テラーノベル
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2人で昼食を作っていると、ロンレイが突然、
外へ出ていった。
思わず、声を掛ける。
「ロンレイ?何処へ行くんだ?」
開きかけた扉を前に、リンレイは立ち止まる。
「壁の修理に必要な器具を買ってくるよ。長くは掛からないだろうし、 昼食までには帰ってくる。」
そう言って出ていく後ろ姿を、リンデェンはぼんやり眺めていた。
リンシィーに声をかけられるまで、ぼーっとしていることに気がつかなかった。
「デェン師……やはり、まだ疲労が溜まりすぎているのでは?お休みになって下さい。」
リンシィーの目線が、床へ向いた。
寝てろ、ということか。
 ̄こんなダメな師匠にも、気を使ってくれる本当にいい子だ。
ただ、1番弟子に甘えるのもなんだかな、と。
しばらくの間、無言で互いに料理をしていた。
「ねえ、リンシィー。」
少し小さな声で話しかけてみる。
聞こえたかな なんて思っていると、リンシィーが小さな声で聞き返した。
「どうかしましたか?」
料理していた手を止めることはなく、あくまで
片耳に流すようだった。
言うのを少し躊躇いつつも、ゆっくりとリンシィーに聞こえるように話す。
「いいにくかったら、言わなくて構わないんだけど……ロンレイのこと好きじゃない?」
いい終わってから、もっと柔らかい言い方があったなと後悔する。
それを聞いて、リンシィーは手を止めた。
「どうしてですか?」
一瞬時が止まったかと思ったが、時の流れは
動きだしたように感じた。
リンデェンが自分の仕事をしながら、片手間でリンシィーに答える。
「ロンレイが来てもう随分経つけど、冷たいような気がして。お節介だったかな。」
苦笑いして、静かになってしまった。
リンシィーが無言で料理を続ける。
この空気が嫌になり、ロンレイはいつ帰ってくるかと思い始めたころ、
リンシィーが口を開いた。
「……彼の匂いが苦手なんです。嗅覚には自信がありますが、彼は人の匂いがしない気がしていて……」
作業していた手を止めて、リンデェンの方を向いた。
「迷惑ばかり掛けてすみません……」
リンデェン向かい、頭を下げる。
こうして面と向かって謝罪を受けたリンデェンは、慌ててしまった。
「リンシィー……?! 頭を上げて。迷惑ばかりかけているのは私の方だ。頭を下げるのも、私の方だ。 」
そうしてリンデェンもリンシィーに向かって 、
頭を下げた。
今までの謝罪を今、しておきたかった。
そんな1つの謝罪で、もちろん許されるとは思っていない。
自分の心を洗おうとばかりに、リンシィーに
今までの迷惑を詫びた。
「本当にすまない……リンシィーには、迷惑を掛けてばかりだね。」
今度はリンシィーが慌てて頭を上げるように言う。
「デェン師、止めて下さい。謝られるような事をされた覚えはありません。」
リンデェンがゆっくり顔を上げると、向かい合った2人は一緒に笑った。
リンデェンが、言葉を選びながらリンシィーに伝えたいことを伝える。
「リンシィー、君は人の匂いがしない気がするって言ったよね。
それが事実かどうかなんて、どうこう言おうとは思わないし、否定しようとも思わない。
だから、思ったことは隠さずに言って欲しいんだ。貴重な意見でもあるしね。」
いい終わって、リンシィーの顔色を不安になりつつも覗いた。
意外と、口角は上がっている。
「デェン師……無理矢理なことを言ってすみません。困らせてしまいますよね。
そのお言葉、しっかり受け止めます。」
そう言い終わると、扉が開いた。
2人は同時にそっちを向く。
あいた扉の先には、衣服が汚れたロンレイが
突っ立っていた。
それを見て、リンデェンはロンレイの方へと
近づく。
「ロンレイ、そんなに汚れてどうしたんだ?
なにか、巻き込まれたりした?」
立ち尽くすロンレイの衣服の汚れをはらって
やった。
「店の店主と揉め事になったんだ。あいつ、
常識がなっていない。」
眉を顰ませ、少し俯くロンレイは怒っているように見える。
そんな顔を見たリンデェンは、ロンレイの頬を両手で挟みグッと引き寄せた。
すると、驚いたようにリンデェンを見つめた。
「揉め事って怪我はないのか?まったく、無茶するんじゃありません。」
そう言って、ロンレイのでこを軽くつつく。
離れてから、少し笑って見せ、服を着替えるように言った。
「因みに、服は持ってる?良ければ、私の昔の服を使うといい。
後で、その汚れたのは洗っておくよ。」
それから一件落着すると、3人は作りかけだった料理を協力してつくり、
机を囲んで食べた。
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