テラーノベル
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昼前十一時。
店頭にやってきた壮馬を見つけて、私はふうと息をつく。
彼は私と目が合うと、苦笑いを浮かべた。それで、私も苦笑を彼に返す。
噂が噂だけに、何度会ってもこうなってしまう。
十二時を回り、午後勤務の社員へ午前中の業務を引き継ぎを終えると、自身の仕事を終えたらしい壮馬に声をかけられた。
「大木本店長、昼、外に出る?」
壮馬は財布を手に、こちらを見ていた。
〝店長は店に来た本部の人間と共に昼を過ごさなければならない〟というこの会社の風潮はどうにかならないものか。
おかげで、私と壮馬は、他の従業員からの生暖かい視線を浴びながらランチに出なければならなくなる。
「うん」
私はため息を笑顔でのみ込み、苦笑いを浮かべて休憩室を出ていく壮馬を追った。
*
従業員出入り口から外に出て、大きく伸びをする。
「んーー!」
「いい天気だね、ちょっと暑い」
隣で壮馬が笑った。
「本当、雲ひとつない」
話し始めれば元恋人といえど、私と彼の間に気まずさなんてまったくない。
そもそも、付き合っていたのもほんの数ヶ月だ。
「あ、飛行機雲」
いつも行くカフェに向かう途中で、壮馬が息子みたいなことを言う。
それでつい空を仰ぎ、そして、思い出した。
「あーーーー!」
「どうした、愛音?」
飛行機から連想された、パイロットのアイツの顔。昨日、彼にもらったアレの存在を不意に思い出したのだ。
「あー、いや、何でもない」
慌てて取り繕ったけれど、そんな誤魔化しはきかないらしい。
「力になれることなら協力するって、愛音がシングルマザーになるって決めたときに言ったろ? 隠し事、なし」
「え、でも……」
仮にも、元カレである彼に言っても良いのだろうか。〝息子の父親に再会した〟ということを。
気まずさに、私は黙って視線をさまよわせる。
「あー……」
壮馬は頭をくしゃっと掻いた。
「あんまり詮索しない方がいいか。プライベートなこともあるもんな。うん、そうだ」
急にひとりで納得し始める壮馬を見ていたら、何だか笑えてきてしまう。
それで、ふっと心が軽くなる。
「……やっぱり話そうかな。聞いてくれる?」
それで、壮馬は「ははっ」と笑った。
「それでこそ愛音。図々しいのが愛音」
彼のこういう優しさに、私は何度助けられてきたのだろう。
*
カフェでご飯を食べ終わると、私は壱月と再会したことをかいつまんで壮馬に話した。
「花斗くんの父親に会ったんだ」
「うん」
「で、連絡先も知っている、と」
「うん」
彼は私の話を要約して繰り返す。
「で、愛音は彼に、何を話せばいいのかわらない、と」
「え! なんでわかったの!?」
思わず、食後のコーヒーをこぼしてしまいそうになる。
そこまでは伝えていないのに、壮馬はさらっと心の内を読んだのだ。
「そりゃあ、伊達に愛音の元カレしてないですから」
壮馬はなぜか得意げに笑みを浮かべたが、私はそれが理由でないとすぐにわかり、私はため息をこぼした。
「なに言ってるの」
「たった数ヶ月でも、恋人は恋人ですからね」
壮馬は「へへっ」と冗談っぽく笑う。
――そう、これは彼の冗談だ。
恋人だったから、わかったんじゃない。私たちは、似すぎているのだ。
だからこそ、私たちは別れを選んだ。
複雑な気持ちが胸を襲い、私は彼に曖昧な笑顔を返した。
すると、壮馬は思わぬ提案をしてくる。
「とりあえず、会ってみたら?」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声が出た。カフェの中に声が響いて、慌てて縮こまる。
そのまま周りをキョロキョロ見回したが、誰も私の声を気に留めていないようで安堵した。
「話すことなんて、会ってから決めたらいいよ。会っちゃえば、必然的に話さなきゃいけない状態になるんだからさ」
「そうだけど……」
彼の強引すぎる案に怯む私の声に被せて、壮馬は続ける。
「それで、沸いてくる感情のままに話せばいいよ。どうしてほしかったのか。これからどうしてほしいのか。決められないときは、それが一番いい」
「でも……」
「じゃあ愛音は彼にどうしてほしいのさ?」
壮馬が心の中まで覗くように、私の瞳を覗き込んできた。
そう言われると言葉が続かない。実際、どうしてほしいのかわからないから、こうなったのだ。
彼の子供であることを告げて、養育費を払えと申し出たいのか。
それとも、怒りたかったのか。当たりたかったのか。だったら昨日の時点で怒り狂っていたんじゃないか。
「……わからない」
「だよな」
壮馬はなぜか安心したように笑った。
「だから、会って話せばいいの。ほら、今のうちにいつ会うか、決めちゃいなよ」
「え!?」
「そうしないと愛音、いつまでも先伸ばしにするだろう? 仕事はきちんとしてるのに、私生活ズボラなの知ってるから」
そう言って笑う壮馬に急かされて、私はスマホを手に取った。
それから、手帳の間に挟んでおいた、あのメモ紙を広げる。
意を決し、壱月の番号を入力して、メッセージを送った。
すると、すぐに返信がくる。
「彼、何だって?」
壮馬は画面は覗かずに、私に聞いてきた。
「今夜どうかって。明日からは三日間、フライトでロサンゼルスって……」
「なら、今夜会っちゃえって。ほら、早く返信!」
「はい……」
言われるがまま、今夜彼と会う約束を取り付けてしまう。
「それにしても、フライトって……しょっちゅう海外行く仕事なんだ?」
「うん、パイロット」
「へえ、パイロット、かあ」
壮馬はなぜだか寂しそうな顔をして、カフェの窓の外に広がる空を見上げていた。
コメント
1件
美月ゆめかだよ〜🌸 第7話読んだよ! 愛音と壮馬の関係性、めっちゃ好き…元カレだけどお互いを理解し合ってて、でも「恋人の頃じゃなくて、似すぎてるからわかった」って切なすぎる😭💔 壮馬の「会っちゃえばいい」って背中押す優しさに泣いた。最後の寂しそうな空の表情も気になるよ〜!続きどうなるんだろう、壱月との再会ドキドキする⋆♡
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