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なんで。どうして笑うんだよ。そんな疑問と怒りが混じりあったこの思いを、全部この人にぶつけてしまいたかった。
mf.「どうしてそんなに自分を追い詰めて、逃げないんですか…ッ」
そう言ったのに、この人は何も言わずに僕の頭を撫でた。
視界が涙でぼやけて、表情は分からなかった。
そのまま何分か経って、なおきりさんはぽつりと呟いた。
no.「…さぁねッ…」
その時は、笑っていなかった。でも、もしかしたら笑っていたのかもしれない。
ただ、冷たくて、悲しい感情しか感じ取れなかった。
そろそろお茶の時間ですね、となおきりさんは紅茶を淹れてくれた。
恐らくこの雰囲気を変えるための口実だろう。
でももう僕は何も言うことができなかった。
なぜか、一番深いところにいるなおきりさんとしか話せない気がしたから。
とりあえず、この状況を飲み込むためにこくりと紅茶を飲み込んだ。
温かかった。でも、暖かくはない、気がした。
なにか話をしましょうか、とこの人は話し始めた。
小さい頃に行った遊園地や海や友達の家の話。
修学旅行の話。卒業式の話。
話は聞いていたけど、全部全部、偽りの話を聞いているような気分だった。
そうしているうちに話も尽きたようで、周りの音も聞こえない、無の時間が流れた。
でも、別にこの無は気にならなかった。
ずっとこのまま、時間が止まれば良いのに、と思った。
ふと隣にいるなおきりさんを見ると、目が合った。でも、特に何も言うこともなく、今度は目を合わせたままの時間が、3分くらいかな。
そのうち、この人はふはっ、と吹き出して、どうしたんですか?と訊いてきた。
この人、こんな風に笑うんだ。さっきの笑いは、ほんとの感情のような気がする。
心開き始めてるのかな。なんで初対面の俺になんだ。それとも、そう感じるのは気のせいか。
そういえば、なんか聞かれてた気がするな…なんだっけ。
no.「あ、あのー…?笑」
mf.「っわッ、!」
びっくりして声を出してしまった。
mf.「は、はい…?」
no.「いや、どうしたのかなーって、笑」
確かに、3分間も誰かと見つめ合うのは変だ。なんなら友達ですらないのに。今気づいた。
mf.「いや、特に…何も」
そうですか、となおきりさんは笑って、席を立ってどこかに行った。
冷めた紅茶をもう一口飲み込む。
冷たかったけど、今度は少しだけ、暖かかった。
そして、なおきりさんが戻ってきた。
no.「少しだけ、話して良いですか」
すこし声が震えていた。違和感を感じて横を見ると、なおきりさんはすごく悲しい顔をしていた。
なにかあったんですか、話なんていくらでも聞きます、って言うべきなんだろう。それは十分分かってる。なんなら、そう言おうと口を開きかけた。
でも、この人にはそれを言っちゃいけない気がした。だからといって反応しない訳にはいかない。そして、少しだけ視線を彷徨わせてから、できる限り柔らかい表情をつくって、こくっと頷いた。
なおきりさんは、ありがとうございます、とさっきよりも震えた声で言った。
ふと、なおきりさんの頬に涙の跡があることに気づいた。でも、目は赤くないから、さっき泣いたわけではないのだろう。
no.「…僕、別に貴方と一緒にいたいわけでは無かったです。」
ああ、そうなんだ。別にそれくらいならそんなに深刻な顔しなくてもいいのに。
mf.「そうなんですね」
no.「…怒らないんですか…?」
mf.「なんか怒るところありました、?別に、人なんてそんなもんでしょ。」
僕の周りもそうでしたし、という言葉は呑み込んだ。きっと、そっちの話にすり替えられる。
no.「なんか…」
なんか、なんだ?考えていると、小さいすすり声が聞こえた、気がした。
隣を見ようとすると、ぽたっと雫がなおきりさんの膝に落ちて、青いパンツに染み込んでいった。
すみません、という言葉が繰り返し聞こえてくる。その間にもどんどん雫が増えていく。
でも、この様子を見ても、なんの感情も湧き出てこないし、こうしてあげよう、なんていうのも思いつかなかった。なんでだろう。
本当なら、相談に乗ってあげたりしたい。というか、しないといけない。でも、する気にはなれなかった。やっぱりまだ、この人が僕を騙している気がしたから。
そう思う僕は世間一般でいう最低なんだろう。
するとなおきりさんは、こんな情緒不安定な人ですみませんね、と笑って、すみません、とまた謝って、玄関に走っていった。