◻︎和樹の後悔
何故だ?
どうしてこうなった?
不倫していたことを隠したまま、うまく離婚できたはずだったのに。何を間違えた?どこで間違えた?
「もうっ!なんでよ!私、病人となんか結婚しない。看病なんて無理!保険もお金もないのに、どうするの?和くんなんて嫌い、大っ嫌い!私、もう出て行くから」
僕のことをあんなに“愛してる”と言っていた桃子は、僕が癌かもしれないとわかったら、さっさと荷物をまとめて出て行った。
離婚が成立して、やっと一緒になれるはずだったのに。家族としてそばにいてくれるのではなかったのか。
思い描いていたこれからの暮らしが、音を立てて崩れていく気がした。目の前には深い暗闇が広がっていく。
「さてと。話すことはもうないから、帰るわよ。さっさと病院に行って結果を聞いて、ちゃんと看病してもらいなさいよ、じゃ」
一階から愛美の声が聞こえた。
___そうだ、とりあえず、病院に行かなければ
養育費も家のローンもある。このままでは破綻してしまう。
___いや、待てよ
僕が死んでしまえば、生命保険は娘たちに遺せるし、家のローンは相殺されるはずだ。そうすれば、少なくとも娘たちへの養育費分はなんとかなりそうだ。
___なんだ、そしたら焦ることはないじゃないか
と、そこまで考えて、唖然とした。
___じゃあ、僕はもういらない存在ということか…
玄関が閉まる音がして、愛美が出て行ったようだ。窓辺に寄って、カーテンの隙間から愛美を追う。玄関ポーチで立ち止まって何かを持ち上げているのが見えた。何かの植木鉢のようだ。
___あんなもの、どうするのだろう?
両手で大事そうに抱えて持ち帰るようだが、それがなんの植木鉢か思い出せなかった。
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