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その週末、私は花斗を連れてさっそく英会話教室の体験に出かけた。
今週末、壱月は海外フライトで帰ってこない。
「壱月が帰ってきた時に、花斗が英語しゃべってたら、壱月びっくりしちゃうね!」
そう話すと、「ぜったいにパパをびっくりさせる!」と、花斗は意気込んでいた。
教室内は、手前が大人のスペース、奥が子どものスペースと分かれており、その広い部屋の中をふたつにする小さな仕切りがある。
仕切りの端はいつでも子どもが行き来できるように隙間が空いているし、仕切り自体も低いので、いつでも子どもの顔が見えるようになっていた。
親子で通うとなると、子どもの英会話に大人が付き合うものだとばかり思っていたので、大人は大人で別のプログラムを習うことに驚いた。
この英会話教室の売りは、『子どもとともに、大人もしっかり身につく英会話』なのだそう。
先に子どもの教室の先生がやってきて、花斗に自己紹介をする。
引っ込み思案な上に外国人の先生を前にして、花斗の顔は険しくなる。
だが顔を覗き込まれると、花斗はもじもじしながらも小声で自分の名前を伝える。
すると、先生は「ハナト!」と息子の名前を大きな声でハキハキ答える。
それが、花斗は嬉しかったらしい。
「マミー?」
先生に聞かれ、花斗は私のほうを指差す。小さく手を振り答えると、「グッジョブ!」と頭を撫でてもらい、満足そうに笑っていた。
それから花斗は先生と少人数の子どもたちに囲まれ、わいわいと楽しそうに遊び始める。
遊びの中で、英語での会話を自然に身けさせるらしい。
子どもたちの様子が見れることにほっとしながら、私は他の保護者の方たちとともに大人用のプログラムを受けた。
日常会話レベルの英会話クラスに入ったのだが、最初から英語・英語・英語のオンパレードで圧倒されてしまった。
しかし、会話の流れは早くないし、先生も会話のペースをわざとゆっくりにしてくれているようだ。
身振り手振りも多く、さらに受講者同士が互いに会話をするターンもあったりして、楽しく通えそうだと思う。
レッスンの時間は一時間。
元気な子どもたちの声を隣に聞きながら、私たち大人もまた英語で会話をする。
新しくも楽しい時間で、あっという間だった。
体験を終えると、花斗はすっかり慣れたよう。子どもクラスの先生に「Hanato, bye」と手を振られると、
「ケリー、バイバーイ!」
と元気に手を振り返した。
「花斗、楽しかった?」
「うん! イングリッシュ、だいすき!」
そんな英語交じりの日本語に笑っていると、大人クラスのジョイ先生に声をかけられた。
「アイネさん! タイケン、どうでした?」
「楽しかったです! 息子も楽しかったようですし、ぜひ入会させてください!」
私の返事に、ジョイ先生はニコリと笑って「Of couse!」と答えた。
英会話は毎週土曜日。入会手続きをしてから、教室を出る。
花斗と覚えたての慣れない英語でたどたどしく会話をしながら、買い物をして帰宅した。
「マミー、あのね!」
夕飯の支度をしようとキッチンに立つと、唐突に花斗に呼び止められる。
「what up, Hanato?」
私も負けじと英語で返す。
花斗は「えーと、えーと」と繰り返し、それからパッと顔を上げた。
「ダディー! パパはね、ダディー!」
キラキラした顔でそう言われ、思わず可愛いと抱きしめる。
「じゃあ、パパが帰ってきたら『ダディー』って言って驚かせちゃおう!」
「おーけー!」
元気に答えた花斗に頬ずりをする。すると花斗は照れくさそうに「へへっ」と笑って、私の腕からすり抜けリビングの大窓へ向かった。
「パパ、はやくかえってこないかな」
窓にへばりつき、空港から飛び立つ飛行機を眺める息子。
きっと今、壱月は空の上だ。
私は、そんな小さな背中に声をかける。
「明日まで、忘れないようにしないとね。そのために、今から英語で話しますか?」
「話します!」
花斗がこちらを振り返り、ニコニコしながらそう言った。
*
翌日、壱月が帰ってくるやいなや、花斗が玄関にお出迎えに飛び出す。
「ダディー!」
大声でそう言って、言えたことにきゃっきゃと喜びリビングへ走って戻ってきた。
壱月はポカンとしながらも、花斗を追いかけリビングへ入ってくる。
リビングからその様子を覗きふふっと笑った私に、壱月が小さな声で「何? どういうこと?」と聞いてくる。
「ママがマミーで、パパがダディーなんだって」
「ああ、そういうことか」
壱月は納得して、それから「I’m home!」と花斗に笑いかける。
「花斗、英語話せるようになったんだな! パパ、びっくりした!」
そう言って花斗をぎゅうっと抱きしめる。
「えへへ」とはにかんだ花斗は、「らいしゅうもいくの!」と宣言する。
「入会決めたんだな」
壱月が振り返り、そう言う。こくりとうなずくと、「そうかー」と、少し寂しそうな顔をする。
その顔が、なんだかとても愛しかった。
コメント
1件
うわああ…花斗くんが「ダディー!」って言ったシーン、想像しただけで胸がキュッとしたよ😭💕 パパびっくりさせたい一心で英会話頑張る姿が尊すぎる!!壱月さんが寂しそうな顔するのも、家族の愛情がぎゅっと詰まっててほっこりしたよ〜。次回も絶対読むね🌸✨