テラーノベル
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翌朝七時。
眠い目を擦りながら、職場である駅前のショッピングモールの従業員専用出入口に体を差し込む。
「おっはよう!」
守衛のおじさんは毎朝元気で、少し羨ましい。
「おはようございます」
私は朝から、もうヘトヘトだ。
なかなか起きない息子を揺り起こし、機嫌の悪いまま朝食を食べさせ、保育園に着いたらば「イヤだ」と泣き出し足に張り付いた息子をひっぺがし、心を鬼にしてここまでやって来たのだ。
「あ、店長おはようございまーす」
出入口の先の通路にある自販機で缶コーヒーを買っていると、副店長の水瀬がやってきた。
彼女は明るくてお店のムードメーカーだが、少し抜けているところがある。しかし、シングルマザーで店長の私には、仕事上とても心強い味方だ。
「店長、朝から顔が死んでますよ?」
「あはは、休み明けだからね。息子が保育園行きたがらなくて大変だったの」
「そっかぁ、息子さんに愛されてるんですね、店長!」
そう言って、水瀬はこちらにウインクを飛ばす。けれど、疲れている理由はそれだけではない。
壱月のことを考えてしまい、寝付けなかったのだ。
だが、そんなことは彼女には関係ない。
私はいつも通りを装って、エレベーターを待ちながら、缶コーヒーのプルタブをぷしゅっと開けた。
水瀬と昨日の売上やら新発売のサンプルやら業務的な会話をしながら、ちょうど来たエレベーターに乗り込む。私のお店は八階だ。
「あ、そういえば店長」
エレベーターが上に登っていく中、水瀬が急に声をあげた。
「何?」
「今日、〝旦那さん〟来る日ですね!」
「ああ、そうか」
〝旦那さん〟というのは、もちろん壱月の事ではない。
壱月とマッチングアプリで出会う前まで付き合っていた、同期の真田壮馬の事だ。
私が妊娠した時、お腹の子の父親は壮馬だという噂が流れた。
噂なんてすぐ消えるだろうと、彼も私も否定しないでいたら、いつの間にか〝別れた恋人の事実婚〟という根も葉もない噂が広がった。
それで、壮馬は私の〝旦那さん〟と呼ばれるようになってしまった。
壮馬自身は、いつも笑って「仕方ないよ、みんな噂好きだし」と流してくれている。
ちなみに壮馬は、現場に残って店長になった私とは対照的に、今は本社で顧客満足向上を目指す部署にいる。今日はその調査での来店だ。
水瀬は「連れないなぁ」なんて言いながら、ちょうど着いた八階のフロアに降りる私の後ろを、ひょこひょことついてきた。
コメント
1件
うわ、朝のバタバタ感がすごく伝わってきました……! 息子さんを保育園にひっぺがす描写、リアルすぎて胸が痛みました(笑)。でも水瀬副店長との会話のノリは軽くて、店の空気感がよく出てましたね。それに「旦那さん」こと壮馬の噂の話、この設定めちゃくちゃ気になる……。壱月のことも含めて、今後の人間関係の絡みがどう動くのか、続きが楽しみです!
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