テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ディアボロと恋人となった日の夜。いつもなら他の同居人たちも居る筈だが、今日は空気を読んでか誰も居らず、ディアボロと僕の二人きりだ。 そこで一人用の布団に無理矢理二人の体をねじ込んで眠っていた。と言っても寝てしまったのはディアボロだけで、僕はずっと起きている。
何故ならプロポーズの後に渡しそびれてしまった指輪を持っているからだ。眠る前にはさり気なく渡そうと思っていたが、まさか布団に入ってすぐに寝るとは思わなかった。 仕方ないな、君は。…まあ、僕はそんな君を寝かせておいてあげる程優しくは無いのだけれど。
「ディアボロ、起きれるかい。」
「…ン、ンぐ……う…」
未だ空は真っ暗だ。いつも日が昇って暖かくなってから起きて来る君は、こんな時間に起こされたら怒るだろうか。そもそも、起きてくれるのだろうか。なんて事を考えながら君の広い肩を揺さぶる。君は眠たそうに「ぐう。」と鳴き声のような返事…否、返事のような鳴き声を上げる。
「僕の可愛いディアボロ、起きておくれ。君に渡したい物があるんだよ。」
ぐうすかと寝ている君の耳介に唇をそっと付け、まるで赤子をあやすように優しく囁いた。桃色の髪の毛から、ふわりとフルーティーな甘い香りが漂う。 僕とは同い年の君だが、性格も体格も香りまでも全く違う。僕はきっと毎日老いていくが、君は逆に毎日若返っていくのだろう。とすら思えるその美貌。 女性の手にしか美しさを見い出せなかった僕が唯一愛した生きている君。
「んん…あ…。まだ、朝じゃあない、ぞ…。きら…」
ふにゃふにゃと拙い発音で僕の名前を呼ぶ。そのまま開きっ放しになっている口が愛らしくって、柔らかくて厚ぼったい唇に人差し指を乗せてみる。 化粧をしている君は女性的な魅力があるが、この素顔も僕は魅力的だと思う。寧ろこっちの方が好きだ。 素顔と言っても睫毛は長く、肌もハリと弾力があって若々しい。頬のそばかすはコンプレックスのようだけれど、僕は可愛らしいと思うよ。︎︎ㅤ僕だけに見せてくれるありのままの姿の君は何よりも愛おしい。僕だけの君だ。僕しか知らない君。
「いけない子だね。僕がこんなに頼んでいるのに起きてくれないのかい?」
「ンー…なんだ、…どうしたんだ…。」
「渡したいものがあるんだよ、ディアボロ。手を出しておくれ。」
ㅤゆらゆらと不安定に差し出す滑らかで美しいその手に指輪をそっと嵌める。ほんの少し大きい気もするが、丁度いいだろう。君はすぐ無くしそうだが。
「これは後でネックレスにでもしようか?」
指輪が指に嵌められていないのは残念だが、失くされるよりはマシだろう。キラキラと輝く金色の指輪で飾られた指を撫でながらそう提案した。
「ンン…いや……しない……。……おまえがくれた指輪は…ちゃんと指につけとく……から。」
「…本当かい……!?」
いつもは自分勝手で我儘で傲慢な君が、珍しく僕の事を考えて、僕の案を否定した。いつもなら「僕の言うことが聞けないのか?」と聞くところだが、君のその判断は嬉しかった。 君に何かプレゼントをするのは大好きだが、こんな反応をされるのはもっと大好きだ。
「僕の事が好きなのかな、やっぱり。」
「…何を言ってるんだ……、愛してなければこんなもの…受け取らない。」
相変わらず眠たげな声と眼差しだが、気持ちだけはしっかり伝わった。君の手と君の体を抱き寄せて、抱き締めて。目を細めてクスクスと可愛らしく笑う君の睫毛にキスをする。軽く息を掛けてふわふわと揺れる睫毛まで愛らしいね。
「僕も愛しているよ。ディアボロ。愛してる。」
「ん……好きだ…吉良……俺も、…。」
「また明日、ディアボロ。おやすみ。」
「おやすみ。吉良…」
暑い布団の中で暑く厚く抱き合い、その夜を過ごした僕達だ。