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3日目の朝は、沖縄の澄んだ青空が広がっていた。みことはまだ少し眠たげな目をこすりながらも、興奮を隠せない様子で身支度を整えていた。すちは落ち着いた表情で準備を済ませ、二人はホテルを出て港へと向かう。
港には既にホエールウォッチングの船が停泊していて、乗り込むと軽やかな潮風が顔を撫でた。波の音と船体が揺れる感覚にみことは少し緊張しながらも、すちの手をそっと握り返す。すちはその手を包み込むように握りしめ、穏やかな笑みを浮かべた。
船が沖へ進むにつれて、みことの表情は次第に明るくなっていく。遠くの海面に潮を吹き上げるクジラの姿が見えた瞬間、みことは「わあ…」と息を呑み、目を大きく見開いてすちに顔を向ける。すちはそんなみことの感動した顔を優しく見つめ、そっと肩を抱いた。
波間にゆらゆら揺れながら、二人は静かに時を過ごす。青い海と空の間で、ただ寄り添い、クジラたちの雄大な姿に心を奪われる。みことはすちの胸に顔を埋めながら、小さな声で「すちと一緒に見られて嬉しい」と囁き、すちは「これからもずっと一緒だよ」と優しく応えた。
その特別な時間は、二人の絆をさらに深め、忘れられない思い出として胸に刻まれていった。
午後、2人は美ら海水族館へ向かい、広大な水槽の前に立った。みことはふと、ゆらゆらと優雅に泳ぐクラゲの群れを見つめながら「くらげって、ずっと見ていられるね」と静かに言った。
すちはみことの言葉に微笑みながら、「本当だね。まるで時間がゆっくり流れてるみたいだ」と応じ、そっとみことの手を取った。温かく繋がった手の感触に、みことはほっと安心しながら、すちの腕に寄り添うようにして館内をゆっくりと歩いた。
ゆらめくクラゲの光に照らされて、2人の影が水槽の壁に揺れ、静かな時間が優しく包み込む。みことはすちの手を握り返しながら、「すちと一緒だと、何気ない瞬間も特別になる」と小さな声で呟いた。
すちはその言葉にぎゅっとみことの手を握り返し、「これからも、こんな風に一緒にいよう」と静かに約束した。二人は手を繋ぎながら、水族館の静けさと美しさに浸っていった。
メインの大水槽「黒潮の海」にたどり着いた2人は、目の前に広がる青い世界に思わず息をのんだ。悠々と泳ぐジンベエザメが姿を現すと、みことが思わずぽつりとつぶやいた。
「……この魚って、食べられるのかな」
思わずすちは吹き出し、「食べる発想!?可愛すぎるでしょ」と笑いながらも、「でもジンベエザメって、食用にされることもあるらしいよ。あんまり一般的じゃないけど」と、少し真面目に答えた。
「へぇ……そうなんだ」と感心しつつ、みことは目を丸くして水槽を見つめ直す。「でもこんなに大きいの……どこから食べるんだろう」
ジンベエザメが目の前をすっと通り過ぎた瞬間、みことは指をさして「ねぇ、見て!おっきい……!」と嬉しそうに声をあげた。
すちはその様子を優しい眼差しで見つめ、「ほんとに大きい。圧巻だね」とつぶやきながら、みことの肩に手をまわした。
「なんか、すちの方が安心するな。こういう場所でも」とみことが小さく呟くと、すちは軽くキスを落とすように額を撫で、「俺も、みこちゃんと居れるの嬉しいよ」と囁いた。
水槽の中では、魚たちが静かに流れ、2人の静かな時間をそっと包み込んでいた。
夕食後の街の灯りを名残惜しそうに眺めながらホテルへ戻った2人。ゆったりとお風呂を済ませ、浴衣姿でベッドに腰掛けたみことは、タオルで髪を拭きながらどこか落ち着かない様子だった。
すちはその様子に気づき、隣に座りながら笑う。「どうしたの?ずっとそわそわしてない?」
「……ん。あのね」とみことは目をそらしながら、持参した紙袋をそっと取り出す。「ずっとタイミング見てたんだけど……これ、旅行中に渡したくて……」
紙袋の中には、事前にひまなつといるまと選んだ、すちとのペアになるキーケースとシャツ。みことは恥ずかしそうに差し出しながら、「いつもすちに色々もらってばかりだから……何か返したくて」と小さな声で言った。
すちは驚いたように目を見開き、それから優しく微笑んで、みことの手から袋を受け取る。
「……みこちゃん、ありがとう。すっごく嬉しい」
キーケースを手に取り、シャツを広げながら、「センスいいね。俺こういうの好き」と真っ直ぐに伝えると、みことは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「おそろいのもの持ってたいって……なっちゃんといるまくんに相談して……」
「おそろい、いいね。これで毎日、みこちゃんのことをもっと近くに感じられる」
そう言って、すちはみことの手を取ってぎゅっと握った。
「……ありがとう、宝物にする」
その言葉に、みことはぽろっと涙をこぼしそうになり、慌てて目元を拭う。
「なんで泣くの?」とすちが驚くと、みことは首を振って「うれしくて……へんなの」と照れたように笑った。
「俺のほうこそ、みこちゃんにいっぱいもらってるよ。言葉も、気持ちも、全部」
やわらかな夜の空気のなか、すちはそっとみことを抱きしめた。ホテルの部屋に、静かな優しさが満ちていく。
みことは、プレゼントを渡し終えたあともどこか落ち着かない様子で、視線を泳がせながらすちの膝の上に指先をのせた。
「……それと、もうひとつ、言いたいことがあって……」
すちは少し身を乗り出して、みことの顔をのぞきこむように見つめる。「うん、なに?」
みことは唇を噛んで、深く一度息を吸い込む。そして、恥ずかしさに耐えるようにぎゅっと目をつぶり、か細く声を絞り出した。
「……おれのこと……たべて……?」
その瞬間、みことの耳まで真っ赤になっていく。声はとても小さくて、すちが「え?」と聞き返そうとした瞬間、みことは顔を手で隠してしまった。
「っ…え、えと……じ、冗談だよ、忘れて、やっぱなし……っ」
言いながら顔を背けようとしたその瞬間、すちは優しくみことの手を取り、そっと顔を覗き込む。そしてゆるやかに微笑んだ。
「……可愛すぎるんだけど、みこちゃん。それ、今俺に言ったの?本気で?」
「も、もういいってば……っ、ほんとに忘れて……!」
「無理だよ、そんなの。一生忘れられない」
そうささやいて、すちはみことの額にキスを落とす。恥ずかしさと嬉しさで震えるみことの手を、すちはそっと自分の胸の上に重ねた。
「じゃあ……大事に、大事に、いただきますね?」
その言葉に、みことの心臓はまたひとつ跳ねた。沖縄の夜は、潮風のように甘く、優しく、そしてふたりだけの時間を深く染めていった。
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