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光の方へ
その人は春の昼下がりの日溜まりの様な人だった。
小さい頃、他の子どもとは違い外に出て遊ばず本ばかり見ていた私を誂うでも気味悪がるわけでもなくずっと一緒に居て笑わさせてくれた人であり、揺り籠を思わせる安寧を与えてくれる人
彼の周りには常に人が沢山いた。それが当たり前と言うように皆が彼を好んだ、人付き合いが得意ではない…興味がない私の対岸に居る人。私は彼に憧れを抱いていた、いや…それ以上の…
私は彼みたいになりたかった、人を笑わせて明るく出来なくとも少なくとも役に立ちたかった。頼られるような人間になりたかった。
コミュニケーション能力も、眩い笑顔も、人の目を引く身体能力もないが、彼のような光になりたかった
人混みの中でたまに見せる濁った瞳を見て、彼の力になりたいと思った。
「弁護士になろうと思う」
その言葉を彼に吐いたとき、きっと彼なら軽く笑って「頑張れよ」と肩に手を置いてくれるだろうと信じていた。
しかし、彼は表情を引き攣らせた。その瞳の奥に何があったのか知らないが笑顔とも真顔とも取れないそれに心の奥が傷んだ。
「あー…」
彼はへらりと笑って頭を掻いた、返事に悩んでいる時の癖だ。私に向けることのなかったはずのそれ
優しい彼は言えないのだろう。辞めておけと
それが痛いくらいに分かってしまった、掠れた母音が擦り切れた後の沈黙が語っていたから
それでも私は諦めきれなかった。
弁護士という形じゃなくとも、人を助けることは出来ることは出来るそう思った。……いや、弁護士になることを認めてほしい気持ちも少しあった。
だからこんな事をしたんだろうな。見知らぬ子供を助けて自分が轢かれるなんてこと
自分の命を費やさないと人を幸せにできない私はやはり彼のようにはなれないのかもしれない
揺らぐ意識の中、身体から血液が流れ出る感覚がする。肋骨が砕け臓器に牙を向けている、あまりにも強い衝撃を受け取り損ねた神経は機能せず。おかしな方向へ曲がった四肢はもう私のものではなくなっていた
私は彼の様な光になれたのだろうか。でも自然と満足感だけがある、これが自分に相応しいような納得感。
夢の中に居るような温かい感覚があるのはきっとその答えがでているからだと思う。
きっと、彼は頭を撫でて褒めてくれるだろう、そしてまたあの眩い笑みを零してくれる。
それだけで私は光であれる
日車寛見は彼の腕の中に包まれながら瞳を閉じた
コメント
1件
うわあ……これ、めちゃくちゃ刺さったわ。 「彼みたいな光になりたい」って願いが、最後の「それだけで私は光であれる」で回収されるの、切なすぎる。自分の命を差し出さなきゃ人を助けられない自分を「やっぱり彼のようにはなれない」って冷静に分析するところとか、理想と現実のギャップがリアルで苦しい。でも満足感と納得感だけがあるラスト、余韻が半端ない。 「光の方へ」ってタイトルも、最後の1文でドンッと効いてくる構成、好みだわ。続きがあるなら読みたいし、ここで終わりでも胸に残る1話だな。ありがとう喪𛃙ョ゙モギさん。