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篠原琴音 大学正門通過後
「久しぶりの大学だぁ。」
大学の門を抜けるとすぐに、大学生の賑やかな声があちこちに蔓延っていた。
「新入生たちは元気ですね。そろそろこの生活に慣れてきた頃合いなのでしょうか。」
大学の門の近くには、沢山の新入生限定の寮が存在する。所謂デルタ寮ってやつなのだ。新入生は入学してから初めにデルタ生の地位を与えられ、この寮に住むことになる。そしてガンマ生になるまで、ここで修行をすることとなる。また、ガンマ生に階級が上昇すると住む寮は大学の敷地の比較的内部へと変化する。残りの上位階級も同様に、階級が上がっていくたびに住む寮の位置が内部に近づくようになる。
すると、違うベクトルの賑やかな、いや、うるさい奴が近づいてきた。
「おーい、琴音ぇええ!、っと、今日も捕まえたぁ。一体いつになったら私との同棲生活を承認してくれるんだよぉ?」
そんな馬鹿げたことを言いながら、私を背後から両手で抱きしめて、きつく掴んでくるこの子の名前は、【神楽 葵】「かぐら あおい」、このような状況ではあまり言いにくいが、一応仲の良いメンバーの一人であり、私と同じアルファ学生である。
私はお腹の前で組まれた手を外しながら、
「そんなこと一度も言った覚えありませんけど?」
「何を言っとるんだ、この前私と一緒に同棲生活をしただろう?その時の家の管理人の人にも私を同棲者として紹介してたし…。」
「ちょっとまって、それはこの前の任務内容が一緒に同棲せざるおえない状況だったからですよ?管理人さんには任務内容を伝えるわけにはいかないので。
いい加減、その頑固な手を離してください。」
結構頑張って手を離そうとしているのだが、なかなか離すことができない。こ、こやつ本当に離さない気なんじゃ..。
「そっちがその気なら、私もやりますよ。知らないですからね。」
「えっ、なにをス…?」
私は葵の言葉を待たずに即座にホールドから脱出し、葵の手首を捻り上げた。
「イテテテテ!、離して!離して!分かったから、もうしないからぁ!。」
私は静かに葵の手を離した。
「ったく、ちょっと久しぶりに会ったからって、ハメを外しすぎないでください。」
「まぁ、ハメははめるものだからな!、はははっ」
「まだ言いますか?」
私は即座に葵の頭に大きく振り翳した手刀をぶち込んだ。
「グオッ。」
「頼みますから、もう私の手を煩わさないでください。」
「いや、ぶち込んだの琴音だから!私何も悪くないから!」
私はその言葉に少し呆れて、はぁっと溜息を吐くのであった。
「それにしてもすごいよねぇ、この人数のデルタ生は。新入生がこんなにも入ってくるのってみたことないよ。」
「そうですねぇ、今年は賑やかになりそうで何よりです。」
デルタ生を見ていると、昔の私達を彷彿とさせる。あんなに喜んでいるところとかも、数年前の私達と一致する。
「でも、世の中っていうのは残酷だよねぇ、組織インフラはあんな輝かしい学生の命を軽々しく奪うんだから。ま、国家機密情報が流出しないためにそういうことがあるのは、システムとしては当然なのかもしれないけど。」
「今更そんなこと考えていても仕方ないですよ。私達でどうにかできる問題じゃないですし。それに、私たちはこの組織のおかげで生かされて、世間体も申し分ないくらいに良いんですから。」
実のところ、私はあまり組織インフラが好きではない。更に、与えられた任務を着実にこなして、大金を得ることができる自分も、あまり好きではない。犯罪を犯したこの手で掴み取る大金ほど吐き気がするものはない。まぁ、インフラからの脱退は無理だろうから、渋々大学に通い詰めているんですが…。それでもあまり任務に関わりたくないため、普段は館内の掃除を全うしている。
「ところで、今日は何しにアルファ生のトップが直々にこのキャンパスへと赴いたわけ?それもいつもより少し深刻そうな顔をして。」
そんなに顔に出ていただろうか、この任務に対する気怠さが。あんまり見せたくはないのだが。
「昨日の夜、突然任務が私に送られてきたんですよ。」
「それってどんな内容の任務なの?琴音に依頼するぐらいだからよっぽど確実に行わないといけないものなのだと容易に検討がつくけど…」
「それが、私にもよくわからないんですよね。指定内容には、【インフラが今まで与えた武器を全て持ってこい】としか、書かれてなくて。」
「なにその任務、全く想像がつかないんだけど。でもまぁ、琴音が背負っているその大鞄の中になにが入っているのかは分かったよ。」
私が与えられる任務内容は、大抵が殺人である。組織的にも手際良くターゲットを殺して欲しいのだろう。こんなことは実力が伴っているアルファ生にしか頼めないことだ。でも今回の任務、いや任務と言ってしまって良いのかはわからないが、指定の意図が全くわからない。過去に、殺人に関する任務ではこのようなことは一度もなかった。つまり、新傾向。ろくなことが起こる気がしない。
「やっば〜い、そろそろ私、任務に遅れるからもういくね。任務後に、なにがあったのか必ず伝えるようにしてくれたまえ、琴音くん。んじゃあ、そういうことで〜い。」
そう言いながら私の肩をトントンと叩き、葵は私の元を去った。私は葵の走り去っていく背中に、小さく手を振るのであった。
【Plus alpha.】
=【+α】