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「お前さー、アイコスの箱、床に置くなって言ったじゃん」
「うっせ、床が落ち着くんだよ」
「意味わかんねーよ笑。早くどかしてくれ」
引っ越してきて、まだ三日目。
弐十の家の一角にある、ほんのり生活感のある6畳の部屋。
そこにキルシュトルテは自分の荷物を詰め込み、どかどかと音を立てて暮らしはじめた。
「あのな、これ“ルームシェア”だからな?俺の部屋に侵略すんな」
「じゃあ何でドア開けっぱにしてんだよ。俺のこと誘ってんのか?!」
「誘ってねえよ笑。お前が勝手に入ってきてんだろ」
ガサツな絡みと、慣れたツッコミ。
配信でも見慣れた2人のやりとり。
――だけど、今はちょっと、違う。
キルは知ってる。
これは「叶うわけない」恋だって。
男同士だし、弐十はノンケだし、しかも“親友”だし。ずっとずっと「冗談」で誤魔化してきた。
配信で「にとちゃん好き」と言っても、笑いで流してもらえる。
本気なんて、バレない。
――けど、
こうして毎日、隣で飯食って、
ゲームして、編集して、
皿洗って、洗濯機回して、
一緒の空間で、当たり前に暮らしてると。
「あれ……にとちゃん、寝るの?」
「んー、寝るかも。トルテさんも、風呂入ってきなよ」
「……いや、お前が先に入れよ」
「えっ、なんで?」
「いいから……先に入れって」
背中を向けてソファに寝転んだふりをしながら、キルはぎゅっと、自分の指先を握った。
言えない。
「一緒に風呂入ったら、意識しちまう」なんて。
「同じ空間で寝てると、息が詰まるほど苦しい」なんて。
“好き”が、もう、思ってたより重たくて。
“距離が近い”って、こんなに苦しいことなんだって。知らなかった。
だけど――。
「あのさ」
「……なに」
「俺、こういうの、わりと楽しいなって思ってるよ。お前と住むの」
それは、何の気なしの一言だった。
弐十はいつも通り、穏やかな顔で、笑っていた。
だけど、その何気ない言葉に、キルは堪えきれず、つい顔を背けた。
「……そっか。楽しいか」
胸の奥が、ずきっと痛んだ。
俺は――、お前が、好きで、苦しいのに。
けど、それでも。
その笑顔を壊したくないから。
「ずっと友達でいよう」って、自分に言い聞かせる。
届かないって、わかってる。
けど、それでも。
隣にいられるだけで、お前の温度を感じられるだけで、今は、十分だから。
今は、まだ。