─其の一『きっかけ』─
時計の針がちょうどてっぺんで重なった頃、俺達は酒を交わし合っていた。
久しぶりに三人と直接顔を合わせ、夜の九時から俺の家で始まった実況も、二時間ほどで終わりを迎える。撮影時間はいつもより短かったが、反対に沢山話し笑ったせいか、普段より体力を消耗した。その証拠に俺の腹はくぅ〜っと長めに唸り、思わず口を塞ぐように腹を押さえる。すると左隣に居た伊達眼鏡の男─牛沢ことうっしーはカカカッと笑った。
「すげー腹の音。飯食ってないの?」
「そー、昼からなんも…。腹減った〜」
素直な気持ちを吐露すると、そいつは左の口角を引き上げまた独特な笑い声をあげた。そこまで笑うか?と少し睨む。不意に肩に手が置かれ、違和感のある方へ顔を向けると、Vネックおじさん─ガッチさんも、俺も話に混ぜて、と言うように此方を覗き込んできた。
「よっぽどお腹空いてるんだね、何か食べる?」
「え、でも今から飯食ったら皆帰んの遅れない?」
「なんで俺らがお前の食事見守る前提なん?」
トイレから戻ってきた男─レトさんは、疲れているのかよりくぐもった鼻声で俺に突っ込む。
「あ、おかえり。聞こえてた?」
「お前の腹の音もな」
「そんなデカくなかったわ」
実況の時のようなやり取りをしながらレトさんはソファーに腰を降ろした。うっしーは思い出したようにまた口を開く。
「そういえばお前んちの冷蔵庫ってなんもないもんなー。食材あったら何か作ってやったのに」
「綾鷹ならあるけど」
「食材じゃねーし完成されてるだろ」
「確かに、気づかなかったわ」
めっちゃ馬鹿、とうっしーは笑う。それに釣られて俺もんふふ、と笑みを零す。いつもの不毛な会話を、ガッチさんはぶった切り、話を戻した。
「いや普通に飯食ったほうが良くない?コンビニで酒と一緒になんか買ってこようか?」
酒は余計だと思ったが、まだ一緒に居てやると示唆しているのか、それは分からない。だが、奢ってくれるような言い方に少し嬉しくなる。棚ぼた的な展開に期待して、確認するように俺は疑問を投げかける。
「なにガッチさん。女の子にしか奢んないんじゃないの」
「ゲームで勝てたから気分良いの。甘えるなら今だよ〜」
そう言って俺の頭をわしゃっと撫でる。撫でるというより崩すという表現の方が合ってるけど、不思議と不快感は無かった。
「あー、遂に自分から口に出したね。キヨ甘やかすなって〜」
「多分ガッチさん明後日には口座すっからかんよ」
話に入れていない二人は、俺を甘やかすのはまるで害とでも言うように、ガッチさんの発言にダメ出しをし始める。放置され続けた俺の腹はまた情けない声をあげた。
「なんか食いてぇ」
「ていうかガッチさんお酒買うなら俺もう家帰るけど。お酒も酔っ払いも嫌いだよ俺」
思い出したようにガッチさんのお酒買う発言にレトさんは釘を刺す。嫌なら帰っても良いよ〜、とガッチさんが軽く言うと流されるようにじゃあ、と腰を上げた。
「帰んの?」
「うん、言ったじゃん。あと俺普通に明日朝早いし、疲れたし。もう眠気限界」
くぁっとマスク越しに欠伸をすると、素早く荷物をまとめる。じゃあまたね〜、と眠気を含んだ声をリビングに残して、玄関を出ていってしまった。
暫く玄関を見つめていたが、キヨ、と呼ぶ声がしてそちらを振り向く。もう既に出掛ける準備を終えた年長組はお前も早く支度しろとでも言いたげに此方に視線を送る。だがその視線は俺への慈愛を含んでいる様な気がした。眉と目尻を下げた表情を見て、俺は年上二人の優しさに甘えることにした。
─其の二『罠』─
買い物を終え帰路につく。リビングに駆け込み、重たいビニール袋を机の上にドサドサと無造作に置くと、缶と缶がぶつかる音が聞こえた。走ったりするのは嫌いじゃないが、どうも体力が付かない。コンビニからの往復でも少し息が上がってしまっている。そろそろ俺もおじさんだな、なんて考えながら中身を取り出し並べた。
「あー腹減った!もう先食べていい?」
「手ぇ洗ってからな」
「お母さんみたいなこと言ってくる…」
促されるまま洗面所まで足を進め、手を洗う。冷たい水は外の寒さを思い出させ、少し体が固まった。鏡の前で自分を見つめる。空腹と疲労で顔がいつもより間抜けに見えた。
「さむ…」
独り言を呟くとより寒さが増した気がして、温もりが恋しくなり暖房の効いたリビングに早足で戻る。二人は飲み会の準備をしていた様だ。酒を自分たちが座る近くにセッティングし、ツマミの袋も既に開けられていた。ご丁寧に俺が飲む綾鷹もコップに注がれている。俺は二人と同様に床に腰を降ろす。俺がソファーの前、ガッチさんが俺から見て右斜め前、うっしーが左斜め前だ。四角い机だから大体いつもこんな座り方になる。
「お、来たな。お腹空かしてるキヨさんは何から食うの?」
「焼肉弁当から食ーべよ」
「また肉ぅ?偏食だなぁキヨは」
「ガッチさんには一番言われたくねー」
米と肉を咀嚼しゴクンと喉を鳴らした後、ガッチさんを横目で見やる。ガッチさんはそーだね、と生返事をして小粋な音と共にビール缶を開けた。それに釣られる様にうっしーも缶を開ける。うっしーがそれを少し掲げ、乾杯、と言うので俺もガッチさんも手元に置いていた飲み物をそれぞれ当てた。
「…っか〜!うまー!」
「ねー、美味しい」
よく酒を飲む二人は豪快に喉にアルコールを流し込んだ後、感想を述べる。本当に美味しそうに飲むものだから、此方も気分が良くなり酒への興味も少し沸く。が、酒を飲んでも意味ない俺にはいつもの綾鷹で充分だ。久しぶりのふわふわした雰囲気に、綾鷹も甘ったるく感じる。
─其の三『はじまり』─
「お腹いっぱいだわ…てか二人とも酒買いすぎだし…俺酔っ払いの相手はヤだよ」
「え〜?折角の機会だしさ〜沢山飲みたいじゃん」
「そーそー。流石ガッチさん。キヨも飲んじまえよ」
「いい。意味ねーし、飲まん」
「意味ねーなら飲んでも同じじゃん」
「うるせぇクソ一休」
ひどーい、と笑いながらうっしーは酒を煽る。俺は小さくため息を吐き、机の上のスマホを手に取りレトさんに連絡した。『レトさんマジで帰って良かったね』と相手に察させるような文面で。スマホを見ると深夜の十二時。レトさんはもう寝てるかな、なんて考えながら酔っ払い二人に視線を戻す。当の本人たちは楽しそうに談笑していた。ハブられるのは嫌いだ。三人で居るのだから俺も仲間に入れてくれ。そんな気持ちでソファーの足部分に預けていた上体を前に傾けた。
「なに話してんの」
「ん?キヨも参加する?」
「何が」
質問に答えないガッチさんに再度問うと、両手の人差し指を此方に向ける。
「乳首当てゲーム」
「はぁ?」
予想外の返答に思わず気の抜けた声を出してしまう。ガッチさんが言うとほぼ同時にうっしーはカカカッと笑い、缶を置いて同意した。
「しよーぜ。こういう馬鹿っぽいゲームがいっちゃん盛り上がんだから」
「ねー」
「ねー、じゃねぇよ!酔っ払い共!」
「えー?やんないのぉ?」
そう言いながら俺の上半身に向けた人差し指を近づけてくる。いつの間にか詰められた距離に少し身動ぐが、俺は近づいた人差し指を掴み、ジトッと睨んだ。
「しねぇって、この変態サイコパスVネックおじさん」
「え〜ひどくない?…てかキヨも変態じゃん」
「どこがだよ」
「おいおい〜その手の形は駄目だってキヨォ〜」
意味がわからず手元に視線を移すと、ガッチさんの人差し指を包むように俺の手が…。俺の脳みそは理解した後、しょうもなさすぎて呆れる。顔を上げ、二人に向けて不可抗力でしょ、と吐いた。ガッチさんは人差し指を抜いて、再びそのまま此方に近づける。
「ねぇキヨやろうよ、絶対盛り上がるって」
「しないって」
「逆になんでキヨはそんな嫌がってんの。別に減るもんじゃねーしさぁ」
「減るよ、俺のお前らの好感度」
「なんだそのパラメーター」
「普通にやりたくねーの!」
自分で乳首を開発してるから、なんて言えるわけがない。
最近、と言うには遠すぎるが、昔と言うには近すぎる。そんな頃俺は自分の自慰行為に満足出来ていなかった。自身を扱いても、後ろをイジっても、新しいオカズを探しても、スッキリイけることは無くモヤモヤしていた。そこで、ネットで見つけた『乳首開発♡ブログ』というのを冗談半分期待半分で開いたことがきっかけだ。そのブログには所謂チクニーについての著者の日記・記録が綴られていた。”日に日に感度が上がってとても気持ち良くてクセになってしまう”なんてことがつらつらと書かれていて、羨ましい気持ちと最近の不満が綯い交ぜになる。生々しい表現に興奮が積もった俺は、パソコンを閉じ、すぐベッドの布団に潜り込んで上のスウェットを脱いだ。開発出来たら恐らく感じた事のない快感が手に入るのだろう。興奮で手が震えるが、インナー越しに乳首の周りをくるくると焦らす。今まで乳首をイジったことは無かった。弱い刺激が結構気持ちい。
「は、…ぁ…」
ハマっちゃうかもな、なんてぼんやり考えながら数分焦らして、遂に本体に触れる。インナーの布地が擦れて気持ちい。指先や爪でカリカリとイジれば腰が跳ねて畝った。
「んっ、は…やば、けっこ、ぅ…良いかもっ」
やはり初めてだからか、上だけの刺激じゃ足りなくなる。ズボンをずらして、もう既に頭を上げた自身を欲望のままに扱いた。乳首をイジる手が震えて、指の腹がスリッと擦れる。思いもしなかった刺激に声が漏れ、扱く手が早くなり射精が近づく。
「く、ぅっ…、も、イくっ、で、る…っでちゃ…ぁ゙あ…っ」
語尾が裏返り、手を止めて欲を吐き出す。手元のティッシュを乗り越え腹の上に勢い良く白濁が飛び散った。いつも以上に早い射精と強い未知の快感にはぁはぁと息が荒くなり腰が震える。思ったよりも乳首の刺激に弱いらしく、指先が当たるとまた上も下も硬さを増した。
「ふ、すっげ…これ」
それから俺はいとも簡単にチクニーにハマってしまった。こんなこと誰にも言えるわけなく、自分だけの隠れた楽しみにしていた。疲れて帰ったらシて、お風呂中にシて、寝る前にシて。もう下だけの刺激じゃ物足りず、何なら上の方がよくイジるようになった。
そんなチクニー中毒者の俺は乳首当てゲームに参加する訳が無い。友人の前で痴態を晒すなんて事になったら、会うとき気まずいしなんなら暫く会いたくなくなる。だがこの酔っ払い共は俺の意思なんか気にもとめず自分たちの希望を貫こうとしている。
「頼むよキヨ〜」
「無理なもんは無理!」
「良いじゃん。ちょっと酔っ払いに付き合ってぇ?」
「やだって!ぅ、わ…っ!?」
ずっとガッチさんの方に体を向けてたせいで、うっしーが背後に移動していたのに気づかなかった。うっしーは脚を軽く開いて俺の体を挟む。脇の下から腕を入れると俺をグッと引き寄せ、釣られてうっしーに体を預けてしまった。俺のヘソの前で日に焼けていない白い手を結んでいる。まずい、本当にまずい。
「や、ホントに、待ってって…」
吐き出した言葉とは裏腹に、期待しているのか体は熱くなる。ガッチさんが前傾姿勢になり指先を近づけた。しかし俺は冷静になり、インナーの上にYシャツとセーターを着ていることに気づく。インナー越しだと刺激は来るかもしれないが、これだけ層があれば感触が届き辛くなり、刺激は弱くなる。流されるままゲームに強制参加させられたが、我慢すれば痴態を晒さなくて済むだろうと詰まっていた息を吐き出した。瞬間。
「ちょっと厚着すぎじゃない?こんなんじゃ分かんないよ」
ガッチさんがセーターに手を掛ける。思わずえ?と声が漏れた。スルスルと首元まで上げられ、協力する様にうっしーもセーター掴む。力が入っているせいで腕を上げてしまい、すんなり脱がされてしまった。ガードが緩くなり少し焦る。でもまだ、なんて思っているとYシャツのボタンにガッチさんの手が伸びた。
「ガッチさんっ、シャツは…っ」
「大丈夫、脱がさないよ。ボタン外すだけ」
一体何が大丈夫なのか。机とソファーの狭い隙間に大の大人が三人も詰まっているせいで、抵抗も出来ず大人しくボタンを外される。全て外した後、新居のカーテンを開ける様に胸元を晒された。ほぼ脱がされたようなもんだ。Yシャツが擦れ、久々の刺激にバレないよう小さく息を漏らす。
「さぁて、キヨの乳首はどこかな?」
アルコールが入っているからか、探している俺の乳首が勃っているのには気づいていないらしい。不幸中の幸い、なのか。指先が近づく度に腰が引けてしまいうっしーに寄りかかる。
「っ待って…マジでっ…」
「チャンス二回までね、ガッチさん」
「おっけー。キヨ、暴れると狙い定まんないよ。我慢してね〜…っと」
脚をバタバタさせて抵抗するが、膝を掴まれ脚と脚の間にガッチさんが割り込んできた。ガッチさんは少し股を開いてV字の様にしてから、脚を折りたたんで座る。ガッチさんの太腿に自分の脚を伸ばして乗せる形になった。脚を預けたおかげか、意識せずとも力が抜け、膝が軽く折り曲がる。なんか、この体勢…。
「んふ、なんか正常位みたいになっちゃった…」
「っ…何言ってんの、まじ」
「ドスケベガッチマンでた〜!wあーキヨ抱かれてる〜」
ガッチさんが体の距離を詰める。股間がお尻にぐっと当たって足先が少し跳ねた。ジーンズ越しの刺激に耐え、ガッチさんにやめてと意思表示する様に見つめる。しかしガッチさんの口は弧を描き、俺の腰を掴んで意地悪くまた押し付けてきた。
「ちょ、っ…やめ、てっ、て…ぅっ」
「反応おもしろ〜。なんか、可愛い」
「そういうの、っ…いいから、やるならっ…早く、やれよ…」
「…なんかそういう言い方だと別の意味に聞こえちゃうなぁ〜」
「キヨ、乳首当てられんの期待してんの?」
左耳にうっしーの髪の毛が掛かって擽ったい。耳元にうっしーの口が当てられ、柔らかい感触と不意の低い声に肩が上がる。うっしーの声を動画内でいい声だとイジることがあるが、それは本心だ。舌っ足らずだけど滑舌がよくて、耳に残る低い声。脳に直接響いて頭がポワポワする。うっしぃ、と名前を呼べば、なぁに、とまた甘く低い声が鼓膜に伝わった。
「それ、やだ」
「嘘つけ。キヨ、好きだろ?俺の声」
「すき、だけど、さ…今はっ…いい」
「素直じゃねーなぁ」
「ちょっとぉ、イチャイチャしないでよ。今からキヨの乳首当てるんだからさ」
ガッチさんは人差し指を向け直し、どこかなぁ、と探るように近づいてくる。やだやだと両腕を動かすが、うっしーが俺の手を絡め、一緒にヘソの上に結んだ。やばい、このままじゃ、くる。
取り敢えずここまで公開しときます!!!
もうちょっと書けたら続き出します🥰
コメント
4件
えまっっってやばい…今色々感情やばいんですけど、とりあえず、エロい。
すげぇぇぇぇ!!!!!!!!え?私よりも語彙力高すぎなんだけども…まぁそうだよな 天才なんだもの…あ あとてぇてぇ過ぎたのでここでも死にます _(:3」 ∠ )_
語彙力ありすぎて尊敬します、謎にボケとツッコミにツボりすぎてコメント遅れましたWWW続き待ってます😩😩😩