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『遅れてきたヒーロー』
付き合い始めてまだ数週間。
風間くんは、誰にも言えない不安を胸に抱えていた。
——しんのすけと付き合っていることを、馬鹿にされるかもしれない。
そんな気持ちを押し隠したまま、放課後に「資料を職員室に届けて」と頼まれ、一人で別棟へ向かった。
廊下は放課後のせいで人がいなく、心細いほど静かだった。
そこで──
「風間、ちょっといい?」
前から3人、後ろから1人。
いつもニヤニヤ笑って近寄ってくる男子グループ。
風間
「……なに。」
「お前、野原と付き合ってんだって?
本当に“彼氏”なん?」
「うわ、風間ってさ、近くで見ると顔かわいいな」
「ちょっと触ってみたらどうなると思う?」
腕を掴まれた瞬間、風間くんの呼吸が止まる。
「やめて……!!」
でも、誰も聞いてくれない。
嫌な記憶が蘇るように手足が震え、動けなくなる。
(どうしよう……誰か……)
しんのすけは委員会。
ここまで走ってくるには時間がかかる。
誰も助けに来ない。
「声出ない?かわい〜」
「野原呼んでみ?助けに来てくれんのかな〜?」
本気じゃないけど、すごく悪質で。
怖い。悔しい。涙が溢れそうになる。
「っ……やめろって言ってんだろ!!」
振り払った勢いで風間くんは後ろに倒れる。
床に手をついたけど、手首をひねって痛みが走った。
そのまま涙がぽたっと落ちる。
(しんのすけ……)
助けを求めても、まだ来ない。
—
その直後だった。
「……おい、何してんだテメーら。」
低くて、聞いたことのない声。
廊下の端に、しんのすけが立っていた。
肩で息をしながら、怒りを隠しもしない顔。
走ってきたせいで制服が乱れ、髪が少し濡れている。
「野原……?なんだよ、別にちょっと──」
「“風間くんに”触ってんじゃねぇ。」
一瞬で空気が凍った。
ゆっくりと歩いてきたしんのすけは、倒れた風間くんの前に立ち、男子たちと風間くんの間に体を入れた。
「その手、二度と風間くんに向けんな。」
あまりの迫力に、4人は舌打ちして逃げていった。
—
●震える風間くん
「大丈夫か……風間くん」
しんのすけが膝をつき、風間くんの顔を覗き込む。
風間
「っ……しんのすけ……来るの……遅い……」
声が震えている。
泣きそうで、必死でこらえていて。
しんのすけの胸に、深く刺さった。
「ごめん……
でも、もう絶対遅れねぇから。」
そう言って、そっと手を握る。
しかし、その直後。
「なんで一人で行ったんだよ!!」
風間
「……っ!」
「隣の棟に行くって言ったから、オラ走って来たんだぞ!?
心配したんだぞ!?
なんで一人で抱え込むんだよ……!」
いつものふざけた声じゃない。
怒ってる、でもそれ以上に心配が溢れてる声。
風間
「……迷惑かなって……思って……
忙しいかなって……」
「風間くんが迷惑とか、あるわけねぇだろ!!」
しんのすけは、風間くんの頭をそっと抱き寄せた。
「頼っていいんだよ……オラ、風間くんの恋人なんだから。」
風間くんの肩が震え、涙がこぼれ落ちる。
「……助けに来てくれて……ありがと……
ほんとに……怖かった……」
「知ってる。
でも、もう一人にしねぇ。」
—
●帰り道
校門を出る頃には夕暮れが綺麗だった。
しんのすけは、怪我した風間くんの手首をそっと支えながら歩く。
「帰ったら湿布貼るゾ。」
風間
「……うん。
ねぇ、しんのすけ。」
「ん?」
「今日……ほんとに、嬉しかった。
遅かったけど……ちゃんと来てくれたから。」
しんのすけは照れくさそうに笑う。
「遅れてでも絶対行くゾ。
オラは風間くんの彼氏なんだから。」
風間
「……もぉ……好き……」
「知ってる。」
その声は優しくて、真っ直ぐで、
夕暮れの風より暖かかった。