テラーノベル
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「なぁ、じゅう? じゅうは綺麗。俺にとっては誰よりも綺麗なんさ。わかるか?」
そんなわけない。
その優しい言葉を馬鹿みたいに信じて、また後で裏切られるのが怖かった。
僕は必死に顔を横に振る。
「わからないん?こんなにきれいなのに……」
「そういうの、もういいから……! 汚ないだろ!どう見たって!! 俺のどこが綺麗なんだよ!! 同情すんなよ!!」
悔しくて、悲しくて、自分の惨めさが情けなくて…
気づけば、しゅんに向かって声を荒げてしまっていた。
彼はただ、傷ついた僕の肩を優しく抱きしめようとしてくれているのに、僕は自分を呪う汚い言葉で、その温もりを全力ではね返してしまう。
「もういいって……もう……やめろよ。俺に触るな!!」
自分でも分かっている。
これは完全に、彼に対する理不尽な八つ当たりだ。
でも、一度溢れ出してしまった心の泥水は、もう自分の力では止められなかった。
「なんで、なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよ……っ。俺、なんか悪いことした?」
堰を切ったように、心の奥底で腐りかけていた本音が、次から次へと溢れ出る。
「俺は、ただ……ただ普通に生きたかっただけなのに。普通に友達つくって、一緒に笑って遊んだり、ご飯食べたり、……みんなみたいに、普通の恋人なんか作ったりして……。そんな当たり前の日常が欲しかっただけなのに…っ!」
涙はとめどなく流れ落ちて、視界をぐしゃぐしゃに歪めていく。
「なのに、現実はこれだよ……?」
「人混みに行けば知らない人に声をかけられて、怖くて断れば僕が悪者扱いされる。好きでもない人に執拗に好かれたって、恐怖以外の何物でもないよ!、何にも嬉しくない……! それを勝手に妬まれるのにも、もううんざりなんだよ。俺のこと、誰も何も知らないくせに……っ」
こんなの情けない姿見せたくないのに、もう止められなかった。
「電車に乗れば、知らないおじさんに身体を触られて、性器を押し付けられて。変なストーカーに怯えて、盗撮されて、……挙句の果てに、ただ真面目にバイトしてただけなのに、おっさんに力ずくでレイプされるってなに!? 意味わかんないだろ!?」
「俺ってなんなの? おっさんたちの性欲の捌け口かなんかなの!? こんな汚い奴、もういらねぇだろ……っ。」
「……あの時、もういっそのこと死んじゃえばよかったんだよ!!!!」
そう叫んだ瞬間、視界が急激に暗くなった。
過呼吸とパニックのなかで、僕の震える身体を、強烈なまでの優しい温もりが力強く包み込む。
しゅんが、僕を壊さないように、けれど絶対に離さないように抱きしめていた。
「だから…触るなって、 言ってるだろ……っ、」
両手で彼の胸を押し、必死に突き放そうとする。
なのに、僕を抱きしめる彼の腕の力は、さっきよりもずっと強く、頑なになっていく。
「じゅう、… …、じゅう…っ」
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「もう……全部、やだ……、……」
抵抗するだけの僕の身体から力が完全に抜けて、僕はその場にペタリとへたり込むようにしゃがみ込んだ。
しゅんはその僕の身体を支えるように、どこまでもぴったりと寄り添い続ける。
「じゅう……っ、……じゅう……」
しゅんが、今にも泣き出しそうな、ガタガタに震える声で僕の名前を何度も呼ぶ。
「もう、なんかいいかも……。頑張るの、疲れちゃった……」
「え……じゅう……? なに言っとん……?」
「俺、何のために生きてるんだろう。いつもいつも、痛いのも我慢して、苦しいのも飲み込んで、……なんのためにここまで必死に頑張ってきたのか、もうわかんなくなっちゃった……」
「そんなん、……そんなん、これから俺と幸せになるためやろ!!! これからは俺が、俺が絶対にじゅうを幸せにするから……! だから、な? お願いやから……っ」
そんな真っ直ぐな言葉……。
今の、泥塗れで汚れてしまった僕には、眩しすぎて、直視することすらできなかった。
「なぁ、じゅう?……じゅう!!」
僕は焦点の合わない目で、宙の一点を見つめたまま動けなくなる。
そんな僕の肩を激しく揺すりながら、しゅんは大粒の涙を流して必死に訴えかけてくる。
「頼むから……お願いだから、俺のために、生きて……っ?」
しゅんのため……?
そんな風に僕の命を物乞いするように乞う彼の姿に、胸が苦しくなる。
「もう、なんも我慢せんでええから! じゅうの辛いことも、怖いっていう感情も、俺が全部、ぜーーんぶ守るから……っ!!」
しゅんは僕の頬を両手で優しく、けれど逃がさないように包み込み、引き裂かれそうな必死の形相で、僕に何度も、何度も同じ言葉をぶつけてくる。
「俺が絶対に幸せにするから。約束するから。ずっと、ずっと一生そばにおるから……なぁ、じゅう……!?」
なんで、この人はこんなに必死になってくれるんだろう。
なんで、そんなに辛そうな顔をして、泣いてくれるんだろう。
――僕なんか、ただの、中身のない汚れた器なのに。
自分のドロドロとした本当の気持ちを、こんなに他人に曝け出したのは初めてだった。
胸の奥がじんわりと熱くなるのと同時に、決定的な絶望が頭をよぎる。
「……俺は……、きれいなままの身体で、しゅんに愛されたかった……」
これ以上、この部屋にいたら、僕の歪んだ刃が彼の優しい心をさらに傷つけてしまう。
彼をこれ以上、僕の地獄に巻き込みたくない。
今はもう、この熱すぎる温もりから離れたい。
「ちょっと、ごめん……。外、出てくる」
「え、あ、じゅう!? 待てって!!」
僕は枕元にあったスマホだけを強く握りしめ、しゅんの手を振り払って、ホテルの部屋から外へと飛び出した。
背後から、僕を引き留めようとする彼の必死な叫び声が何度も聞こえたけれど、僕は一度も振り返ることなく、外の冷たい空気の中へと走り去った。
走って、少し離れた静かな場所で立ち止まり、震える指先でスマホの画面をタップし、 電話をかける。
相手は、僕をあの地獄から連れ出してくれた人。
prrrrr……。
to be continued……
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