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「俺のことを好きにならないでね」


「えっ」


「あー、違う。ナルシストとかじゃなくて」


なんと言い直そうか悩んでいる私の目の前にいる男の子……凪誠士郎くんは、自身の髪を手で掻いた。

その仕草に合わせて凪くんのふわふわの髪が揺れる。

凪くん可愛い……と思っていると凪くんがさっきの発言を訂正した。


「なんかさ、俺のお世話をしてくれる人ってみんな俺のことを好きになっちゃうんだよね。みんな、俺のことをほっとけないとか言って」


「なるほど……わかる気がする」


「えー、わからないでいいよ」


そう、凪くんは可愛い。

私は今日から可愛い凪くんのお世話係に任命された(正確にはじゃんけんで負けたからお世話係になった)。


お世話係の業務内容は、いつも寝てばかりの凪くんを移動授業に遅刻しないように起こしたり、寝ているせいでお昼を食べ損ねたりすることがないように凪くんをサポートすればいいのである。


『凪誠士郎くんのお世話係』になるための条件は一つ、絶対に凪くんを好きにならないこと。


「めんどくさいことに関わりたくないから、俺のことを好きにならないでほしいの」


「……うん、わかった」


……ごめんなさい凪くん。

私は嘘をつきました。

好きにならないでなんて言われてももう遅い。

私、実は凪くんのことが大大大大大好きなんです。



・ ・ ・


白宝高校二年生の凪誠士郎くんは私の隣のクラスの男の子で、私が凪くんのお世話係を始めてから三ヶ月が経った。


今日も凪くんは可愛い。

跳ねた寝癖が可愛い。

優しくておっとりした喋り方も可愛い。

身長が本当は190センチと高いはずなのに、いつも猫背でのんびり歩いている姿が可愛い。

凪くんは私がお世話係になる前からサッカー部に所属していて、最近女の子にモテ始めたらしい。


「凪くん、お昼の時間だよ」


休み時間に凪くんを起こしにいくと、


「んにゃ……おはよぉ……」


と凪くんが返事をした。


「(うぅ、今日も可愛い)」


毎回凪くんにキュンとしてしまっているけれど、幸い私が凪くんの行動全てにキュンとしていることは凪くんにバレていないらしい。

バレなければギリギリセーフなはずだ。

バレたら凪くんのお世話係を辞めさせられてしまう。

それは嫌なので、私のこの気持ちは隠さなくてはいけないのだ。


私は心を無にして凪くんに話しかける。


「おはようっていうか、もうお昼だよ。屋上に行ってお昼食べよう?」


「ご飯食べさせてくれる?」


キュン。


「……うん、食べさせてあげる。」


「お昼食べたあとお昼寝したいから膝枕してくれる?」


キュンキュン。


「……うん、もちろん」


「ふわぁ……。あ、でっかい欠伸しちゃった」


キュンキュンキュン。


「う……っ」


私はキュンキュン響いて鳴り止まない心臓をなんとかしたくて手で胸元を押さえる。


「なに、どうしたの」


当然目の前で変な行動をし出した私を見てどこか心配そうに凪くんが私に顔を近付けて、自身の額と私の額をくっつけた。


「……熱はないみたいだけど。……いや、やっぱり熱ある?なんか熱くない?」


「チョットヨウジガアルノデサキニオクジョウニイッテテクダサイ」


「え、何そのロボットみたいな喋り方」


ぽかんとしている凪くんから逃げるべく私は走って凪くんから距離を取る。

そして周りに誰もいないことを確認してからその場にしゃがみ込んで、


「うううぅぅぅ凪くん可愛い……っ!」


一人で凪くんの可愛さを噛み締めてしまう。


あんな、唇と唇が触れてしまいそうなぐらい近くに凪くんの顔があった。

凪くんの顔は綺麗で、肌の色は白く透き通っていて、距離が近くなったことによって凪くんからなんだか良い匂いがして……もうだめだった。


あと少し遅ければ、真っ赤になった私の顔を見られていたことだろう。


「ギリギリセーフ……」


ふぅ、と息を吐く。

頬が熱い。

一ヶ月凪くんのお世話係をして、良くも悪くも凪くんは私に少しだけ懐いてくれた。

そのせいで距離が近くなってしまって、どんどん私が凪くんにキュンとする頻度が増している。


「……私の気持ちは、絶対バレないようにしないと」



・ ・ ・


気持ちを落ち着けてから屋上に向かい、凪くんにご飯を食べさせてあげて、膝枕をしてあげたら凪くんはまずお昼寝ではなく私の膝の上に寝転んだままゲームをし始めた。


「ねー見てー、ガチャでレアキャラ当たった」


キュン……。

自慢してくる凪くんが可愛い。


「可愛い……」


「可愛い?何が?」


「あ、その、えっと、ガチャで当たったキャラが可愛いなぁって……!」


いけないいけない、うっかり凪くんのことを可愛いと言ってしまったけど、なんとか誤魔化せた。


「え、これ可愛い?……イエティだけど」


この子はイエティって言うんだ。

イエティってなんだろう、あとで検索してみようと思いながら改めて凪くんが見せてくれた携帯の画面を見る。


「可愛いよ。ほら、よく見たらこのイエティは目もキラキラしてるし。大きくて、毛がもこもこしてて暖かそうだし」


「そんなに熱弁するほどイエティのことを可愛いと思うんだ。まぁ人それぞれ好みってあるからね」


私はイエティ好きの女子高生だと勘違いされてしまったようだ。

でも見れば見るほど本当にイエティは可愛いと思える。

大きくて、ふわふわで。


「イエティって凪くんに似てるね」


「まじか、」


珍しく凪くんにドン引きされることと引き換えに、


「俺のこと嫌いなの?」


そんな勘違いをされるぐらいにはイエティ好き発言で凪くんから見た私に対する好感度を下げることに成功したらしい。

とりあえず一安心。

いや、安心できることではないかもしれないけど。

凪くんに嫌われちゃったら少しだけ……ううん、かなり悲しいなぁと思っていると、


「俺のことを嫌いにならないでね。」


きゅるん、と瞳を潤ませて。

私に膝枕されたまま上目遣いで私のことを見つめている凪くんがそこにいた。


「……き、嫌いになんて、ならないよ」


だめ、このまま凪くんを見つめていたら絶対キュンキュンしてしまったことを隠すことが出来なくなってしまう。

私が目を逸らそうとすると、凪くんが腕を伸ばして私の腰に抱きついてきた。


「じゃあ目を見て俺のことを嫌いじゃないって言って。嫌いにならないって約束してくれなきゃやだ」


「……」


……凪くんは私をキュンキュンさせて、私の息の根を止めようとしているんじゃなかろうか。

死因がキュン死なんて嫌だ。


私はなんとか真顔で、


「キライジャナイヨッ」


と言うことでこの場をやり過ごした。



・ ・ ・


「お前って凪のことが好きだったりする?」


とある日の放課後、私は玲王くんという凪くんの一番のお友達に話しかけられていた。

ちなみに元々凪くんのお世話係を募集し始めたのは玲王くんらしい。

玲王くん曰く『俺一人であの赤ちゃんを育てたいけど、ずっと見てる時間がないから誰かに育ててもらいたい』とのことだった。

まるでベビーシッターの募集である。

じゃなくて、話を戻さなくては。


「え、えと、私は凪くんのことを、その、す、すす、好きではなくて、」


「あー大丈夫、凪は今部室でジャージに着替えてる最中だからしばらく来ないと思う。」


私の気持ちは完全に玲王くんにはバレているらしい。


「……私って、そんなにバレバレかなぁ……」


じわじわと赤くなっていく頬に手を当てて俯くと、玲王くんが肩を揺らして笑う。


「いや、どうだろ?俺は凪のことよく見てるからすぐ気付いたけど。告白とかしねぇの?」


「好きになっちゃだめなの。最初に凪くんと約束したから」


約束はちゃんと守らないとだめだ。


「でもお前らってどう見ても両思……うぉ、凪!」


玲王くんが驚いたように私の後ろを見た。


「なんの話してんの」


いつの間にか私の後ろに立っていた凪くんは、私にぎゅ……と抱きついてくる。


え?????


「……なぁに、変な顔して」


私が固まってしまうと、凪くんが私の顔を覗き込んでくる。

でも私は返事をすることができない。

前から思っていたことだけど、凪くんって人との距離感がおかしいと思う。

大好きな人に抱きしめられたら、平静を保つことなんてできそうにない。


どうしよう、どきどきしないでお願い私の心臓……!と心臓に向かって祈っていると、凪くんが私の肩にぐりぐりと頭を押しつけてきた。


「俺に内緒の話しないで。寂しいじゃん」


ドカン!!!!!


「………………え、何今の音」


私の心臓の音です。


「おい凪……その辺にしといてやれよ。困ってるだろ?離れてやれよ」


フォローを入れてくれた玲王くんのことをじとりと睨みつけた凪くんは、


「やだ。ぎゅってする」


ぎゅう……と私を抱きしめる手に力を込めた。


ドカンドカンドカン!!!!!


もうだめ、凪くんやめて。

これ以上可愛くならないで。

好きになっちゃうから。

いや、もう既に大好きだけれども。



・ ・ ・


「誠士郎のお世話係、代わってくれない?」


同じクラスの女の子に突然話しかけられた。


「えなちがさぁ、誠士郎のこと好きなんだよね。だからえなちにお世話係をやらせてあげたいと思うわけ。協力してくれるでしょ?」


私はそのえなちさんを知らないのだけど……。


「最近誠士郎のこと好きになったんだって。応援してあげたいと思わない?」


「え……あ……う……でも、」


「じゃあそういうことで」


「……!」


勝手に話が終わってしまった。

やだって言わなきゃだめだったのに。

私が凪くんのお世話をしたいって、私が凪くんの傍にいたいって言いたかったのに言い返せなかった。


……でもちょうど良かったのかも。

凪くんに私の気持ちがいつバレてもおかしくない状況だったわけだし。

今のうちに距離を置くのはいいことかもしれない。

凪くんと私はクラスが違うから、私がお世話係を辞めれば会うこともなくなるだろうし、うん、これで良かったんだ。

でも。


……私が先に好きになったのに。


好きになった順番なんて関係ないとわかっていても私はずっと凪くんのことが好きで。

一生両思いになれなくてもいい。

友達じゃなくてお世話係のままでいいから。


私はずっと、凪くんの傍にいたかった。



・ ・ ・


凪くんのお世話係を辞めた日、たまたま携帯が壊れてしまったから私は凪くんと連絡を取れなくなってしまった。


でも凪くんから私に連絡してくることはないだろうし、私の携帯の友達リストには凪くんしかいないから壊れても修理しなくてもいいや、と思っていたら、


「あ」


たまたま屋上に向かおうとしている凪くんと廊下でばったり会ってしまった。

凪くんと会うのは一週間ぶりだ。


「携帯。どうしたの?」


挨拶もせずに凪くんが私の目の前に立って問いかけてくる。

私の携帯事情が気になるらしい。


「その、壊れちゃってて」


「ふーん」


……なんだったんだろう今の質問、と思っていると凪くんがポケットに手を突っ込んで何やらごそごそ探しながら言う。


「ここ最近メッセージ送ってんのに既読にならないから、心配してた」


「え……」


「渡したいものがあって」


凪くんが私にメッセージを送ってくれてたんだ、と少しだけ嬉しくなってしまうと、凪くんはポケットの中からお探しのものを発見したらしい。


「はい、これ。手を出して」


「え?こう?」


「うん」


凪くんは私の手のひらの上にイエティのキーホルダーを置いた。


「ほら、前に君がイエティ好きって言ってたから。それでこの前イエティのガチャガチャがたまたまあったから回してきた」


「……ふふ、こんなキーホルダーがあるんだね」


イエティのキーホルダーってかなり珍しいと思うけど、やっぱりイエティは可愛いかもしれない。

それにイエティを見て、私にあげようと思ってくれたことが嬉しい。


「このキーホルダーも凪くんに似てるね」


「まじでそれは嬉しくない」


「……ありがとう。大切にするね」


少しだけ嬉しくて泣きそうになっていると、凪くんがぽつりと呟く。


「なんでお世話係辞めちゃったの」


「……!」


さっきから普通に話していたから、凪くんは私が辞めたことなんて気にしていないと思っていた。

これからはたまたますれ違ったときに挨拶する関係になるのかなって思っていたのに。


「急に辞めちゃうし。辞める二週間前に雇用主に伝えなきゃいけないのは常識じゃないの?」


凪くんに常識なんてものがあったんだ……じゃなくて。


「えっと……凪くんのお世話係って人気になったの。きっと凪くんがサッカー部で活躍してるからモテ期が到来したんだと思う。だからお世話係をやりたがってる人に譲ったというか」


「ふぅん……」


凪くんは唇を尖らせて話を聞いている。

やっぱり凪くんは可愛い。


「……それに、えっと。私にお世話係は向いていなかったというか」


「……」


お互い黙り込んでしまったとき、見知らぬ女の子が凪くんの元に走ってきて凪くんの腕に自身の腕を絡めた。


「もぉー、探したんだから!何してたの誠士郎〜」


随分凪くんと距離が近そうに見える。

もしかしてこの子が凪くんの新しいお世話係のえなちさんなのかな。

こ、この子……おっぱいが大きい。

凪くんの腕に大きなおっぱいが当たっている。


恐る恐る凪くんを見ると、


「脂肪の塊が当たってるから離れてくれない」


心底嫌そうに眉を寄せて凪くんがえなちさんの腕を振り払っていた。


「照れないでよ誠士郎〜!」


「……」


なんというか、私はお邪魔なのでは?

これ以上凪くんと話す用事もないわけで、私はこっそりその場から逃げ出した。



・ ・ ・


「……あれ、これは……凪くんの携帯だ」


また凪くんと話さなくなってしばらく経った頃、私は放課後先生に頼まれた備品の整理を終わらせて帰ろうとしたら凪くんの携帯が何故か私の机の上に置いてあった。

もしかして凪くんは私に会いに来てくれたのかな?それで、私の机の上に携帯を置き忘れちゃったってこと?

うっかり屋さんだな……。


キュン。


「いけないいけない、携帯を届けなくちゃ」


ついときめいてしまったけど必死にときめくのを堪えて私は凪くんを探しに校内を歩く。

今の時間だと部活中かな……?あ、でもそろそろ終わる時間だから部室に行ったほうがいいかも、と思って部室に入ったつもりだった。


「……あれ?」


ここはシャワー室だ。

そもそも部室棟に行くことが滅多にないから部屋を間違えてしまったらしい。

早く部室に行かなくちゃ、と思っていると、


「ねぇ玲王〜。シャワー壊れてて冷たい水しか出ないんだけ……え」


シャワー室の奥から、凪くんがひょっこり現れた。


全裸の凪くんが。


「……」


「……」


そ、それは、うん、シャワー室にいるんだから裸だよね。

どこを見ればいいんだろう、上を見て、下を見て。


「……え、あ、その、大きいね……!」


「どこ見て言ってんの」


言葉選びを間違えた。


「ごめんなさい覗こうとしたわけではなくて、携帯を……そう!凪くんに携帯を届けようと思って」


シャワー室で裸の人を見たら顔が赤くなるのは普通?いやわからない、とにかく心を無にしないと。


私は今、シャワー室で凪くんの裸を見たけど、凪くんは身体を洗っていたけど普通に洗っていたわけではない(?)。

そう、これは沐浴。

可愛い赤ちゃんが一人でお風呂に入ったようなもの、ただそれだけ……。


「変」


不意にそう呟いた凪くんが私の腕を掴んでぐいと自身の胸元に私のことを引き寄せた。

凪くんの身体が濡れているから私の制服まで濡れてしまったけど、そんなこと凪くんはお構いなしである。


「顔色が変だよ」


「えっ……」


まさか私の気持ちがバレて……。


「顔が真っ青」


なんとか真顔になろうと心掛けたせいで、具合が悪い人だと勘違いされているのかもしれない。


「携帯を届けるためとか言って、のこのこシャワー室に入ってくるのは危機感がなさすぎじゃない?」


「ごめんなさい部屋を間違えて……!本当は部室に行こうとと思ってて、それで」


「まぁいいけど。そもそも君と二人きりになりたいからわざと携帯を机の上に置いといたんだし。そうすれば絶対君は届けに来てくれるでしょ」


「……今なんて?」


わざと携帯を私の机の上に置いたってこと?なんで?いや、今二人きりになるためって言ってたけど、なんで二人きりになりたいと思ったの?


「なんで目を逸らすの。俺のこと見て」


裸だから目のやり場に困るのだけど……私がぎゅっと固く目を閉じると、突然凪くんが切ない声を出した。


「やっぱり俺のこと嫌いになっちゃったの……?」


キュン。


こんなときでもときめいてしまう自分が嫌になる。


「な、なんで、わざと携帯を机に置くなんてことするの。お世話を頼みたいならえなちさんって人に頼めばいいんじゃないの」


「あぁ、あの子はお世話係クビにした。俺のことを好きって態度で見てくるところが無理」


「く、クビ……」


「ずっと気になってたから今聞くけどさ、君って俺のこと好きだよね?」


「………………」


終わった。

私の恋が終わる音が聞こえた。


ただ凪くんを眺めて、可愛いなぁってキュンキュンして、それだけでよかったのにお世話係になってしまったせいで気持ちがバレてしまったんだと思う。


「まぁ、根拠とかなくて俺の勘なんだけど」


……いや、バレてないかもしれない。

まだ誤魔化せる……!


「好きじゃないよ。だって、凪くんと約束したもん。お世話係になる以上凪くんのことを好きにならないって」


「うん、だからいいじゃん。お世話係じゃないなら俺のことを好きでいても」


そんなの屁理屈だと思っていると凪くんはやっと私から離れてタオルで身体を雑に拭くと着替え始めた。

最初から着替えて欲しかったな……じゃなくて。


「髪の毛がまだ濡れてるよ」


凪くんが手に持っていたタオルをお借りして凪くんの濡れた髪を拭いてあげると、凪くんが心地良さそうに目を閉じながらぽつりと呟く。


「好きになってくれればいいなぁって思ったんだよ」


「……え?」


「俺が君のこと大好きだから、君も俺のことを好きになってくれればいいなぁって」


ゆっくりと凪くんが目を開けた。

凪くんは私と目線を合わせるために屈んでくれていたからばっちり目が合ってしまう。


「俺のことをお世話してくれるときの感じとか、俺を見てる君の目が俺のことを好きって言ってるように感じてたんだけど、全部俺の勘違いだった?」


「……」


こくりと首を縦に振ると、凪くんがそっか、と小さな声で返信をした。


「じゃあ、俺のことを好きになって」


好きになっても何も、私はとっくに手遅れなほど凪くんのことが好きなのに。


「お世話係に向いてないとか君が自分で言ってたけど、それは俺が決めることであって、君が決めることではないんじゃない」


「……」


「お世話係とか関係なく、一生俺のお世話してよ」


一生俺のお世話してよ?……なんという赤ちゃん発言。

なんという自立心のなさ。

普通の人ならドン引きしてると思う。

でも、私は。


キュンキュンキュンキュンキュン……!!


だめだ、どうしてもときめく気持ちをを抑えられない。

だって元々私は凪くんの行動が全部ツボで、凪くんの全てにときめいているのだから。


凪くんの瞳に、顔を真っ赤にして瞳を潤ませている私が映っていた。

だめ、お願い私を見ないで。


「好きなんでしょ、俺のこと。早く認めなよ」


なんでそんなに上から目線なの、可愛い……!いや、可愛くない、全然可愛くないはずなのにときめいちゃう……!


「す……っ、好きじゃない……」


私はなんとか好きじゃないと言えた。

だから私の気持ちはバレていないと思いたい。

ギリギリセーフ……だよね?


「好きじゃないの?」


「うん、うんっ」


何度も頷く。


「ほんとにほんと?」


凪くんに見つめられていると、嘘をつけなくなっていくのはどうしてなんだろう。

嘘をついても、どうせ見破られてしまう気もしてくる。


「……好きじゃない……けど、」


「けど?」


「やだ」


「やだ?」


「……お世話係を辞めたくないから、やだってほんとは言いたかったの…… 私が凪くんのお世話をしたいって、私が凪くんの傍にいたいって言いたかったの……」


凪くんを誰にも渡したくないとか、独り占めしたいとか、そんな風に思うのは欲張りだとわかっているけど、でも。


「……凪くんのお世話を一番上手にできる自信はないけど……でも、私が一番頑張って凪くんのお世話をしたいって思う気持ちだけは誰にも負けないから」


私の話を黙って聞いていた凪くんは、何かを閃いたように大きく頷いた。


「やっぱり俺のこと好きでしょ」


「ち、違う……」


「顔真っ赤だよ。俺のこと好きって顔してる」


「うぐ……」


何も言えなくなってしまった私のことをこてんと可愛らしく首を傾げて見つめてくる凪くんを見ていたら、やっぱりキュンとしてしまって。


「はい、アウトー」


「あ、アウト……!?」


ギリギリセーフじゃなくてアウトだった。

私の頬を両手で包み込んだ凪くんは、少しだけ瞳を細めてどこか楽しそうに言った。


「アウトだから、おとなしく俺に捕まってください」

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