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はじめてのおてつだい
朝、パソコンの前に座って資料を読みながら、俺はふとキッチンを振り返った。
「……ん?」
冷蔵庫の前で、莉犬がうろうろしてる。
しかも、踏み台まで引っ張ってきてる。
「りぬさんなにしてんの?」
「……さとちゃんの、じゅーす……出すの……」
ちいさな声。けど、目は真剣。
俺のために?
――あれか。昨日、「さとちゃん、つかれてるのやだぁ」って、布団の中でぎゅうってしがみついてきたっけ。
「手伝ってくれるの?」
莉犬はこくんと頷いて、慎重に踏み台にのぼった。
冷蔵庫を開ける手つきはぎこちない。でも一生懸命だ。
手を伸ばして、俺が朝飲んでるお気に入りの野菜ジュースを取ろうとして――
「わ、わあっ!」
ガタン!
バランスを崩して、踏み台ごとぐらついた。
「莉犬!!」
俺はすぐに立ち上がって、飛びつくように莉犬の体を支えた。
「だ、だいじょぶ……」
ぎゅうっと俺の服をつかんで、ちょっと泣きそうな顔。
でも、手にはちゃんとジュースのパック。
震えながらも、それだけは落とさなかった。
「……えらい、莉犬」
「さとちゃんに……あげたかったの……」
俺は思わず抱きしめて、頭をぽんぽん撫でた。
「ありがとう。めっちゃ嬉しい。俺、世界一幸せ者だな」
莉犬は顔をうずめながら、照れたように笑った。
「お手伝い、できた?」
「うん。大成功だよ」
――これが、莉犬の“初めてのお手伝い”。
少しの不器用と、たくさんのやさしさでできてた、俺だけのジュースだった。