テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#主人公最強
杯雪乃
1,381
ツナツナビール🍺
224
「へえ、虫除けの魔導具を売りにこんな
ところにまで……
確かに、外出時にあると便利かも
知れませんね、コレは」
コボルト族の青年―――
背丈からすると子供くらいに見える彼が、
例の魔導具を手にしながら語る。
「コボルト族にはそういったものは
無いんですか?
ええと……」
「あ、おいらの名前はジルアっていいます。
それで虫除けですが―――
こっちじゃ家の入口で煙をいぶして、
虫を寄せ付けないのが一般的ですね」
「ん?
それって一晩中?」
アジアンチックな童顔の妻が返し、
「そうですね。
火を絶やさないようにする必要があるんで」
「そりゃまた大変じゃのう」
次いでドラゴンの方の、モデルような顔と体の
妻が感想を述べる。
ルガシオン公国・コボルト自治区……
先だって『見えない部隊』3人と、
護衛の聖金樹騎士団の1人が泊まっていた
宿屋で、
私と家族は夜のうちに例の魔導具を設置し終えた
ブロウさんたちと朝食を取り―――
あくまでも商談の1つとして、それとなく
魔導具を従業員の彼に紹介していた。
ちなみに、一緒に魔導具を各所に設置していた
魔族女性2名……
イスティールさんとオルディラさんはそのまま、
魔王様を預けている首都オルレニアまでいったん
戻っていったらしい。
「じゃあコレ、こっちでも売れるかなー?」
黒髪ショートに燃えるような瞳を持つ娘が、
魔導具をかかげるように持つと、
「おいらは欲しいですね!
まあ、値段と相談になりますけど―――
コボルト族って匂いに敏感で、虫除けといえど
キツいんですよ、あれは。
これはそんなでも無いし……
外出時に持って行けるのなら、欲しい者は
たくさんいるでしょう」
ジルアさんは興味津々かつ、肯定的に魔導具を
評価してくれて、
「ふぅん?
じゃあ、あのメーローを売っておくれよ。
こっちはこの魔導具を買ってもらうって事で」
「空調服もお安くしておきますぜ?」
「あ、でもサイズを調整しておきませんと」
『見えない部隊』の3人―――
恰幅のいい赤毛の元マフィアの
女ボスと、
その配下だった痩せ気味のチンピラ風の男、
さらにそれ以上に痩せた男性が続くと、
「そういえばこちらは……
メーロー以外にもまだ何かありますか?
あれほどの味が同じ大陸内にあった事に
今まで気付かなかったのが、もう何だか
悔しくて」
アラサーに見える、緑の短髪をした筋肉質の
青年が会話に加わり―――
和気あいあいと朝食の時間は過ぎていった。
「では、参りましょうか」
「はい。
すでに中庭にて準備は出来ております」
ミドルショートの赤い髪をした、中性的な
顔立ちの人物と、
ローブに全身を包んだ者が2人……
深夜の屋敷内にて言葉を交わす。
ここは例の、『見えない部隊』や魔族たちが
突き止めた―――
虫や小動物を保管している施設で、
その中庭に、2人が月明かりを浴びながら
複数の箱の前に歩み寄る。
「ギムリ……
毒性はあなたの『倍化』で強化済み
なのですね?」
「はい。
あとはバンディーニ様の『ただ1つの命令』で、
いつでも出撃可能です」
そこにはそうやり取りする以外の人物はおらず、
2人は周辺を見回すようにして、
「ずいぶんと静かですが、他の者たちは?」
「他の計画もありますので、そちらへ回しました。
ここはもうすぐ、用済みになりますので」
バンディーニはその言葉にうなずくと、
「ただでさえ、聖金樹騎士団に目を付けられて
いたようですからね―――
それはいい判断だと思います。
しかし、見張りもろくに出来ない人材が
いたとは……」
「光聖勇者隊とは名ばかりの、
ただの私設兵ですから―――
利用出来るのはいいのですが、一定の質を
確保出来ないのが残念です」
ギムリの答えにもう一方はふぅ、と軽く
ため息をついて、
「次は、もう少しまともな人材が来る事を
期待しましょう……
では始めますか」
バンディーニは庭に設置された、複数の箱に
手をかざし、
「行きなさい―――
狙いはコボルト族のみ。
死をまき散らし、神の御業を見せつけよ。
ここを清浄の地とするのです……!」
すると箱は次々に上蓋が開くようにして、
そこから無数の黒い点々が湧くように出て、
やがてそれは、月を目指すように夜空へと
向かって行った―――
2人はそれを見上げていたが、
「……?
どうかしたのですか、ギムリ」
いつまでも見上げ続けているのを不審に思った
バンディーニが問うと、
「いえ―――
ただ、動きとしては少し妙だと思いまして。
そのまま四方八方に飛んでいくのだと
思っておりましたから」
「『ただ1つの命令』はその名の通り、
1つしか命令出来ませんし……
虫ですからねぇ。
出来たとしても、複雑な指示は無理でしょう」
そして空高く虫たちが飛び去っていくのを
確認すると、
「ではここを離れるとしましょうか、ギムリ」
「よろしいのですか?
結果を見届けなくても―――」
するとバンディーニは首を左右に振って、
「『ただ1つの命令』は発動しました。
そして『倍化』での毒性強化……
さすがにその結果を鑑賞するほど、
悪趣味ではありませんよ」
「わかりました。
では、ただちにコボルト自治区の外へ―――」
そうして2人は荷物を取りに屋敷へと戻った。
だがこの時、2人は知らなかった。
虫たちが解放後、即座に空高く舞い上がったのは、
すでに『見えない部隊』や魔族女性たちによって
虫除けの魔導具が、各所に設置されていたからで
あり……
上空へと飛んだ虫たちは、コボルト族への
攻撃命令と、虫除けの魔導具の板挟みとなり、
数日後、自治区の上空を飛びつ付けた虫たちは
力尽き―――
全滅して地上へ降ってくる事になる……
「へー、これ芋から出来ているんですか」
「根っこの幹をむくと実が出てくるんですよ。
それをいろいろな形にして―――
煮たり焼いたりして食べるんです」
(■335話 はじめての めろん参照)
昼食時、コボルト族の食事に興味を持った私は、
ジルアというコボルトの青年からいろいろと
聞いていた。
「(でもこれも……
イスティールさんやオルディラさんに
持たせたはずなんだけどねぇ)」
「(んー、もしかしたら『メーロー』の
印象が強過ぎて、放置されたのかも)」
ブロウさんと私はヒソヒソ声で話し合い、
「これ、芋モチとか出来ないかなー」
ラッチがお箸でそれを持ちながら話す。
確かに、芋系ならば茹でた後に片栗粉と
混ぜる事で、比較的簡単に作れる。
(■51話
はじめての しれん(かくにん)参照)
「そうだね。
どうも加工は簡単っぽいし―――
いろいろやってみようか」
「えーと、あの……
シンさんは料理人なので?」
コボルトの青年がおずおずと聞いてきて、
「まあ商人で料理人で―――」
「そして冒険者、というところかのう」
メルとアルテリーゼがいたずらっぽく
笑いながらそう言うと……
ジャーヴとユールさんも苦笑し、最後に
ブロウさんが豪快に笑い飛ばした。
「何だこれ!?」
「すっごく柔らかい!
それに伸びるぞ!!」
昼食後、彼らの芋で芋モチが出来ないかと
試してみたところ、案外すんなりと出来たので、
宿屋の人たちに試食してもらったのだが、
「この細長くしたのもバサキャか!?
スープにからんでよく合う!」
「この油で揚げたものもなかなか―――」
彼らの言う『バサキャ』という芋……
いろいろと加工・応用が利きそうだったので、
麺にしてみたり、コロッケにしてみたりと
様々な料理にしてみたところ、
いつの間にか近隣から他のコボルト族も
やって来て―――
宴会のようになってしまっていた。
「ちょうど昼時っていうのもあったからなあ」
「あの匂いはたまらないでしょう」
『見えない部隊』の男性2人が、ウンウンと
うなずきながら語り、
「特に麺類がねえ。
冷えたスープによく合う。
この暑さの中じゃ一番のごちそうだよ」
『見えない部隊』の中で、このメンバーの
実質的リーダーの女性が続く。
「いやあ、護衛やっていて正解でした。
こんな役得があるとは」
アラサーのガッシリした体格の、グリーンの
短髪をした騎士団の青年、ノクティさんも
舌鼓を打つ。
彼も一緒に昼食を食べたはずなのだが、
若いからかその食欲には目を見張る。
「ルガシオン公国の首都に行った事もあるが、
こんな料理は初めてだぜ。
……って、あんたらは他の国から来たん
だっけか」
コボルト族の1人がそんな事を口にすると、
「海の向こうから、さ。
商売の種を探しにねえ。
あと、そこにいるシンさんは目利きでね。
もし何かあるんだったら、いい機会だから
見てもらいな」
ブロウさんがそう言うと私に視線が集中し、
「そうですね。
仕事上、よく他国を回る事があるのですが、
その土地その土地の食事や文化に興味が
ありまして。
もし良かったら、見せて頂ければ」
そうして私は、コボルト族の食べ物や特産品を
見させてもらう事になった。
「ふむ―――」
「どうでしょうか、シン殿」
一応、コボルト自治区はルガシオン公国配下と
いう事になっているので、ノクティさんと一緒に
品々を見る事にしたのだが、
基本的には、コボルト族が公国から導入して
普及したものが一般的であり、
コボルト族独自のものはそれに取って
代わられたり、または廃れたりして、
基本的にはあまり残っていないらしい。
『バサキャ』や『メーロー』などは主食や
貴重な甘味として&差別意識などもあり、
見向きもされなかったので残されたものの、
めぼしいものはもうあまり無いとの事だった。
ある意味、正常な植民地支配と運営とも
いえるのだが……
「昔ながらの食べ物とか、伝統的な
工芸品とかは」
「残念ながら―――
そういうものから公国に目をつけられた
とかで」
ジルアさんが複雑そうな表情で答える。
「ん~……
ではジルアさん、この辺りを案内して
頂けませんか?」
「そ、それならお仲間の商人さんたちを、
すでに案内した事がありますけど」
彼がそう言うと、ブロウさんがその肩に
手をおいて、
「いいからいいから。
言ったろ?
この人は目利きさんだって」
「案内料ははずみますから、お願いします」
私が続けて頼み込むと、
「は、はあ―――
まあ、そういう事でしたら」
困惑しながらも彼は同意し、案内してもらう
運びとなった。
「おー、やはりこれは涼しいですね。
この暑いのに、移動が全く苦になりません。
そしてこの魔導具……
本当に虫が寄って来ませんよ」
後日、私たちはジルアさんの案内の下―――
近辺を見て回っていた。
すでに『見えない部隊』の3人、そして
ノクティさんは案内済みなので今回は同行せず、
家族と一緒に、コボルト自治区を一通り
自分の目で確かめつつ案内役の彼にも説明して
もらっていたのだが、
「食料難とかそういうのはないんですね」
「はい。
ただ、公国の支配下になってからというもの、
ノクティさんの言う通り……
便利な物はどんどん取って代わられまして。
昔ながらの物はもうなかなか」
植民地の悲哀を感じさせるような表情で、
コボルト族の青年は語る。
「んー、でもさ。
珍しい物でなくても」
「そうじゃ。
お主たちに取っては何でもない物でも、
他国では貴重という事もよくある話じゃぞ?」
メルとアルテリーゼがそう提案すると、ラッチも
それに続いて、
「栽培していなくても、そのへんの木の実とか、
または生活用品とか―――
そういうのって無いの?」
「むむ……
そこまで広げると、却ってどこから見て頂いた
ものやら」
ジルアさんは両腕を組んで考え込む。
まあ売り物になりそうな物を見せて欲しい、
という話なのに、珍しくない物をと言われても
困るだろう。
「―――あれ?
ちょっとお待ちください」
案内役が鼻をフンフンとならし、片腕を
平行に差し出す。
「植物の匂い、と……
獣の匂いが混じっている。
まさか、これは」
足早で彼は近くの木々やその葉を確認し始め、
「ヒルクの実!
という事は―――」
ジルアさんは、小さなブドウのように赤い粒々の
ついた枝を手に取って、
「どうしたんですか?
もしかして毒?」
「いえ、ヒルクの木はコボルト自治区であれば、
結構どこにでも生えている樹木で……
実にも特に害などはありません。
ただ問題が」
彼は鼻に神経を集中しつつ、周囲を見渡し始め、
「お?」
「何じゃあれは?」
妻2人が何かに気付いたように視線を向ける。
そこには―――
「……羊?
って、えぇ!?」
娘がそれを見て驚きの声を上げる。
みんなの視線の先にいたのは―――
地上から1メートル程度に生えた木。
しかしその先端には、羊のような動物が
存在していた。
「バロメッツです。
下が植物、上が獣……
という魔物。
こちらから近付かない限り危険はありません。
下がりましょう」
「危険、って―――
肉食とか?」
私の質問に彼は首を左右に振り、
「いえ、見た方が早いでしょう」
するとジルアさんは少し屈んだかと思うと、
「おっ!」
「むっ!?」
メルとアルテリーゼが声を上げる。
彼はそのままバロメッツとやらに突っ込んで
行って、
「メーーー!!」
と、半植物半獣の魔物が大きな鳴き声を上げ、
「わっ!」
ラッチがそれを見てまた驚きの声を上げる。
まるで竿の先端に取り付けたボールを
振り回すがごとく、ブォンブォンとその身を
四方へ突進させる。
ただ、距離的には生えている幹の部分しか
移動は出来ず……
しかしその半径の中で反動も手伝ってか、
猛スピードで暴れ回った。
そしてコボルト族の青年はその反応する
ギリギリの距離を知っているのか、
直前まで行って即座にこちらに戻ってくると、
バロメッツはすぐに動作を止め、
生えているだけの植物に戻った―――
「……というわけでして。
このヒルクの木が生えているところには、
なぜかあのバロメッツもいるんですよ。
ご覧の通り、近付かなければどうという
事はありませんけどね。
ヒルクの実も甘酸っぱくてマズいわけじゃ
ないんですけど、危険と引き換えにしてまで
食いたいものでも無いので」
やれやれ、という感じでジルアさんが
肩をすくめる。
確かに、このヒルクの木はあのバロメッツに
近いほど、多く繁殖している感じだ。
しかしこのヒルクの実?
はどこかで見たような。
「ただ食べられるだけなんですか?
特に効能とかは―――」
「そうですねぇ……
昔は薬として、気付けや眠気覚ましに
使われていたという言い伝えもありますけど。
少なくともおいらは、そんな用途で
使われているのは見た事ないです」
すると今度は妻2人が首を傾げて、
「あのバロメッツっていうのは?」
「確かに少々動くようだが―――
あの場所から動けぬのだし、楽に
狩れるのではないか?」
問題の魔物を2人して指差すと、
「肉が取れれば狩るんでしょうけど……
あれ、ほとんど体毛なんですよ。
しかもその体毛も、仕留めた途端に
すぐ枯れ木のように固くなっちまうんで」
あー、まあそうだよなあ。
普通に考えれば遠くから矢で倒せそうな
タンパク質を活用していないなんて、
考えられないし。
倒したところで手に入る物は少なく、
そして周囲の木々にも価値が無いとなると。
「んー、じゃあおとーさん。
このヒルクの実だけでも何かに
使えない?」
ラッチの言葉に私はうなずいて、
「そうだなあ。
もしかしたらこれは使えるかも
しれないし―――
そのためにはとにかく、あのバロメッツを
大人しくさせておくか」
「倒すのですか?
じゃあ、どこかから弓でも借りてきて」
「いやまあ、殺すまでは可哀そうなので……」
彼の申し出を断って、私はバロメッツへと
足を進める。
「ちょ、ちょっとシンさん!!
危険ですって!!」
慌てるジルアさんを家族が止めて、
「まーまー、見ていればわかるよ」
「我々の旦那も冒険者だしのう」
「確かに、周囲に生えているヒルクの実だけで
いいから、殺すのはかわいそうかも」
そんなやり取りを背中に、私が近付くにつれて
バロメッツは激しく揺れるように動き始める。
そして小声で―――
「半植物半獣で、さらに激しく動く事の出来る
生物など、
・・・・・
あり得ない」
「メッ!?」
私が無効化させるのと同時に、バロメッツは
ビクンと体を硬直させて、
「メエェエエ~……」
だらん、と手足を垂らすようにして、
大人しくなった。
「ね、眠らせたんですか?
誘眠魔法?
いや、起きている?」
バロメッツを近くで見ながら困惑している
ジルアさんをよそに、
「シンー、どれくらいいる?」
「結構あるのう、これ」
メルとアルテリーゼがヒルクの実を採取し、
「そういえばジルアさん。
これって貴重なものですか?」
「えっ?
い、いえ、先ほども言った通り、自治区内で
あればどこにでも生えていますので―――」
「じゃあ出来るだけ持って行った方がいいかな。
あ、そうだ。
ラッチ、持って来た調味料で砂糖とか甘味とか
まだ残っている?」
「そこそこあるよー。
料理に使う分なら、まだ大丈夫じゃない?」
そこで私たちは、そこにあった実の半分ほどを
持ち帰る事にして、
「食べるんですか?
まあ食べられないわけじゃありませんけど」
「えーと……
食べるというか、飲む?」
コボルト族の青年への答えに、彼も家族も
きょとんとした顔をして、
「じゃあ、いったん宿屋へ戻りましょう」
「は、はい!」
先導するジルアさんに家族がついていった事を
見計らい、私は後ろを向いて、
「この世界では―――
半植物半獣の生き物がいるのは、
・・・・・
当たり前だ」
と、最後にバロメッツを元に戻して、
宿屋へと帰る事にした。
コメント
1件
うわ、今回も面白かったです!コボルト族の生活や文化がじっくり描かれていて、世界観にどっぷり浸れました。特にバロメッツの存在がいいアクセントになってますね。「半植物半獣」という設定、それにシンさんが“あり得ない”と無効化してしまう場面、めちゃくちゃ彼らしくて笑いました。虫除け魔導具が結果的にあの陰謀を防ぐ形になったのも、伏線の効かせ方が上手いなと。裏で動くバンディーニやギムリの不気味さもじわじわ来ますね。次が気になります!