テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◇◇◇◇
バリスハリスは戦争に勝った。
勝敗はすでに決し、戦場には剣戟の音も怒号も残っていない。ただ、土と血と煙の匂いだけが、まだ大地の上に重く漂っていた。
だが白の魔女セレナは、怪我人の治療を許されていなかった。
戦争が終わった今も、レオニスの隣に立ち。レオニスの失われた腕を治したい衝動に駆られていた。
レオニスは、セレナを戦争の道具にするつもりはなかった。
そのために呼んだわけではないし、魔法を使わせるつもりもなかった。
だが。
結果として、レオニスの優しさは、もっと残酷な形で絶望を産んだ。
セレナは、敗戦国ヴァルディウスの兵たちを見渡す。
どの兵も、彼女の姿を目にした瞬間、視線を落とした。
顔をそむける者もいるし、目を合わせられず、唇を噛む者もいる。
皆、セレナを知っていた。
呪い。怪我。病。
幼い頃から、何度も何度も、数え切れないほど、そのセレナの魔法に救われてきた。
ヴァルディウス王国にとって、白の魔女は特別な存在ではなかった。
体調が悪ければ、白の魔女のもとへ行く。
それは井戸で水を汲むのと同じくらい、日常の中にある習慣だった。
兵たちもまた、子供の頃から彼女に世話になっている。
そしてセレナも、彼ら一人一人の名前を知っていた。
誰がどこの村の出身で、誰が家族を大事にしていて、誰が怪我ばかりしていたか。
それを覚えている。
けれど。
そのヴァルディウスの兵たちは、白の魔女を殺すための戦争をした。
白の魔女の血を奪うために。
今、地面に横たわる兵の一人が、かすかに動いた。
胸を裂かれ、血を流し、命の灯火が今にも消えそうな男だった。
彼の目が、ぼんやりとセレナを捉える。
そして、ゆっくりと、手を伸ばした。
助けを求めるように。
いつものように。
白の魔女に手を伸ばせば、きっと助けてくれる。
そんな当たり前のような仕草だった。
セレナは、その手を見て、すぐに視線を逸らす。
その瞬間。
周囲にいたヴァルディウスの兵たちが、凍りついた。
白の魔女は、どんな相手でも助ける。
それが当たり前だった。
呪われた者もでも、罪を犯した者でも、白の魔女を煙たがる者でさえも。
それでも、彼女は手を差し伸べる。
それが白の魔女だった。
なのに。
今、初めて。
彼女は助けなかった。
その光景を見て、兵たちはようやく理解する。
自分たちが、何をしたのか。
白の魔女なら、何があっても助けてくれる。
殺しに来ておいてなお、そう信じてしまうほどの甘えが、ヴァルディウス王国にはあった。
それがどれほど残酷な期待だったのかを。
今、ようやく思い知った。
522
#希望
#感動的