涙も、笑顔も、たくさん流れて。
塔のまわりは、いつのまにか夜風だけが吹いていた。
「……なぁ、シンム兄さん」
レイがふと、口を開く。
「昔話の続き、まだ聞いてないぞ」
「そうだよ。聞かせてよ、シンム兄さん」
ノーマンが、優しく目を細めて――
「君が“ひとりきりで残った”夜、何を考えてたのか」
その言葉に、エマもギルダも、ドンもフィルも、双子も、静かに耳を傾ける。
「……ふふっ、聞きたい? じゃあ、教えてあげる」
シンムは、階段に座って空を見上げながら、そっと話し始めた。
「君たちを“扉の向こう”に押し出してからね――
すぐに“閉まった音”がして、
世界から色がなくなった気がしたんだ」
「“やっと自由になれた”って、思ったはずなのに。
寂しくて、怖くて、――寒くて仕方なかった」
「それでも、ね」
「“やらなきゃ”って思った。
だって、僕が君たちの代わりに残ったんだもん^^」
🧪【“先生”になるまで】
「最初は……村をまとめることから始めたよ」
「鬼たちは混乱してて、ルールも信頼もなかったからね」
「でもね、意外と“優しさ”って伝わるんだよ」
「あの塔を建てて、“こんにちは”って言うだけで――
鬼たち、泣いちゃってさ」
「人間を食べずに生きていくのは、大変だった」
「でも、子どもたちが“人間の絵本”を好きになってくれて」
「“ありがとう”って言ってくれて――そのとき、思ったんだ」
「あぁ、僕……生きてて、よかったな、って^^」
🐾【子どもたちの声】
「シンムせんせい~!」
塔の中から、鬼の子どもたちが駆けてくる。
「……あ、ねぇ、ねぇ、明日の授業、“人間のあそび”やろうよ~!」
「かくれんぼ! 鬼役は、シンムせんせいがいい~!」
エマがくすっと笑う。
「人気者だね、せんせい」
「……ふふっ、ほんとはね」
「僕、先生なんて、向いてないと思ってたんだ」
でも、とシンムはみんなを見て、笑った。
「今は、“生きててよかった”って心から思うよ^^」
そして。
その夜の最後、
フィルがシンムの手を握って、ぽそっと言った。
「……おかえり、シンムお兄ちゃん」
「うん、ただいま^^」
鬼と人間が共に過ごす世界で。
ひとりの先生と、たくさんの家族たちが――
そっと昔話を終え、
またひとつ、笑顔を重ねた夜だった。