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「私、2人と一緒じゃダメ人間になっちゃうかもな。2人とも優しすぎるからね。幸せだよ、私は。」

雨栗さんは俯きがちに言った。

どういうこと、の声を出す前に、雨栗さんはこちらに走ってきた。たまにやってくれる、走ってジャンプして抱きついてくれるやつかと思って身構えた。

でも、雨栗さんは僕の横を通り過ぎた。

雨栗さんの奥には、猛スピードで車がこっちに走ってきていた。

そこからは、まるで世界がスローモーションになっているかのように見えた。

雨栗さんは1番近かったこめしょーを突き飛ばした。こめしょーは僕の前に飛ばされる。そして、雨栗さんはそのまま車と衝突した。鈍い音を立てて。

衝突した後も車のスピードはほとんど落ちることなく、僕とこめしょーのところへ。咄嗟にこめしょーを庇おうと思ったが、こめしょーの方が早く動き、僕を横へ蹴り飛ばした。

こめしょーの蹴りは、僕の胸あたりに当たった。こめしょーは車の左側に少し当たった。雨栗さんほど、真正面からじゃなかったから、こめしょーはすぐ立ち上がった。

車は奥の店に突っ込んで止まった。

事故の一部始終は、とても長く感じた。スローモーションに見えてたから、さらに。

僕はこめしょーのところ駆け寄った。頭から血が出ていて、こめしょー血が頬を伝う。すぐにハンカチを渡した。

雨栗さんは真正面から轢かれていたが、大丈夫だっただろうか。雨栗さんのいた方向に目線を送ると──。


頭から血を流し、足が変に曲がっている雨栗さんがいた。


「雨栗さん──!!!!」

これほど、と言うほど大きな声が出た。雨栗さんの状況に気づいたこめしょーも、名前呼びながら雨栗さんに駆け寄った。

雨栗さんを見て、どんどん血の気が引いていく。これ、大丈夫か…───?

震える手でスマホを取り出し、救急車を呼んだ。

「たす…、けてッ…!!」

周りの声や、自分の心臓の音で全然電話音が聞こえない。震える声で、場所だけ伝えた。

雨栗さんの頭から出る血を押さえながら、止まらない涙があふれる。すると、突然こめしょーはポツリ言った。

「呼吸困難…。」

何を言っているんだ、と思ったが、確かによく聞くと雨栗さんの呼吸が浅く、速い。

幸いなことに、病院が近かったので2分くらいで救急車は到着した。

呼吸困難かも、と冷静に伝えるこめしょー。その裏で、僕はあふれ出す涙を止めることをできずいた。

じきに、雨栗さんは救急車に連れていかれた。僕とこめしょーはもう一台の救急車に乗って、雨栗さんを追いかけた。

こめしょーはずっと「雨栗が死んだらどうしよう…。」「雨栗大丈夫かな…。」「呼吸困難で死んでたら…。」と、雨栗さんの心配をずっとしていた。僕もこめしょーも、雨栗さんを家族のように思っているからこその心配だった。


雨栗さんとこめしょーだけが入院になった。

こめしょーは怪我の完治まで、雨栗さんは怪我の完治とリハビリをするところまで。

でも、雨栗さんが目を覚ます確率は、極めて低いとお医者さんに言われた。眠ったまま死んじゃうこともあるってこと。

雨栗さんがいなくなるのが怖くて、毎晩枕を濡らしてた。毎晩一つの枕がダメになっていく。恐怖で寝れないときもあって、常に寝不足だった。

ある日、泣き疲れて寝た時の話しだった。

雨栗さんが、こじんまりとした一軒家で生活している夢を見た。僕はリビングの椅子に座っていて、寝癖のある雨栗さんはトーストを焼いている。

ただ、それだけだった。

それから毎日毎日同じ夢を見た。

病室では、こめしょーも同じような夢を見たと言った。

その夢は決まって、リビングに座ったところから始まる。しばらくして、2階で物音がし始める。その次はリビングの隣の部屋で水の音がして、雨栗さんがリビングに来る。リビングに来たら、食パンを焼いたり色々してから、朝食が始まる。

そこでいつも夢が途切れていた。

雨栗さんが目覚める2日前。

雨栗さんが初めて窓の外を見た。そこには、水色と緑色が多いことに気がつく。僕たちを象徴する色だった。

雨栗さんが目覚める1日前。

僕たちの気配に気づき始めた。というか、気づいた。僕らは本能のままある部屋へ案内した。僕らを掴んで湖に飛び込んだところで目が覚めた。

目が覚めた時はまだ夜の11時だった。

そこから、雨栗さんの言葉が頭から離れなかった。寝れなくて、ゲームをしてた。そしたら、急に電話がかかってきた。いつの間にか朝になっていたようだ。

『水月さんでお間違いないでしょうか。』

「…はい。」

嫌な感じがした。夢の中の雨栗さんの言葉を信じるなら、雨栗さんは目を覚ました。そうでなく、あの選択が間違っていれば、雨栗さんはもう目を覚まさない。

暴れる心臓を必死に抑えた。

『雨栗さんが目を覚ましたので、病院までお越し頂けますか?』

その言葉を聞いて、足の力が抜けた。膝から崩れ落ちて、あふれる涙を必死に拭いたのを、嬉しくて電話を繋いだまま叫んだのを、一生忘れられないと思う。

これ以上の幸せは、どこにもないと思う。

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