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yae

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それは、放課後の空き教室だった。
窓の外は茜色で、教室の床に長い影が落ちている。
吹奏楽部の音が遠くから微かに聞こえて、静かな空間にゆったり溶けていた。
「……みこと?」
すちは、珍しくそわそわしていた。
呼び出されたのだ。
しかも、“大事なお話あるの”なんて、みことが緊張した顔で言うから。
机の前で立ち尽くしているみことは、制服の袖をぎゅっと握り締めている。
耳まで赤い。
「どうしたの?」
優しく聞かれて、みことはびくっと肩を揺らした。
「……あのね」
「うん」
「……お、おれ」
声が震えている。
すちは急かさなかった。
ただ静かに待つ。
みことが勇気を出す瞬間を、ちゃんと受け止めたくて。
「……すちくんのこと、考えると」
みことは俯いたまま、小さく息を吸う。
「胸が、あったかくなるの」
その一言で、すちの心臓が跳ねた。
「一緒にいたいって思うし……手とか繋ぐと嬉しいし……」
ぽつり、ぽつり。
ゆっくり零れる言葉。
「他の人と話してると、ちょっとやだなぁってなるし……」
みことの顔はもう真っ赤だった。
それでも逃げない。
ちゃんと伝えようとしている。
「……これ、たぶん」
うるうるした目が、そっとすちを見上げる。
「好き、なんだと思う」
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
すちの思考が止まった。
「……ぇ」
「す、すちくんのこと、好きです……」
言い切った瞬間、みことは羞恥で顔を覆った。
「っ、ぁぁぁ、恥ずかし……!」
しかし次の瞬間。
「みこと!!!」
「ひゃっ!?」
勢いよく抱き上げられる。
「え、え、すちくん!?」
ぐるんっ、と視界が回った。
「えぇぇぇっ!?」
すちはみことを抱き上げたまま、その場でくるくる回り始める。
「好きって言った!?今言った!?」
「い、言ったけどぉ!回ってる回ってる!!」
「嬉しい!!」
「わぁぁぁ!?」
完全に浮かれていた。
すちは満面の笑みでみことを抱えたまま離さない。
「みこと好き!!」
「知ってるからぁ!!」
みことは半泣きだ。
けれど嫌がってはいなかった。
むしろ、自分の言葉でこんなに幸せそうになるすちを見ると、胸がいっぱいになる。
やがてようやく床へ下ろされても、すちはすぐにみことを抱き締めた。
ぎゅううう、と。
「すちくん、くるし……」
「無理。離せない」
「ぇぇ……」
声は困っているのに、みことの手も自然にすちの背中へ回っていた。
その瞬間、すちはまた抱き締める力を強める。
「好き……」
「ぅぅ……」
耳元で何度も囁かれる。
熱っぽい声。
嬉しさが隠しきれていない。
みことは真っ赤になりながら、そっとすちの服を掴んだ。
「……おれも、好き」
「…………」
すちが固まる。
「みこと、もう一回」
「ぇぇ!?」
「聞きたい」
「む、むりぃ……!」
「お願い」
あまりにも幸せそうに見つめられて、みことは耐えきれず顔を隠す。
それでも小さな声で。
「……すちくん、好き」
と言った瞬間。
「だめだ嬉しい!!!!」
「わぁぁ!?」
また抱き上げられるのであった。
数日後。
「……で、なんでお前らそんな発光してんの」
昼休みの屋上で、ひまなつが真顔で言った。
すちは終始ご機嫌だった。
みことの隣を一歩も離れない。
肩を抱く。手を繋ぐ。髪を撫でる。隙あらば抱き寄せる。
そしてずっと笑顔。
怖いくらい笑顔。
「付き合えたから」
「うぜぇ」
即答だった。
こさめは「ほんとに付き合ったんだー!」と大喜びで拍手している。
一方らんは、みことの真っ赤な顔を見て苦笑した。
「みこと完全にキャパオーバーしてんじゃん」
「だ、だってぇ……」
みことはすちの腕の中でしなしなになっている。
しかしすちは満足げだ。
「みことかわいい」
「今日何回目それ……」
「百回目くらい?」
「怖……」
いるまが引いた顔をした、その瞬間。
すちはふいにみことの顎を軽く持ち上げた。
「ぇ?」
そしてそのまま。
ちゅ。
自然に唇を重ねる。
時間にして数秒。
けれど破壊力は抜群だった。
「〜〜〜〜っ!!?」
みことの顔が一瞬で真っ赤になる。
周囲も固まった。
「……は?」
いるまが素で声を漏らす。
らんも目を見開いていた。
「えっ、えっ、堂々とした!!」
「すちくん!?!?」
こさめの言葉も相まって、みことは羞恥で半泣きだ。
しかしすちは幸せそうに微笑むだけ。
「前に言ったでしょ」
そっと額を合わせる。
「堂々とキスできるようになりたいって」
「っ、〜〜〜!!」
みことはもう言葉にならなかった。
恥ずかしい。
なのに嬉しい。
好きな人が、自分を好きだって隠さないことが。
こんなに大事にしてくれることが。
胸がいっぱいになるくらい、幸せだった。
するとこさめがけらけら笑いながら言う。
「結局いちばんイチャついてるのそっちじゃん!」
「認める」
すちは即答。
「だってみことかわいいから」
「またぁ!!」
真っ赤になって抗議するみことを抱き寄せながら、すちは満足そうに目を細める。
その腕の中で、みことも照れながら、でも嬉しそうに小さく笑うのだった。
1話完結予定だったのですが、後日談も書いてみました📖 ̖́-
これで本当に完結です!!
2026年5月23日 yae