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「健二くんも、お前のことを想ってくれているようには見えないしね」
一応立場上、私のことを許婚として扱ってくれている節ではあったけれど、そこに愛情があるかというと甚だ疑問に感じていたのだ、とお父様はおっしゃった。
当人同士がその気にならないのに、神崎さんへの義理だけで話を進めていいものか、お父様とお母様はずっと迷っていらしたらしい。
「それに……どちらかと言うとね」
そこでふっと笑みを浮かべると、お父様はお母様と顔を見合わせてうなずき合われた。
「お前を役所に預けてからの修太郎くんからの報告の方がまめなくらいで。私も母さんも実は驚かされていたんだ」
「え……?」
知りませんでした。修太郎さんが私のことを両親に報告なさっていらしたなんて。
お父様は立ち上がって応接室を出られると、ややして封書の束を手に戻っていらした。
「見るかい?」
お父様から差し出されるままにそれを受け取って、束ねてある紐を解くと、何通もの分厚いお手紙が出てきた。
「修太郎さんの、字……」
中身を取り出してみなくても宛名書きで分かります。
それは、紛れもなくいつもお仕事の時に見慣れた修太郎さんの筆跡だった。
「中を拝見しても?」
恐る恐るお父様にお窺いを立てると、何故か「日織が恥ずかしくなければね」と笑みを浮かべて申し添えられてしまった。
「え?」
思わず間の抜けた声を発してしまってから、私は恐る恐る封書の中身を引っ張り出す。
深呼吸をしながら畳まれた便箋を広げてみると……。
右上に日付が付されていて、私がその日何をしたのかが紙一面にビッシリ事細かく認められていた。
***
『十六年ぶりに日織さんとお話しさせていただきました。
故あって月に何度かお姿はお見かけしていましたが、ずっと声はかけられずに来たので感慨深いものがありました。
外見はいうまでもなく、中身も子供の頃のピュアなところを残したまま、とても好もしく成長をなさっていて懐かしさが込み上げて感動しました。
正直幼い頃からとても愛らしいお嬢さんでしたが、年頃になられた日織さんは僕の知るどんな女性よりも魅力的で、気がつくと見惚れてしまって仕事が手につかないくらいです。
藤原さんが日織さんのことをご心配されるのも、もっともだと思いました。
さて、夢見がちな方だとお聞きしていましたが、僕の想像以上だったことに驚かされると同時に、実はかなりワクワクしてしまいました。
本当に素直で直向きな愛らしい方で、愛情いっぱいに育てられたお嬢さんだというのがよく分かります。
ご両親の目が行き届かない場面では、僕がしっかりサポートしていこうと思います。
藤原さん、大事なお嬢さんを僕に任せてくださって、本当にありがとうございます。
塚田修太郎』
――
『週明けの月曜日でしたが、今日の日織さんは寝不足のようで、あくびを頻繁にしていらっしゃいました。
先週末、歓迎会に遅くまで付き合わせてしまったことが影響しているのでは?と心配になりました。
僕がついていながらお嬢さんに無理をさせてしまい、申し訳ありませんでした。
実は歓迎会の日、お宅の門前までお嬢さんを送らせていただきました。何度もお手紙をお出ししていることもあり、住所は把握しておりましたので、難なくお宅まで辿り着けてホッとしました。
夜遅かったこともあり、ご挨拶などなく帰ってしまいました非礼をここにお詫びいたします。
塚田修太郎』
――
『今日の日織さんは少し鼻声のようでした。
鼻にかかったお声もとても可愛らしいのですが、彼女ご自身が辛そうなのが、見ていてしんどかったです。
鼻が通れば、と思いミントののど飴を差し上げたらとても喜んでくださいました。
彼女の笑顔に僕は毎日癒されています。
今日は市内の街区公園の位置情報が分かるマップ作りを手伝っていただきました。
とても飲み込みが早く、見た目のほわっとした印象よりもはるかに聡明なお嬢さんだな、と思わされました。
塚田修太郎』
――
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コメント
2件
報告書というより恋文(笑)
ああもう、これは…胸がじんわり温かくなりましたね。修太郎さんの手紙の数々、一つひとつに日織さんへの細やかな愛情が詰まっていて。「寝不足だと気づいて飴を差し出す」「鼻声を可愛いと感じつつ心配する」その距離感と誠実さが本当に素敵です。両親にここまで律儀に報告していた彼の一途さに、私までほっこりしてしまいました。こんな風に想われる関係、羨ましいなあ。