ミナミはペットボトルを取りに行って戻る途中、
恒が何かを言った。
声は聞こえなかったけれど、ひろが工具をしまいながら、
少し顔をそむけるようにして笑った。
……え、今の、照れてる?
ひろ先輩が、恒先輩に?
ミナミは、足を止めかけて、
そのまま視線をそらした。
なんか、見ちゃいけないもの見た気がする。
恒は、何事もなかったようにお茶を口に運び、
ひろは耳を赤くしたまま、工具を静かに拭いていた。
ミナミは、ペットボトルを持ったまま、
少しだけ距離を取るようにして席に戻った。
「戻りました……あの、さっきの、何か楽しそうでしたね。」
恒は、ちらっとひろを見て、ニヤッとして
「ひろが照れてた理由、教えてあげようか?」
ひろは、工具をしまいかけていた手を止めて、
ぱっと恒の方を向いた。
「やめてー……!」
恒は肩をすくめながら言った。
「別に変なことじゃないけど。
ちょっと言い方が可愛かっただけで。」
ひろは、耳を赤くしたまま、工具をしまいながら言った。
「恒の言い方が変だったんだってば……」
ミナミは、ふたりのやり取りを見て、思わず笑ってしまった。
「なんか、先輩ふたりって、ほんと仲いいですね。」
恒は、笑いながら言った。
「まあ、長いからね。
ひろの照れ顔、見慣れてるし。」
ひろは、工具をしまい終えて、
「もうほんとやめて……」と小さくつぶやいた。
ミナミは、笑いながらペットボトルを開けた。
さっき感じた距離は、まだある。
でも、こういう空気なら、少しずつ近づけるかもしれない。
「先輩ふたりって、バイト以外でもよく一緒にいるんですか?」
恒は、ペットボトルを口に運びながら答える。
「まあ、そこそこ。
ひろがひとりでいると、だいたい俺に連絡してくるから。」
ひろは、工具をしまいながら言った。
「僕がっていうか、恒が暇そうだから声かけてるだけです。」
ミナミは、笑いながらもうひとつ質問を投げた。
「じゃあ、ふたりって、どっちが先に仲良くなったんですか?」
恒は、少しだけ考えてから言った。
「俺の方が先にひろに話しかけた。
最初は無口で、何考えてるか分かんなかったけど、
気づいたら、自然に一緒にいるようになってた。」
ひろは、工具をしまい終えて、静かにうなずいた。
「僕、あんまり自分から話しかけるの得意じゃないから。助かってる。」
ミナミは、ふたりのやり取りを見ながら、
ペットボトルを持ち直して言った。
「なんか、いいですね。
そういう関係、ちょっと憧れます。」
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