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お湯の中の葉っぱ
206
#学園
たまごさんど
82
36
朝日が訓練場を照らしていた。
「今日の実戦授業を始める。」
担任が訓練場の中央へ立つ。
「昨日と同じく、一対一の模擬戦だ。」
生徒たちは順番に試合を始めていく。
歓声が飛び交う中、担任が名簿を見た。
「次。」
「天城雷斗。」
「黒崎蓮。」
教室が静まり返る。
「黒崎か……。」
「クラス首席だぞ。」
「終わったな。」
雷斗は小さく息を飲んだ。
「……はい。」
黒崎は雷斗の前まで歩いてくる。
「よろしく。」
短い一言。
それだけなのに、不思議な威圧感があった。
「始め!」
開始の合図。
雷斗は動かない。
黒崎も動かない。
沈黙。
先に動いたのは雷斗だった。
「《神速》。」
右脚へ百パーセント。
ドンッ!!
一瞬で距離を詰める。
「速い。」
黒崎は驚きもせず半歩だけ下がった。
木剣が雷斗の短剣を受け止める。
カンッ。
「え……。」
止められた。
雷斗は距離を取る。
(読まれた……。)
黒崎は静かに言う。
「速いだけだ。」
再び雷斗が踏み込む。
ドンッ!!
右脚へ《神速》。
今度は横へ回り込む。
しかし。
「そこだ。」
木剣が正確に振り抜かれる。
ガキンッ!!
短剣が弾かれる。
雷斗は後ろへ飛び退く。
(なんで……。)
(全部見えてる。)
黒崎は息一つ乱していない。
「お前は速さに頼りすぎだ。」
「速いから勝てると思ってる。」
雷斗は首を振る。
「違う……!」
「僕は……!」
焦った。
もう一度。
右脚へ《神速》。
ドンッ!!
ビキッ。
「っ!」
右脚に激痛が走る。
体勢が崩れる。
黒崎はその隙を逃さなかった。
木剣が雷斗の首元で止まる。
「終わり。」
訓練場が静まり返る。
担任が手を上げる。
「勝者、黒崎。」
雷斗は悔しそうに唇を噛んだ。
「負け……ました。」
黒崎は木剣を下ろす。
「悪い。」
「でも、お前は面白い。」
「もっと強くなれる。」
そう言い残して去っていった。
授業が終わり、生徒たちが教室へ戻っていく。
担任だけが雷斗を呼び止めた。
「天城。」
「はい。」
「少し付き合え。」
二人は誰もいない訓練場へ向かう。
担任は一本の木剣を地面へ置いた。
「天城。」
「お前、自分の限界を知っているか?」
雷斗は首を横に振る。
「……分かりません。」
「そうか。」
担任は地面に一本の線を引いた。
「異能には限界がある。」
「今のお前は、それを知らない。」
「だから毎回、自分で壊している。」
雷斗は黙って聞いていた。
「今日から訓練を変える。」
「強くなる訓練じゃない。」
「自分を知る訓練だ。」
担任は雷斗を見据える。
「《神速》を発動しろ。」
「はい。」
雷斗は異能を使おうとする。
「止めろ。」
「え?」
「今だ。」
雷斗は慌てて魔力を引っ込めた。
「もう一回。」
「発動しろ。」
「止めろ。」
何度も。
何度も。
何十回も繰り返す。
雷斗の額から汗が流れる。
「はぁ……。」
「先生……。」
「これに意味はあるんですか。」
担任は静かに答えた。
「ある。」
「反動は発動した瞬間じゃない。」
「その一歩手前から始まっている。」
「だから、お前はその境界を知らなきゃいけない。」
夕方。
訓練場には雷斗だけが立っていた。
「もう一回。」
異能を身体へ流す。
あと少し。
あと少しで発動する。
その瞬間。
「……!」
何かが分かった気がした。
身体が警告している。
(ここから先……。)
(ここから先が危ない。)
ほんの一瞬。
その感覚を掴んだ。
だが、それだけだった。
発動はできない。
担任は小さくうなずく。
「今日は終わりだ。」
「まだ何もできてません。」
雷斗が悔しそうに言う。
担任は首を横に振った。
「違う。」
「今日は『知った』。」
「できるようになるのは、そのずっと先だ。」
帰り道。
夕焼けの空を見上げながら、雷斗は小さな手帳を開く。
『今日の訓練』
・発動寸前で止める。
・反動が始まる境界を探す。
結果――まだできない。
でも。
『何も分からなかった昨日より、一歩だけ前へ進めた気がする。』
雷斗は手帳を閉じ、静かに笑った。
「明日も……頑張ろう。」
コメント
1件
うわ、このエピソードすごく良かったです……!「速さに頼りすぎ」って黒崎に言われて、担任の先生が「限界を知る訓練」に切り替える流れ、めちゃくちゃしっくりきました。雷斗が「発動寸前で止める」練習を繰り返して、初めて身体の警告を感じ取るラスト、地味だけど確かな成長って感じがして胸が熱くなりました。明日も頑張ろうって笑う姿、応援したくなりますね。