テラーノベル
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夜の冷たい風に吹かれながら、スマホを耳に押し当てる。
prrrr……。
『おうっ! 柔太朗!』
画面が切り替わり、聞き慣れたぶっきらぼうだけど温かい声が響いた。
その声で僕の心があたたかくなるのを、感じた。
「はやちゃん……」
『……柔太朗? どうした、なんかあったか?』
ただならぬ僕の気配を、彼は一瞬で察知した。
「……ただ、はやちゃんの声、聞きたくなって……」
『……おい、お前今どこだよ。何があった。今から迎えに行く』
「いや……今、北海道なんだ」
『は?』
はやちゃんに会いたい。
でもここは北海道。
それに、しゅんもいるから。
……強くならないと。
そう思うのに、はやちゃんの声を聞くと本音がぽろぽろと落ちていく。
「ねぇ、はやちゃん……俺、なんかもう、疲れちゃった……」
『……今すぐ行くから、そこにいろ。住所送れ』
「……ううん。大丈夫……。一人じゃないし、。ありがとね」
『は? ……あぁ……あの舜太とかいう奴と一緒なのか?』
「うん……」
『…まさか…そいつに、なんかされたのか?』
はやちゃんの声に怒りが混ざる。
それは違う。
僕は必死に否定する。
「違う。されてない。何もされてないよ。ただ……あの人は、俺にはもったいないくらい、綺麗で良い人だから……」
だから、僕みたいな汚れた奴が隣にいたら駄目なんだ。
そう胸の内で呟く。
『……ごめん。やっぱり、今からそっち行ってもいいか?』
はやちゃん……。
いや、だめだ。
今甘えたら僕は強くなれない。
「……。ううん、大丈夫。ちゃんと東京に帰るから。ただ、本当にはやちゃんの声が聞きたくなっただけだから」
『……そっか。いつ帰ってくるんだよ』
「明日の夜には帰るよ」
『迎えに行く。会おう』
「うん……。なんか、はやちゃんの声聞いたら、少し安心した。ありがと」
『頼ってくれてありがとな。お前には俺がいるから。な?』
「うん。ありがと……はやちゃん」
カチリ、と通話ボタンを押して電話を切った。
見上げると、街灯の光が僕を静かに照らしている。
はやちゃんの声を聞いたおかげで、狂ってしまいそうだった僕の心は、冷水をかけられた時のようにすっと落ち着きを取り戻していた。
お部屋に戻ろう。
しゅんに酷い八つ当たりをしてしまった。
ちゃんと、謝らなくちゃ。
深く、深く呼吸をしてから、ホテルの部屋のドアに手をかけた。
ガチャ。
「じゅう……、」
ドアを開けると、ベッドに腰掛けたしゅんが、酷く弱り切った目で僕を見つめていた。
「ごめん、しゅん……。さっきは、取り乱して勝手なこと言って……」
「そんなんは、ええんよ……」
「もう、落ち着いたから。大丈夫だから……」
「うん……。……なぁ、じゅう、こっち来て?」
しゅんはベッドのシーツを、ポンポンと優しく2度叩き、僕に隣へ座るよう促した。
僕は彼の邪魔にならないよう、ベッドの端へ遠慮がちに腰掛けた。
「なぁ……俺、どうしたらいいんやろ……」
「……え?」
「俺、じゅうのために、なんもできんわ……」
「いや、そんなことないよ! しゅんは、さっきだって俺のことを……」
言い募ろうとした僕の言葉を遮るように、しゅんはぽつりと呟いた。
「……さっきの、電話……」
「あ……」
背筋が凍りついた。
外でしていたあの電話を、しゅんに聞かれていたことなんて、今の今まで全然気付かなかった。
「盗み聞きするつもりはなかったんやけど、心配で追いかけたら……じゅうが外で、誰かと電話してたから……。勝手に聞いてごめん」
「いや、別にそれは、大丈夫だけど……」
「あの、電話の相手……はやちゃんって……?」
しゅんは壊れやすい陶器を扱うような、もの凄く遠慮がちな声で聞いてくる。
「……うん。さっきお風呂でも話してた人。あの……勇斗っていうんだけど。えっと、前の会社で一緒だったんだ」
「その人は……柔太朗の、何なん?」
「えっと……、友達だよ」
「……それだけ? ほんまに?」
しゅんの瞳の奥にある、焦燥と、怯えのような色が気になって、僕はその質問の意図を測りかねたまま、正直に淡々と答えた。
「うーん……でも、友達以上の『恩人』ではあるかな。僕を救ってくれた人だし、退職してからも色々と気にかけてくれてて……」
「前の会社で、遠藤から守ってくれたんよね?」
「あぁ、それもそうだし…。あの時、襲われてた僕を助けてくれたのもはやちゃんなんだよね」
「……え……?」
「だから、ただの友達っていうか……命の恩人なの。俺にとっては、映画に出てくるヒーローみたいな感じに思ってるの。あの後も、ずっとそばで支えてくれてね……。本当に感謝してもしきれないくらい…」
「……そうだったんや、」
そう。
あの夜、遠藤から僕を救ってくれたのは、佐野勇斗なのだ。
そして酷く傷ついた僕を、隣でずっと支え続けてくれた人。
あの夜のフラッシュバックに酷く苦しむたびに、何度も何度も僕を救い出してくれた。
あの人のおかげで、今こうやって外の世界に戻ってこられたのだ。
あの人がいなかったら、今頃僕は、まだ薄暗い部屋であの男の影に怯え、ひとりうずくまって震えていたと思う。
もしくは……もうこの世にいなかったと思う。
だから僕にとってはやちゃんはスーパーヒーローなのだ。
「うん。あのね!はやちゃんって、本当にすごいんだよ!仕事もできるし、イケメンだし、優しくて、強くて、ストイックで、すごくかっこいいの!」
「……うん、そうなんや」
きっとしゅんとも気が合うと思う。
どことなく似ている気がするから。
「いつかしゅんにも会わせたいなぁ。絶対に仲良くなれると思うし」
「……うん」
しゅんの声色が暗い気がして、ふと我に返る。
自分の心が落ち着いた安心感から、気付けば僕はひとりではやちゃんのことを熱く語りすぎてしまった。
隣にいるしゅんの顔を見ると、その表情は何やら影が落ちたように暗く沈み込んでいた。
「……しゅん?」
「んー? なんや?」
「どうしたの……?」
「なにが?」
いつものしゅんの覇気が、どこにもない。
何を言ってもなんだか心ここに在らずで、僕は何も言えなくなってしまった。
「いや……なんでもない……」
「……。」
そこから、ふたりの間に、凍りつくような沈黙が流れた。
ドライヤーの音が消えた部屋のなかに、時計の秒針の音だけが、やけに大きく響いていた。
to be continued……..
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しゅんちゃん😢😢😢
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