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#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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鷹槻れん

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「ただいま」
玄関の扉を開けた湊が家の中へ声を掛けると、その声を聞きつけた詩音が奥からぱたぱたと小さな足音を響かせながら駆け寄ってくる。
「おにーちゃん、おかえりなさい!」
詩音はそのまま駆け寄ると湊の腰にぎゅっと抱きついた。
「ただいま」
予定よりも早く帰って来られたこともあり、詩音はまだ眠らずに起きていたようだ。
「湊さん、早かったね」
遅くなるだろうと思っていた和葉は驚いたように彼を見る。
見合いに行ったうえ実家にも寄ると言っていたから恐らく夜中になるだろうと思っていたからこそ、こうして早い時間に帰ってきたことが嬉しかったのか少し嬉しそうな表情が浮かんでいる。
「ああ、まあな。千宙、今日はありがとうな。真宙がまだ下にいるから乗せていってもらうといい」
「お役に立てて何よりです。それでは僕はこれで失礼します。詩音ちゃんまたね」
玄関先に置いてあった荷物を手に取りながら詩音に笑いかける千宙。
「ちひろおにーちゃん、またね!」
「佐武さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ。それじゃあ、おやすみなさい」
三人に見送られながら千宙は帰って行った。
「さてと、詩音、もう九時過ぎてるからそろそろ寝ようね」
「えー……」
詩音は途端に不満そうな顔をする。
「おにーちゃんかえってきたからまだおきてる!」
せっかく湊が帰ってきたのだから少しでも一緒にいたいらしい。
その様子に湊は小さく笑うと詩音の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「それじゃあ、お布団に入って一緒に絵本読もうか」
「ほんと!?」
詩音の顔がぱっと明るくなる。
「ああ。お風呂に入ってくるから、その間にお布団で待っててくれるかな?」
「うん! わかった!」
すっかり機嫌を直した詩音は嬉しそうに頷いた。
「それじゃあお兄ちゃんがお風呂行ってる間に寝る準備してようね」
「うん」
和葉は詩音の手を取ると、二人はそのまま寝室へ向かった。
それを見届けた湊は自室へ入って荷物を置くと、シャワーを浴びるために浴室へ向かった。
その間、詩音は和葉と一緒にベッドへ入り、湊が戻ってくるのを待っていた。
「おにーちゃん、まだかなぁ」
「もう少しよ」
「はやくこないかなぁ~」
詩音は絵本を手に何度もドアの方へ視線を向ける。
けれど、今日はお遊戯会に千宙と遊んだりといつも以上に動いていたことや九時を過ぎていることから次第に詩音の瞼が重くなっていく。
「…………」
ふと和葉が隣を見ると、詩音はいつの間にか目を閉じて規則正しい寝息をたてていた。
「ふふ……」
それを見た和葉は小さく笑った。
あれだけ、「まだ寝ない」と言っていたのに睡魔には勝てなかったらしい。
和葉は詩音を起こさないようベッドから抜け出ると部屋を後にすると、ちょうどシャワーを終えて脱衣場から出てきた湊と廊下で鉢合わせた。
「……あれ? 詩音ちゃんは?」
湊が尋ねると和葉は少し困ったように笑った。
「直前まで湊さんのことを待ってたんだけど眠かったみたいで……ついさっき寝ちゃったわ」
「そうか……悪いことしたな」
「仕方ないよ。それより……帰りが思ってたより早くて驚いたわ」
「……そのことも含めて、話があるから……リビングで話そう」
「……分かったわ」
二人はそのままリビングへ移動する。
「湊さん、何飲む?」
「……そうだな……ビールでも飲むかな……今日は飲みたい気分なんだ」
「分かったわ」
和葉は冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して湊の元へ歩いて行くと、一本を差し出した。
「ありがとう」
「ううん」
並んで座る二人は缶を手にしてプルタブを開けたあと、
「乾杯」
缶を軽く合わせると、それぞれ一口だけビールを口にする。
湊はそれ以上飲むことなく缶をテーブルへ置いたので和葉もそれに倣うように置くと、二人の視線が重なった。
「……和葉に、話さなきゃならないことがある」
「うん……」
湊は一度息を整えると、今日あったことを順番に話し始めた。
見合い相手の女性や父親が和葉や詩音の存在を知っていたことと、何を言われても縁談を受けるつもりが無いと断ったこと。
それを知った上でも諦めないと言われたこと。
そして、和葉が住んでいたアパートの部屋が荒らされた件について。
「……まだ確証はないが、部屋を荒らしたのも親父の仕業かもしれないんだ」
それを聞いた和葉は何も言わず、ただ呆然と湊の話を聞いている。
「すまない……俺のせいで」
「湊さん……」
「もっと早く気付くべきだった。お前たちが危険に巻き込まれる前に、俺が何とかするべきだったんだ」
湊は拳を握り締めると悔しそうに俯いた。
「恐らく、親父は俺を思い通りにする為なら今後も何か仕掛けてくる。だから……今すぐ全部捨ててでも親父と縁を切りたいけど……会社で働いている人間や、その家族まで巻き込むことになるから、簡単にはいかない。それでも――和葉と詩音ちゃんのことは必ず俺が守る。何があっても俺が守るから……安心してくれ。親父にも見合い相手にも好き勝手はさせない」
「……湊さん……」
その真剣な眼差しを見つめながら和葉は唇を噛んだ。
和葉は嬉しかった。
自分たちを守ると言ってくれたことが。
けれど、同時に胸の奥が締めつけられるように苦しくなった。
湊の隣にいる限り誰かに狙われ続けることに加えて、そのことで永遠に湊を悩ませてしまうことを。
それに、湊を信用していないわけではないけれど、万が一にも詩音に危険が迫ることになるのを何よりも恐れている和葉はゆっくりと顔を上げると真っ直ぐに湊を見つめた。
その瞳には、悲しみが滲んでいる。
「……やっぱり……私たち……一緒にいない方がいいと思うの」
「……なっ」
思いがけない言葉に固まる湊に和葉は悲しげに微笑む。
「やっぱり私たちは一緒になるべきじゃない……だから、私と詩音は、ここを出て行くわ」
それだけ言って立ち上がろうとした和葉を湊は、
「ふざけるな、そんなこと、させるわけねぇだろ」
低い声でそう口にすると、和葉の腕を引いて自身の方へ引き寄せた。
コメント
1件
もう、湊さんの「ふざけるな、そんなことさせるわけねぇだろ」が刺さりすぎた……! 和葉が詩音を守るために身を引こうとする気持ちも痛いほど分かるけど、湊さんの守る覚悟が本物で泣ける。親父さんの影も不気味だし、これからどうなるんだろう。二人のすれ違いが切ない回だった。