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高校に入ってからの私は、いわゆる“陽キャ”だった。
友達は多いし、クラスの中心にいるタイプ。笑ってれば誰かが隣にいて、放課後はカフェとか寄り道して、そんな毎日がずっと続くと思ってた。
でも、ある日を境に、それは急に終わった。
理由なんて分からない。 気づいたら、グループLINEから外されてて、話しかけても「あ、ごめん今忙しい」とか適当に流されて、休み時間もぽつん。
昨日までの世界が、まるで嘘みたいだった。
教室のざわざわが、全部自分を無視してる音に聞こえてくる。
……その時だった。
ふと、窓際の一番後ろの席に目がいった。
そこにいたのは、いつも本を読んでる男子。
草薙渉。
静かで、目立たなくて、クラスの中でも“いない人”みたいな扱いをされてる存在。 いじめられてるのも、正直知ってた。でも、今までは関わることなんてなかった。
だけどその日、なぜか気になった。
───私と同じだ。
そう思った。
気づいたら、私は渉の前に立ってた。
「……何読んでるの?」
渉は少し驚いた顔をして、それからふわっと笑った。
「小説だよ。こういう静かな時間、好きなんだ」
その笑顔が、思ってたよりずっと優しくて。
なんか、変に安心した。
それから、少しずつ話すようになった。
最初はぎこちなかったけど、渉はいつもちゃんと目を見て話してくれて、私の話もちゃんと聞いてくれる。
気づいたら、笑ってた。
無理して笑うんじゃなくて、自然に。
「ねえ、明日も話していい?」
って聞いたら、
「もちろん」
って、またあの優しい笑顔で言ってくれた。
その翌日、私たちはLINEを交換した。
家に帰って、なんとなく気になって送った。
『どうして、いつもいじめられてるの?』
少しして返ってきた。
『僕にも分からない。でも、僕が逃げたら他の誰かがターゲットになるから、逃げないようにしてるんだ』
その一文を見た瞬間、胸がドキンとした。
なんでこんなに強いの。
なんでこんなに優しいの。
私なんて、自分が傷つくのが怖くて、何もできなかったのに。
スマホを握る手が少し震えた。
『すごいね』
そう返すのが精一杯だった。
『そんなことないよ。ただ、そうしたいだけ』
その言葉が、頭から離れなかった。
それからの日々は、少しずつ変わっていった。
昼休み、一緒にお弁当を食べるようになって。
放課後も、たまに一緒に帰るようになって。
渉は相変わらず静かだけど、たまに見せる笑顔が、なんかずるいくらい可愛くて。
私の中で、何かが少しずつ変わっていった。
ある日、ふと気づいた。
(……あれ?)
いつものように話しているとき、顔をよく見た瞬間。
──渉、普通にイケメンじゃない?
整った顔立ちに、長いまつ毛。 優しい目。
今まで気づかなかったのが不思議なくらいだった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
慌てて目を逸らしたけど、心臓がやたらうるさかった。
(これって……)
その答えには、もう気づいてた。
───そして、ある日の放課後。
廊下の奥で、声が聞こえた。
「おい、また本読んでんのかよ」
嫌な予感がして、覗いた。
そこには、数人に囲まれてる渉がいた。
いつもの光景。
なのに、今日は目を逸らせなかった。
助けるべきか、迷った。
怖い。 また自分もハブられるかもしれない。
でも____
気づいたら、体が動いてた。
「やめなよ!!」
渉の前に立って、手を広げる。
自分でもびっくりするくらい大きな声だった。
周りが一瞬静かになる。
「は?何、お前」
「関係ないでしょ。やめてって言ってるの」
震えてた。 足も、声も。
でも、逃げなかった。
しばらく睨み合って、相手たちは舌打ちして去っていった。
静寂が残る。
「……なんで」
後ろから、渉の声。
「なんで僕なんかを助けたの?」
振り返れなかった。
顔を見たら、たぶん泣く。
「……好きだから」
小さな声で、でもちゃんと届くように言った。
言った瞬間、恥ずかしさでいっぱいになって、そのまま走り出した。
逃げるみたいに。
次の日。
学校に行くのが怖かった。
どうしよう、変な空気になってたら。
でも、教室に入ると──
「おはよう」
いつも通りの声。
顔を上げると、渉がいた。
「……おはよ」
ぎこちなく返す。
少しの沈黙。
そして、渉がゆっくり口を開いた。
「昨日のこと、ちゃんと聞かせてほしい」
心臓がまたうるさくなる。
放課後、屋上に呼ばれた。
夕焼けが広がってて、風が少し冷たい。
「……あのさ」
私が口を開く前に、渉が言った。
「僕、嬉しかったんだ」
「え?」
「助けてくれたことも。でも、それ以上に──好きって言ってくれたこと」
優しい声だった。
「僕もね、君と話す時間、すごく好きだった」
一歩、近づいてくる。
「ありのままで笑ってる君が、すごく綺麗だなって思ってた」
胸がぎゅっとなる。
「だから」
少し照れたように笑って、
「もしよかったら……僕と、付き合ってくれませんか?」
夕焼けの中、その言葉がすごく綺麗に聞こえた。
「……うん」
気づいたら、頷いてた。
涙が少し出てたけど、ちゃんと笑えてたと思う。
渉も、嬉しそうに笑ってた。
その瞬間、世界が少しだけ優しくなった気がした。
あの日から、私はもう“元・陽キャ”とかじゃない。
ただ、渉の隣にいる私。
それでいい。
むしろ、その方がずっと好き。
だって、ありのままでいられるから。
そして今日も、隣には優しく笑う彼がいる。
「ねえ、渉」
「ん?」
「これからも、ずっと一緒にいようね」
「……うん、約束」
夕焼けの中、手を繋いだ。
そのぬくもりが、何よりも確かなものだった。
nanami