け入れるように瞼を閉じた瞬間。
「へい人間ちゃん」
不意に砂利を踏むざらざらとした音に紛れて、誰かの声が聞こえてきた。
低くも高くもない、少年のような声。
その声に誘われるように、腫れぼったくなった瞼をゆっくりと開け、声の主を確認した瞬間。私は目を見張った。
「生きてるかい?」
私と同じ公安のスーツを着ている小柄な少年。髪と同じ色をした彼の綺麗な瞳が血まみれで汚い私を映す。
その背についている真っ白な羽と、頭上にぷかぷかと浮いている黄色の輪に、止まりかけていた心臓がどくりと大きく跳ね上がり、思考が一瞬止まった。
『ぃ、いきて……ま、す』
たぶん、この瞬間。
私はこの悪魔に、
すべてを奪われた。
コメント
5件
がーーーてんさい 天使ってこんな口調なんだね!?映画見に行ってないしアニメでもちょろっとしか写ってないからわからんーー🥹🥹 とりあえず脳内で内田真礼さんボイスで再生されました…👍🏻💕💕
今回もとても良かったです! 特に悪魔の所を天使の呼び方に変えていたのが印象的でした! 次回も連載楽しみにしています!
没の予定でしたが投稿するものがなかったのでとりあえず投稿します。5話まで連載予定です。よろしくお願いします!