テラーノベル
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夜の空気は、昼のざわめきを忘れたように静かだ。初兎の部屋の窓からは、月がのぞいている。時計の針は、まもなく午前0時を指そうとしていた。
「……はぁ。もうすぐだ」
初兎はベッドの上でため息をついた。
本音しか言えなくなる時間が、また来る。
“その時間”は誰にも知られてはいけない。特に——。
「……あれ? 電気、点いてるじゃん。起きてんの?」
ドアの向こうから聞き慣れた声がした。
「ま、まろちゃん!?」
ガチャリとドアが開いて、いふが顔をのぞかせる。
「まだ部屋の電気ついてるから心配でさ。……って、どうしたの? 顔赤くね?」
「だ、大丈夫!なんでもないよっ……! うわ、あと3秒……」
「え?」
チッ——チッ——チン。
午前0時を告げる音が部屋に響いた。
「……あ〜〜〜もうやだ。まろちゃん来るなんて聞いてないし。なんでよりによってこのタイミングで来るの。隠れてた想いバレたらどうすんの。よりによって好きな人にバレるとか最悪なんだけど!」
「……え?」
「ていうかまろちゃんかっこいいし優しいし、そばにいるとドキドキしてしんどいんだよね。ずっと隠してたのに。なんで今なんだよ……っ」
初兎は顔を真っ赤にしたまま、止まらない口を両手で押さえる。でも、本音しか出てこない。
「まって、本当に今のナシにして!聞かなかったことにして!お願いお願い!!」
いふはしばらくポカンと口を開けていたが、次の瞬間、ふっと柔らかく笑った。
「……そんなの、聞いちゃったら無理でしょ」
「うわぁあ〜〜〜ん!!やだぁあああああ!」
「ていうか、俺も好きなんだけど、初兎のこと」
「……っ」
時が止まったような静寂。初兎の目がまんまるに見開かれる。
「えっ、ほんとに?」
「うん。……まさか、こんな可愛い本音聞けるとは思ってなかったけどね」
いふがそっと初兎の頭をなでると、初兎は力が抜けたようにベッドに突っ伏した。
「……もうやだ。穴があったら入りたい……」
「入らなくていいよ。俺が全部受け止めてあげるから」
静かな夜に、心臓の音が重なっていく。
本音しか言えない時間。
でもその夜だけは、嘘のない気持ちで繋がれたことが、何より嬉しかった。
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