コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
僕とダンさん、注目株のグランと言う初老の男性、そして、龍族の一味のヴォルフは、他の追随を許さない程の猛攻で圧倒し、遂に準決勝戦まで上り詰めた。
その殆どが、一発ノックダウンと言う波乱な展開に、観客席は大興奮を抑えられずにいた。
準決勝、第一試合は、僕とグランと言う男性。
守護神であるダンさんと渡り合う実力者だと客席では声が上がっていた。
「ダンの認める旅人さんか。お手柔らかに頼むの」
「あ、いえ……こちらこそよろしくお願いします……」
なんだか、強いとは聞いていても、老人と戦うのは気が引ける……。
なんて思わされたのは、最初だけだった。
グランは岩魔法の使い手で、脚と腕から拳に掛けて長い鎧を身に纏った、ランガンのような戦闘スタイルなのだが、全身をゴーレムにしてしまうランガンとは違い、部分的に岩石に変えている為、スピードが比較にならないほど速い。
風の加護を受けている僕ですら避けるので精一杯……!
と言うか、一撃でも喰らえば即気絶する……!
「速度はかなりのモンじゃのぉ。風魔法の使い手か?」
「そうですね……。一応、風魔法で移動してます……」
七神から授かった風神魔法ってかなりのチート技だと思うのに、実践経験の差でここまで防戦一方に回されてるなんて言えない……。
風神魔法 ウィンドストームでの移動も、目で追った場所に高速移動する魔法の為、いくら一方通行の速度が早くても、相手の攻撃を避けながらだと、相手を上回る速度で挽回が成せなかったのだ。
「それじゃ、もう一段階ギアを上げるかの。本当はダンとの試合まで取っておきたかったんじゃが……」
そう言うと、グランの鎧は更に膨張した。
「ちょっ、待っ……! まだ早く……!?」
目では追えているのに……身体の反応が間に合わない。
速い……グランの岩の拳が目の前に……。
僕は咄嗟に木剣を前に、防衛姿勢を取った。
バコン!!
「わああっ!」
大きな音を立て、木剣は折れてしまった。
でもなんだ……折れる瞬間、何かを感じた。
《試合終了! 勝者! グラン!!》
これにて、僕は準決勝でグランに敗退した。
「お爺さんに負けちゃいましたね」
「実戦経験の差だと思う……。グランさん、相当戦闘慣れしてる様子だった」
「ふむ……」
アゲルは一本指を立てて微笑みかける。
「まあでも準決勝まで残ったんですし、喧嘩祭りが終わったら、無事に炎の加護も獲得ですね!」
「まあ、そうだな……!」
なんだろう。すごく悔しい。
でも、なんでだろうか。すごく、嬉しい。
アゲルと共に、カナンの待つ観客席へ向かうと、既にダンさんとヴォルフの試合が始まっていた。
しかし、僕とグランさんの試合とは裏腹に、観客席は静まり返っていた。
何故なら、
「おい……どうなってるんだ……!」
ダンさんが、防戦一方になってしまっているのだ。
観客たちは唖然としてしまっている。
「あー……。出ちゃってるな、アレ。一応、攻撃魔法になっちゃうのかなぁ……」
「ルーク! ……さん……! どう言うことですか!? 龍の加護が使えるなら、相当に強いとは分かっていたけど、ダンさんだって守護神……! ここまで一方的だなんて……!」
ルークさんは、ルールは厳守させようとしていたのか、一応祭りは成立させたかったのか、頬を掻きながら説明を始めた。
「ヴォルフが四つん這いになるとね、ヴォルフの爪から周囲に水魔法が放たれるんだ。あの会場内全域に広がってる水浸しのやつね。あの水陣の中では、ヴォルフは自身の移動速度を上昇させることができる。まあでも、それはみんなやってる移動魔法だからいいと思うんだけど……」
強者を前に、龍族のイカれた血が疼いたのだ。
「勝手にスイッチが入っちゃってるね。瞳孔開いちゃってるでしょ。あの水陣には、もう一つ特長があってね……」
次の瞬間、ダンさんの棍棒は破壊された。
「自分以外の魔力を吸っちゃうんだよね……」
そして、ダンさんは準決勝で敗退となった。
「見ていられないな……。決勝戦は棄権させるよ」
そう言い、ルークさんは去って行ったのだが、暫くの時間の末、予定通り決勝戦のアナウンスが流れ始めた。
「あれ……? 棄権させるんじゃ……」
グランさんとヴォルフが出場して来る。
ヴォルフはニタニタと笑みを浮かべ、最早人とは形容し難いほど殺気立っているのが伝わった。
試合開始直後、ヴォルフが水陣を広げた瞬間、グランさんはその場に膝を突いてしまった。
「まずい! さっきの試合よりもっと早く相手の体力を吸収してるんだ!!」
このことを知っているのは僕らだけなのに……。
「ヤマト!」
そこには、炎の神 ゴーエンが立っていた。
そして、僕に木剣を手渡した。
「ダンも既に向かわせた。あのジジイを助けろ」
「でも……試合が……」
「アイツはダンとの試合の時点で既に、相手の体力を奪う、と言う半攻撃魔法を使用していた。ルール違反で失格だぜ。ジジイとダンの試合を改めて執り行う。その前に、違反者を排除して来い」
僕の目をまじまじと、真っ直ぐな瞳で見つめる。
「僕も……行ってきます!」
「あ、ちょっと待て」
「なんですか? すぐに向かわないと……!」
そう言うと、ゴーエンは僕の肩に手を乗せた。
「参加賞。炎の加護だ。任せたぜ、ヒーロー」
その言葉に、僕は黙って頷いた。
ヴォルフの周りには、ダンさんの棍棒から放たれたであろう大きな岩石で四方を封じられていた。
しかし、ヴォルフは難なく岩石を破壊する。
「よう、来たか! ヤマト!」
「ダンさん! 大丈夫ですか!?」
「おう! 治癒師に速攻で治癒してもらったからな! アイツの水陣に触れると魔力や体力が吸われちまう。俺が会場内に無数に岩石の足場を用意した。その上だけで戦うぞ!」
「分かりました!」
流石は守護神だ……!
見極める力と対応力が早い……!
ズシャア!!
しかし、次の瞬間、ヴォルフは遠方から爪を振るうと、ダンさんの胸に大きな傷を与えた。
「どうして!? あんな遠いのに……!!」
「大丈夫だ……! もう魔法は発動してある……!」
血を垂らしながら後退するダンさんの上空には、会場の半分を埋め尽くす程の、隕石にも見て取れるような岩石が集められていた。
「これが……ダンさんの加護魔法の力……!」
「ヤマト! 爺さん連れて反対側まで避けろ!!」
そして、ダンさんの大きな隕石が放たれる。
こんな大きな岩魔法、防げるはずがない……!
流石は守護神の力だ……!
ヴォルフを覆っていた最後の岩石を破壊すると、既に隕石はヴォルフの目前に迫っていた。
「ガァオォーーーン!!!」
ヴォルフは、狼の遠吠えのように叫んだ。
「雄叫び……? 勝てないと悟って叫んだのか……?」
「いや、違うぞ、ヤマト……」
ダンさんの顔が青ざめていく。
「俺の放った隕石を見てみろ……」
隕石は、ヴォルフの眼前で止められ、次第にビキビキと細かく砕け始めた。
「そんな……あの巨大な隕石を防ぐなんて……!」
「アレは、水魔法を口から振動させて放つ、透明で高火力の水魔法だ。アレこそが、水龍の加護の力だね」
「そんなことが……! って、ルークさん!?」
ルークさんは、初めからその場に居たような顔で僕らの避難した岩石の上に立っていた。
「棄権させるって言ってたじゃないですか!」
「いや言ったんだけどね!? アイツ、俺にもすっげえ殺気向けてくるし、こんなところで仲間割れも出来ないし、棄権させられなかったって戻ったら、君たちにも怒られそうだから、ギリギリまで隠れてたんだっ!」
そう言うと、うざったいテヘペロ顔を披露する。
「そんなんじゃ許されませんよ! まあでも、こうして解説に来てくれたのは助かりました。でも、これは仲間割れにはならないんですか?」
「他に見てる仲間もいないし、俺個人としては楽園の国とも良好な関係でありたい。ヴォルフも狼の習性で、連戦続きで理性もぶっ飛んで、俺の話なんてまるで聞いてくれない戦闘マシーンになっちゃってるしね! アハハ!」
アハハじゃないんだよ、まったく……。
そして、戦闘マシーンと化したヴォルフの瞳は、確実に僕たちを捉えていた。