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俺のさとちゃんとらないで!
桃
赤
紫
昼すぎの静かなリビング。
俺はノートパソコンに向かって、リモートワーク中。
その横で、莉犬はクッションに埋もれながら、ぬいぐるみを抱えてうとうと。
午前中ちょっとぐずってたけど、今は落ち着いている。
そんな中――
「ピンポーン!」
インターホンの音に、莉犬の体がびくっと反応した。
「……だれ……?」
まだ夢の中みたいな声で、俺の腕をつかむ。
顔はこわばってて、表情が固まってる。
「たぶん、会社の友達。ちょっと出てくるね」
「いかないで……」
「すぐ戻るから、ここで待っててな」
優しく頭を撫でて、玄関へ向かう。
ドアを開けると――
「よっ、さとみくん!来ちゃった!」
テンション高めに笑って立ってたのは、ななもり(なーくん)。
俺の同期で、莉犬への理解は完璧。
「莉犬くん、ちょっとだけ顔見れたりするかな?」
「まあ、今は落ち着いてるけど……あ、警戒入るかも」
そう言いながらリビングに戻ると、ソファの後ろから、ひょっこり莉犬の顔がのぞいた。
「……だれ……?」
その瞳は、不安と混乱が混ざったまま、俺の隣の“知らない大人”を睨んでいた。
「莉犬、だいじょうぶ。なーくんっていって、俺の友達。今日ちょっとだけ会いにきただけ」
莉犬は動かない。
むしろ俺の後ろにぴたりと隠れて、ぬいぐるみをぎゅっと抱えなおした。
プイッ
莉犬が顔を逸らした。
莉犬にとっての必死の抵抗。
「うん、びっくりしたよね。ごめんね」
なーくんが優しい声で微笑むけど、莉犬はじっと固まったまま。
と、そのとき。
なーくんが、自然に俺の隣のソファに座った。
――莉犬が、“いつも”座る場所。
それを見た瞬間、莉犬の体がぴくっと震えた。
「……だめッ!!……」
ふるえる声のあと――
次の瞬間、バタンとその場に座り込み、
「やだぁぁっ!!さとちゃんのとなり、ぼくのなのにぃぃぃっ!!」
バン、バン、バン!!
床を座り込んだまま、両手で力いっぱい叩き出した。
「莉犬っ!!」
俺はすぐに駆け寄って、莉犬を抱きしめた。
「莉犬、叩いたらダメだよ。なーくん、びっくりするよ?」
「やだ……やだやだぁぁっ……!!さとちゃん、さとちゃんっ!!」
「ここにいるよ、俺いるから。大丈夫、なーくんに取られたりしないよ」
「……さとちゃん、ぼくの……っ!さとちゃん、いっちゃやだぁ……!」
ぎゅうっとしがみついてくる莉犬を、俺は膝に抱えて、背中をトントン。
「よしよし。とられないからね、大丈夫」
「……ほんと……?」
「うん。誰にも取られないよ。莉犬がいちばん」
しばらくそのまま泣きじゃくっていた莉犬は、ようやく呼吸が落ち着いてきた。
その様子を見て、なーくんが少しだけ距離をあけて座りながら、そっと言った。
「莉犬くん、びっくりさせてごめんね。
いきなり来たから、怖かったよね。さとみくんに会いに来ただけなんだ」
莉犬はまだ顔を伏せたまま。
俺が耳元で、「ちょっとだけお顔見せてくれる?」って聞いても、小さく首を振る。
「そっか。じゃあ……」
なーくんが、バッグから小さな袋を取り出した。
「グミ持ってきたんだ~。赤いやつ、いちご味。さとみくん好きだから、莉犬くんももしかして……」
「……いちご……?」
莉犬の手がぴくんと動く。
「これ、ハートの形もあるんだよ。かわいくて、おいしいの」
俺の膝の上から、そっと顔をのぞかせる莉犬。
「……いっこだけ……」
「どうぞどうぞ!」
なーくんが笑って袋を差し出すと、莉犬はおそるおそる手を伸ばし、一粒取った。
「……ありがと……」
「おお、ありがとうって言えた!えらいえらい~!」
「……えらい……?」
「うん!ちゃんとありがとうできて、すごくえらい!しかも、かわいすぎるんだけど?」
莉犬はきゅっと顔を赤くして、グミを口に入れながら、もぞもぞと笑った。
「……おいしい……」
俺の胸に顔を預けながら、ちいさく「へへ……」と声を漏らす。
なーくんが俺にウィンクしながら、ひそっと呟いた。
「さとみくん、めちゃくちゃ大事にされてるね……こりゃ敵わんわ」