コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
***
寝室から出て行く背中に、やっと声をかける。
「輝明さん、ごめんなさい……」
「病院が変わっても、以前と同じように体調が悪いのなら、不妊治療があっていないということじゃないのか?」
夫が部長に昇進したのを機に、引っ越した私たち。不妊治療するための病院を変えたのに、こうして床に伏せることが多いことに、苦言を呈されるのは、本当につらい。
「だけど病院を変えてすぐに、一度だけ妊娠したじゃない」
引っ越し後の忙しさで、流産してしまったけれど――。
「結果が出なければ、ないに等しいだろ」
身支度を整えた輝明さんは冷たく言い放ち、寝室から出て行ってしまった。
彼の一目惚れからはじまったお付き合いで、結婚まで無事に行きついた。結婚するまで、彼はキス以上のことをせず、奥手な一面を見せた。その意外な一面を垣間見たからこそ、私は彼のことをもっと知りたい思ったし、惹かれてしまった。
結婚してからは、夜毎に体を求められた。付き合っているときはきっと我慢していたのを示すように、何度も求められたけれど、愛を感じる行為に私は素直に嬉しくなった。
だけど結婚して1年経っても、子宝に恵まれない――子宮内膜症を患っている自身の病気のせいかと考え、産婦人科に足を運び、不妊の原因を探るべく夫婦で検査してみた。
私が子宮内膜症を患っていることと、輝明さんも精子の数と運動率の悪さが影響している関係で、妊娠しづらいことがわかった。
薬物療法やタイミング法など、不妊治療に代表的なものは進んで挑んでみた。体外受精や人工受精は作為的で嫌だと輝明さんに拒否されたけれど、それ以外の治療については、積極的に付き合ってもらえるのは助かった。
「最近、あの人にごめんなさいばかり言ってるわね、私……」
仕事の忙しい輝明さんに、時間を見て病院に付き添ってもらったり、高額な治療を払うために残業して稼いでくれている彼に、治療がつらいとか一旦やめたいなど、これ以上の愚痴を言うことができなかった。
年齢とともに、妊娠する確率は下がっていく。子どものできない焦りやかなしみなどで、気持ちがどんどん沈んでいったのだった。