ああ、言っちゃった……
はっきりと言ったから、森川さんに聞こえたよね
にわかに知り合った未成年の私の好意なんて、大人の森川さんにとってとても迷惑だと思いつつ、この今の胸が疼く様な甘い気持ちを表現したら『好き』という言葉しか出てこなかった
森川さんは一旦腕の力を緩めてから、再び私を強く抱きしめる
「好き、か。そっか」
「っ、……ごめんなさい。忘れてください」
羞恥で震える声でそう言うと森川さんは、クスリと笑った
「どうして、忘れなきゃいけないの?」
……えっ?
森川さんの表情が見たくても、羞恥心が邪魔して顔を上げられない
「今夜は一緒にいてくれるかな?」
私は、真っ赤になっている顔をなんとか上げて森川さんの顔を見上げた
「どういう、意味ですか?」
森川さんは切れ長の瞳を細めて、整った形をした唇に弧を描いた
「そのままの意味だよ。藍璃ちゃん、どうして俺がわざわざ部屋まで取ったか、知りたい?」
綺麗で魅力的な笑顔で、思わず吸い込まれるかの様に見惚れてしまう
「藍璃ちゃんと、このままで会えなくなるのは嫌だからだよ。……寒いね。話の続きは部屋でしようか」
『このままで』
その言葉が引っかかったけれども、私は早く森川さんの話の続きが聞きたくて、森川さんから再び借りたジャケットを肩にかけながら屋上を後にした
25階のあの部屋に、戻った
私は、森川さんにベッドサイドに腰掛けるよう促され、言う通りにする
ベッドにお尻を乗せただけで、マットに身体が深く沈んだ
ふかふかの寝心地抜群そうな、大人2、3人くらい余裕で横になれる大きなベッド
森川さんは部屋の小さな冷蔵庫から、ミネラルウオーターのペットボトルを取り出す
それからベッドの左側に鎮座する、ちょうど私から向かいにある大きなソファーに座ると、キャップを開けて水を飲んだ
飲み込むたびに動く喉仏に、視線が釘付けになった
森川さんの全ての仕草に見惚れている私に気づいた森川さんが、ペットボトルを私の方に差し出した
「飲む? 」
……えっ
い、いいのかな?
私は誰にも見られていないのに辺りを確認する様に、キョロキョロと視線をさまよわせてから、森川さんからペットボトルを受け取った
私はキャップを開けると、おそるおそるボトル口に唇を近づける
……これって、なんか恥ずかしい
森川さんが飲んだ後に飲むなんて……
ボトルを傾けて、ごくりと一口飲んでから直ぐに唇を離した
生まれて初めて大人の男の人と、もの越しにキスをした私は、そっと濡れた唇を指でなぞった
「藍璃ちゃんは、今すぐ帰りたい?」
不意に突然、森川さんが確認するように言った
「帰りたくないです。まだ、森川さんといたいです」
冷たいペットボトルを両手で持ってボトルのキャップを見つめたまま、胸が異常に高鳴っているせいで思考がはっきりしていない頭で即答した
森川さんは突然立ち上がると、ベッドに近づき私の隣に腰を下ろした
森川さんの体重が加わりマットがより深く沈み、シーツのシワが増える
「……後悔、しない?」
そう訊きながら森川さんは私からペットボトルを取り上げると、床に置いた
私に森川さんが近づくと、その拍子にマットレスが更に沈んだ
森川さんの手が私の頬に触れて、ゆっくりと輪郭をなぞるように、大人の男の人の大きな手で撫でる
「藍璃ちゃん、俺はこのまま君と何もしないで、東京には帰れない」
何もしないでって……じゃあ、何をするつもりなの?
私は、森川さんの先ほどより力強い瞳を見つめ返す
森川さんは私の顎をクイっと上に上げると首を傾げて、私にゆっくりと顔を近づけた
「目、瞑って」
低くて甘さを帯びた声が聞こえて、私はゆっくりと目を閉じた
目の前は暗い世界で、その中で私の唇を温かくて柔らかいものが塞いでいることが分かる
ゆっくりと少しずつ目を開くと、森川さんの顔がすぐそこにあって、私の唇を塞いでる正体がわかった
森川さんの唇が、私の唇に……!
生まれて初めて異性と……好きな人とした初めてのキスはすごく柔らかい感触だけを感じて、あとは煩いほど暴れ狂っている心臓の音にしか意識が向かなかった
「っ……藍璃ちゃん、嫌なら言って。互いのことを知らないのに色々と順序を飛ばしてこんなことをされるのが嫌なら、拒んで」
森川さんは唇を離してから、もう一度私にそう訊いた
嫌じゃないのが自分でも不思議で、私は俯きながら首を横に振った
「い…や、じゃない…です」
頬がカァーッと熱くなっていくのを感じながら、震える声で本心を言った
「それじゃあ、いいんだね」
森川さんは私の顔に触れて、両手で私の両頬を撫でながら上を向かせると、再び優しく形の良い唇で私の唇を塞いだ
少しずつ動く森川さんの唇の動きに合わせて、少しずつ唇の角度をつられるように変えていきながらキスをする
背中がざわざわし出して、心と身体が火照り気持ち良くなり、呼吸を忘れて触れ合うようなキスをしているうちに息苦しくなってきた
それを察したのか、突然森川さんが唇を離す
「息は鼻でするんだよ。これから少し激しいのをしようか。それで呼吸の練習をしよう」
森川さんは、私の首を支えるみたいに両手でしっかりと、私の顎と首の付け根辺りの部位を挟む
「軽く口を開いて、少しだけ舌を出して」
森川さんの言う通りに軽く口を開いて、少し見せるつもりくらい舌を出した
すると突然、森川さんは口を同じように開けながら唇を先ほどより乱暴に塞ぐ
口内にねっとりと、熱いものが差し入れられた
……えっ、えっ、えっ、これ、何⁈
これ、何⁈
口内で私の舌が侵入してきた熱いねっとりとしたものに絡められて、背中がざわざわして身体の奥がウズウズした
身体が自然発火するくらい熱くなっていき、口内ではおそらく森川さんの舌であるとろりとした熱いものが、動きを速めたり遅めたりしている
「んっ…、ふ…っ…。…ん…っ」
舌を這わせて、舌先を使って上顎を突かれたりするたびに、唾液を混ぜ合う濡れた音が響く
次第に気持ち良くなっていき、脳細胞が蕩け出してしまいそうになる
鼻で慣れない息をしながら森川さんにされるがままにされて少し経ってから、森川さんが濡れた音を立てて舌と唇を離した
私の口から透明な唾液が一筋シーツに垂れて、慌てて口元を手で拭った
恥ずかしい……けれど、さっきのキスはなんだったの?
「藍璃ちゃん、知らない男にこんなことされるのが嫌なら、抵抗してくれ」
森川さんは、私の濡れた唇を親指でゆっくりなぞりながら言った
「森川さんは、知らない人だけど、それでも好きです。だから、抵抗したくても……出来ません」
くらくらしながらそう言うと、森川さんは少し切なげな表情をした
「藍璃ちゃんは俺でいいの?一週間前に出逢ったばかりで互いに何も知らないし、それに歳も大分離れている。それでも、藍璃ちゃんは俺のことが好きなの?」
私が躊躇なく黙って頷くと、森川さんは意味ありげな微笑を浮かべた
「それじゃあ、今から俺がすること全てを、受け入れてくれるの?」
妙に低くて、甘さを感じる声色は私の身体の奥にある何かを刺激した
「受け入れるって、森川さんは私に何を、しようとしているんですか?」
震える声で言うと、森川さんは私の後れ毛を耳にかけながら目を細めた
「俺がしようとしている事が分からないんだね。それなら、教えてあげようか」
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