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本日は快晴。父であるオズワット・ブランザスに伸尖剣という独特な
不思議剣の使い方を教わる事になったのだが……実際に目にすると、五歳の俺が
持つようなものではないことがわかる。
それは……長さと重さだ。
父は軽々と片手で持ち構えているが、俺は両手であってもまともに持つ
こともままならないし、長さも全くあっていない。
だが、止めるようなことは無く、俺の様子をじっと見ている。
「大きくなったな、ファウ。五歳か……父さんが五歳の頃なんて、こんなに
たくましく無かった。厳しい環境がお前を強く育てているんだな……お前は強い
男になる。そんな気がするぞ」
「父さん! こんな悲しい状況でそんなこと言わないでよ!」
「はっはっは、いいじゃないか。息子の成長っていうのは見ていて気持ちがいい
ものだ。さて始める前に、長さを調節しよう。ラギ・アルデの力、使えるんだったな」
「うん。でも詠唱がわからないよ」
「コートアートマ」
父さんがそう呟くと、手に持っていた伸尖剣がしゅるしゅると形状を変化
させ、三又の三本剣の形状をした槍のような形相となる。
「どうだ? 随分と形が変わるだろう。これが伸尖剣最大の特徴だ。
この地域にもしっかりとラギ・アルデの力は巡っている。伸尖剣に意識を
集中してファウもやってみろ。伸尖剣の調整だけなら、さして難しくはない
はずだ」
「うん! いくよ……コートアートマ!」
詠唱と同時に手からしゅるしゅると伸尖剣の持ち手にラギ・アルデの力が
伝わっていくのがわかる。そして……どんどんと小さくなり、俺が片手で振り回せるような
剣に変化した。
「で、出来た……? でも父さんの形とは全然違う」
「ファウ……お前本当に天才かもな。まさか一発で成功させるとは思わな
かったぞ。随分と小さいサイズだし、おかしな形だが……伸尖剣の長さは
持ち手によりその形状を大きく変える。今のお前には短剣がちょうどいいってことだ。
剣の形に関しては、お前も何れ悩むことになるだろうな」
「短剣? でも、これ包丁っぽいけど。これでどうやって戦うの?」
「伸尖剣っていうのは強力な剣であり杖だ。いいか、よく見てろよ。ガルン
ヘルア!」
それはエーデンさんの家で何度も練習した炎の詠唱術。
だが……俺が使っていたものとは大きさの桁が違う。
俺の炎をマッチと例えるなら、父さんが使ったのは暖炉で燃え上がるような炎だ。
それくらいの違いがあった。
そして、炎はただ放出されたんじゃない。伸尖剣……つまり今の父さんの、三又に
分かれた剣一本一本の先端から放出された。つまり三連火炎弾といったところだ。
「凄い! 一度に炎が三つも!」
「これが伸尖剣の正しい使い方。初歩中の初歩だ。お手本のような感じだろう?
自らの持つ能力をより強固にして発現させてくれるってわけだ」
「僕もやってみていい?」
「おいおい。ファウはまだ五つだし、さすがに炎の詠唱術は……」
やり方はしっかり見ていた。剣を自分の胸の高さまでもっていき、前方へ突き
出すように構える。 大きく息を吸い込み詠唱は一気に力強く。
目標を大きな雪塊に定めて……「ガルンヘルア!」
突如全身からラギ・アルデの力が暴走するように吹き込まれていく。
そして……自分の背丈を遥かに上回る大きさの炎の塊が、対象に向けて……
飛ぶのではなく炎の道を描いていく。
打ち出した勢いで、体の正面で握っていた伸尖剣の反動を受け、体に握っていた
手事あたってしまい、後方に体が跳ね上がる。
「何……!? まさか今のはラギ・アルデの暴走か!?」
「あ……つつ……う……」
「おい! ファウ、しっかりしろ! おい! だめだ、急いで家へ連れて
行かないと!」
何だったんだろう? 今の……ダメだ、気が遠くなる……。
どこで間違えたんだろう……。
意識が、遠のいていく。
――――あれ……。
――――どうしたんだろう。寝てた? 力が全然入らないから眼も開けられないや。
「ファウ、まだ起きないね。大丈夫かな」
「おじさんが言うには、数日は起き上がれないだろうし、危なかったって。
凄い怖い顔してた」
「ファウ……私があんな火の力なんて教えたから」
「トーナのせいじゃないよ。ファウ、凄く嬉しそうだったもん」
「でも……ファウが寝たきりになっちゃったら、トーナがずっと、面倒見るから」
「ダメ。それは私がやるの」
「なんで? エーテが教えたわけじゃないんだから私が見るの!」
「ダメ。一人で見てたら大変だから」
「それは、そうだけど……」
「あのー……二人、とも」
「ファウ!? 起きてたの?」
「力が……声にもだ。力入らないんだけど、言葉はどうにか、喋れるみたい。眼を開ける
力がないんだ。僕、どうなったの? 父さんに伸尖剣の使い方を教わってたところまで覚えてる
んだけど」
かすれ声でどうにか喋れる程度だ。全身の力が抜けたみたいだ。
「ファウが炎を出したら、凄い炎が出て倒れちゃったんだよ」
「凄く心配したの。おじさんの顔、怖かったし」
「そうか……僕の体、大丈夫なのかな」
「おじさんが、離れた場所にあるお医者さん、呼びに行ってるから。
丸一日寝てたんだよ。心配したよぉ……」
「トーナ、ファウに触っちゃダメって言われてるからだめだよ」
「わかってるよ。ファウ、どこも痛くない?」
「うん。痛みどころか……」
そんなすごい炎が出せたんだ。
この不思議な力のある世界。雪で閉ざされた場所。
こんな世界でまともに生きて行けるのか不安だった。
でも、もしかしたら……僕は少し戦える力があるのかもしれない。
己惚れるつもりはないけど。母さんを、エーテを、トーナを守る力があるの
かもしれない。
もしそうなら……「僕、竜に会える力があるのかなぁ」