コメント
1件
今回暗い話になってしまって申し訳ないです。。
__
「こんばんは。私の名前は_」
「※※です」
その男性は名前を言ってくれた。だが、それを言う時突然コオロギが鳴いた。そのせいで真由美は男性の名前を聞き取れずいた。また聞くのが失礼だと思った真由美はどうすればいいのか分からずただだ黙りこくっていた。
それを察してくれたのだろう。男性は
「あ、虫の声と重なって聞こえなかったかな。名前は太郎だよ。」
そう言ってくれた。真由美は心の底から、この人は絶対にいい人だ。と思った。
「ありがとうございます。私は真由美って言います。」
「真由美ちゃんか、よろしくね」
「……よろしくお願いします」
真由美は学校で初めて会う先輩と話しているように感じた。高二の私と太郎さんとじゃ歳はそこそこ離れているはずなのに、何故かそう感じたのだ。自分でもなぜそんなふうに感じたかは分からない。
「……真由美ちゃんは今何してるの?散歩かな?」
簡単に当てられて少し驚いた。…いや、この時間にベンチに座っているのなんて大体は散歩だろうに、当てられたことにびっくりしている自分がいたのだ。
「正解です。なんでわかったんですか?」
本当に単純な疑問だ。
「……さぁ、なんでだろう。勘かな?」
分かっていないのか。自分にもよくあることだから共感を得られた。
「そうですか。太郎さん…は何をしにここへ?」
太郎さんは少し考えたあと言った。
「わからないなぁ」
来た意味がわからない。これには真由美もびっくりだ。勝手に体が動いてここへ来ていたとでも言うのだろうか。
「なんでだろう。行かなきゃいけない気がしたというか?」
「ここで昔何かがあったとかですかね」
真由美は少し返答に困りながらもどうにかして応えた。この太郎さんのことはよく知らないが、行かなきゃいけない気がしたのならきっとそのようなことなのだろう。これ以上こんなことを聞いても分からないのなら仕方がない。話題を変えようと何か好きな物はあるかと質問しようとしたその時、
「あ。」
太郎さんが何かを思い出したかのようにそれだけの言葉を発した。
「なにか、思い出したんですか?」
「……うん。とても大事なことが。」
少し曇った顔で太郎さんは言った。これ以上聞くと太郎さんの何かに触れ、嫌な雰囲気になりそうだったのでやめようとしたが、自分の気になるという気持ちには逆らえず聞いてしまった。
「どんな、、ことですか?」
太郎さんは話し始めた。
「数年前の今日、ここで8歳の娘が亡くなったんだ。」
真由美は(あぁ、これ聞いちゃいけないやつだったかな)と思った。
「私の娘は魔法少女でね、ただ人を守りたいという一心で戦っていたんだ。私は妻とそれを応援していた。その時はこんなにも優秀な魔法少女の娘が亡くなってしまうなんて思いもしなかったんだ。」
「……」
真由美はただ黙って、太郎さんの話を聞いていた。
「そして数年前の今日、この公園に怪物が現れたんだ。その怪物は娘が今まで戦ってきた怪物とは少しレベルが違って、娘と私が駆けつけた時には魔法少女がボロボロになりながら戦っていた。私はその光景を見た時、ここに娘を介入させたらダメだ。と思ったんだ。だが娘は私が止めるより先に怪物へと走っていった。その後はもうよく思い出せない。気づいたらボロボロの娘が横たわっていたんだ。」
「私はもうそれ以降、この記憶を消そう。自分に娘なんか居なかった。そう考えながら生きているうちに、本当にそのことを忘れてしまった。妻もきっとそうだ。……だけど、何でだろう。今日ここに来なくちゃいけないような気がしたんだよ。そしたら、何かにそっくりな顔をした君がいた。なんでかは分からないが君と話したかったんだ。無性にね。」
「……ありがとう。君のお陰でその”何か”を思い出せたよ。」
話しているうちに、太郎さんの目からは涙が出ていた。
……本当にこの記憶は思い出させてよかったのだろうか?私はそう思った。
「……そうだったんですか。」
「私も魔法少女で、ここに出たその怪物のことはよく知ってますよ。犠牲になった魔法少女は3名だったらしいです。私はそこにはいませんでしたが、友人の魔法少女がその怪物によって亡くなってしまったんです。」
私はカバンの中を探った。
「これ、ぜひ奥さんと飲んでみてください。楽になると思いますよ。」
紅茶のパックを渡した。
「……ありがとう。それじゃあ、私は失礼するね。」
……なんだか申し訳なかった。嫌な記憶を蘇らせてしまって。太郎さんはありがとうと言っていたが、本当にそう思っていたのだろうか。真由美はそれが心配で仕方なかった。
今日はもう帰ることにした。そこまで散歩もしていないが今日は疲れたのだ。
「……早く帰って寝よう。」